蟹男 5話目
僕は、ソウとそろって大あくびをしていた。
それをながめて、ソレさんが笑っている。
僕があくびを終えると、ソレさんが「あの部屋でよかったら、帰れるようになるまでつかってね」と、おっしゃってくれた。
「ほんとですかっ!ありがとうございますっ」
『よかった』と、僕はホッとした。
異世界で宿なしは、難易度が高すぎる。
まあしかし、僕はソレさんから『部屋をつかって』と、言ってもらえることを期待していた。
さらにい言うと、昨日ハーフリング達の善人ぶりを身をもって知った僕は、異世界で行くあてのない僕を、放り出すことはないだろうと、確信していた。
『よかった』とホッとした大半は、その確信がはずれてしまうような運のなさを、自分が発揮してしまわなかったことに対してだ。
だけど、期待どおりになったら、そのあつかましい確信が露見している気がして、心地悪い。
「ほんとですかっ」なんて、まるで思ってもみなかったかの様に、驚きざまを盛って見せた恥ずかしさの尾も引いている。
なにが『ほんとですかっ』だ。
心のなかで、下唇をつきだして、おちょくるように、さっきの自分の真似をした。
まあ、だけど僕は、『たった一人で異世界に飛ばされた不運な人間なのだから、そんなあつかましいことを思ってしまうくらいは、許されるだろう。別に、あつかましい態度をとった訳ではないし···』と、正当化した。
こんな風に、余計なことに頭がまわるものだから、少し目がさめた。
さあ、さて···
「なにか手伝えることはありませんか?」
僕は、ソレさんにそう言った。
普段の僕なら、ずいぶん時間をかけてから、こう言うことに気がまわる。
それは、どういうことかと言うと。
たとえば、買い物先でだ。
店員さんが、僕に親切にしてくれたとする。
そのとき、親切にされたことへの感謝の気持ちがある。
にも関わらず、なぜかそれを言葉にするのを忘れてしまう。
そして、家へ帰ってから『なぜ、あのときにちゃんと「ありがとうございます」と言わなかったのだろう』と、あとで気づく。
と、言うようなこと。
だけれども、今回は目がさめたお陰で、肝心なところで、そんなことをしてしまわずに済んだ。
だから、あつかましさも、その正当化も悪いことばかりではない。
「うーん‥なにかあったかしら?」
とソレさんは、僕が手伝えることを考えてくれていた。
しばらくして「兄に聞いてみるわ」と返ってきた。
そしてさらに、「ソウっ、ソウっ」と、いつのまにかリビングから姿を消し、家のどこかにいるであろうソウへ呼びかけた。
すると外から「なーにっ」と、ソウの大きな声が返ってきた。
それから玄関のドアが開いて、ソウがうれしそうに「トイレ行ってた」と言いながら入ってきた。
ソウには申し訳ないが、やはり10才の男の子にしか見えない。
そんなソウに、「サアさんと叔父さんのところに行って、サアさんが手伝えること、なにかないか聞いてきてっ」と、ソレさんが伝えた。
と言うことで、僕とソウは支度をして、ソウの叔父にあたる、ソレさんのお兄さんのところへ行くことになった。
さあ、さて。
〈つづく〉
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