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蟹男 8話目



「ほらっ、いたよっ」


前を歩くソウが、進行方向をさしながらふりむいて、僕にいった。


「おじさーん」


ソウが、呼びかけるさきに、ハーフリングがみえた。


橋の欄干に腰をかけて、釣りをしている。


そのハーフリングは、僕らが近づくのを待って「よおっ」と、ソウに返した。


口ひげをはやした、中年男性のハーフリングだ。


つづけざまに僕を見て、「よおっ。にいさん、体はいいのかい?」と、いった。

なんと返していいか迷って、「おかげさまで」と返す。


なにが『おかげさま』なのだろう。


「おじさん、サアだよ」


ソウが、僕を紹介してくれた。


いよいよ「サア」という名前から、僕は引けなくなってきた。


ソウの叔父さんは、欄干をまたぐようにして、こちらに居直る。


欄干は、僕にとって、川への転落防止には、心もとない高さだ。


デハだ。よろしく」


と、ソウの叔父さんは、手をさし出した。


このまま、つっ立った姿勢だと、見さげて握手することになる。


それは、ためらわれた。


かといって、目の高さを合わせるようにかがむのも、子供に対する態度のようだし···


僕は、心なし程度に、膝をまげて「よろしくお願いします」といって、握手をした。


デハさんの、にぎりかえす力は、小ぶりな手からは、予想できない強さだ。


握手のあとに「魚は旨かったか?」と、きかれた。


きっと、昨日のシチューにはいってた魚だ。


「あっ、はい。おいしかったです」


さっきの、場当たりてきな「おかげさまで」が、体をなした。


それから、デハさんは「今日のぶんだっ」といって、あしもとのバケツに視線をおとした。


大きな川魚。


ハーフリングには、オーバーなサイズに思えるバケツ。


それでも、窮屈にみえる。


バケツの内まわりへそうように、体をしならせてじっとしている。


頭が疲れていたせいか、僕は気をぬいて、ぼーっと魚をながめてしまった。


いや、魚すらながめていない。


僕の焦点は、魚をとおりこし、地中にうまっていたと思う。


視界全体が、ボヤけていた。



「もっていくか?」


デハさんの、その言葉と同時に、魚は、りんかくを取りもどす。


僕は、呆けがぬけきらず、返事がおくれたが、問題はなかった。


「うんっ、もってくっ」


そう、ソウが返事をしていてくれたから。



「チャウ··じゃない、ソレの家の居心地はどうだ?」


僕は、デハさんに、そう問われた。


チャウ?


「よくしていただいて、感謝しきれないです」


その、僕の言葉を聞いて、デハさんは満足そうに、うなずいていた。



「ところでソウ、サアを連れてなにしてんだ?」


「えーと、なんだっけ···そうだっ。サアがね、なにか手伝えることはないかって」


「うーん··なにかあったかなー?」


さすが、兄妹だけあってソレさんと、リアクションが似ている。


顔はそこまで似ていないが···


兄妹だと知ってることで、かろうじて、目元など、似ているところを探せる。



「おじさんは、村長なんだよ」 


ソウが言った。


「名ばかりだけどな」


デハさんが、僕の手伝えることを考えながらも、ほとんど反射のように、そういい足す。


それから「ああ」と、何かひらめいたような表情をみせた。

そして、目線をあげ、僕の身長を見さだめ···


「あったわっ」と、言った。




〈つづく〉

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