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「どれだけの天才でもどれだけの馬鹿でも自分一人だけの純粋な世界なんて存在しえないんだ。…

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「どれだけの天才でもどれだけの馬鹿でも自分一人だけの純粋な世界なんて存在しえないんだ。」 ———『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』 パリで人間修行.

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吹けば飛ぶ一学生の、アンチ自己責任論

 近頃は、コロナウイルスによる社会混乱のせいで、多くの人が大変な目に合い、またたくましくもそれに立ち向かってこられたのだろうし、そして実際に今もそうなのだろうと思う。そんな最中、日本だけ見ても九州で大きな災害、海外に目を向けても、香港での自由民主主義への侵害やアメリカを中心とした黒人差別の問題が、コロナ問題と同時に目に入る。このように苦しむ人々がたくさんいる現実を日々まざまざと見せつけられるのは、非常に心苦しい。それらを見て、自分なりに考えて、心が消耗していくのを日々実感しま

    • 2022/7/8の日本の民主主義に寄せて

       2022年7月8日。この日起きてしまったような、残忍で、悲しい事件は起こってはならない。政治的な問題に立ち入る前にそもそも、衆人環視の中、善良な一市民がこのように殺害されることは本当に嘆かわしい。   そして誤解を恐れず言えば、2022年7月8日は、日本の民主政治の基盤が確かに傷ついた日だと思う。それも、深く傷ついたと思う。あるいは、深く傷ついていたことが明るみにでたのだとも思う。  この日、本当に悲しくも銃殺されてしまった安倍晋三元総理大臣はすごい政治家だった。ただ、

      • ジョウキョウ

        人待ちの駅で飲むスターバックスの味気ないコーヒー。 隣には日曜日に市況を分析する会社員。 背景では途切れることなく聞こえるピッという改札の通過音。 一つ一つを取り出して耳鳴りがしそうだとも思っていたはずなのに、人々の間断ない蠢きとその音を集合的に知覚した時、途端に世の中の物事や人々の営為の実体に確信がもてなくなる。ただし自分のスマホの画面を除けばだが。 そういえば、最近は勉強をしていないことにふと気がつく。 それもそうだ。頭がいい人間は、プラスチック素材になけなしの

        • Plaisir d'amour, Summer of Goodbye.

           大学院生時点のぼくは、6月末の夜が嫌いらしい。いやそもそも、日の出とともに起き、懸命に働き、健全に朝昼晩の食事を摂り、そして日の入りとともに眠りにつくような真っ当な人間であれば、この陰鬱でいまにも空気に黴が生えそうな季節など、好むべくもないのであろう。それにも関わらずわざわざ特筆せねばならなかったのは、ぼくという人間が、得意でもないアルコールを居酒屋でやせ我慢して流し込み、日の出とともに眠りにつくような至極健全な学生であるからに他ならない。  ぼくは今25歳で、あと何週間

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          ご近所カフェチェーンとの7ヶ月越しの対話.

          "Get Colourful, Nouvelle rencontre de Printemps!!  (Get Colorful, New encounter of Spring!!)" ーー「よい標語だ。」 そう思った。 いかにも春らしい。 春は新たな出会いの季節とよく聞く。 ーー「様々な人が様々な人と出会うのだろうな。」 そんな風に想像しながら、もう7日連続でこのポスターとだけ出会っていることに気づく。 ポスターの背景には、左斜め下から右斜め上に向かって、レモン、赤玉

          ご近所カフェチェーンとの7ヶ月越しの対話.

          ロッコ イン コーベ / Rocketshop in Paris

           六珈に行きたい。  六珈とは、2代目のぼくの下宿から徒歩5分の喫茶店だ。一杯一杯、じっくり時間を掛けてコーヒーを淹れてくれる、ヒゲを生やしたマスターの雰囲気が少々重厚すぎるため、カフェなどというハイカラな語彙は適さないと思う。やはり喫茶店と呼ぶのがふさわしい。  ぼくはあまり甘い物を好まないのだが、六珈にあるチーズケーキは好物である。もともとなぜか昔からチーズケーキが好きだったのだが、六珈のそれは格別である。「なにが格別なのだ」と問われれば、味に関する特別な語彙がないぼくに

          ロッコ イン コーベ / Rocketshop in Paris

          Avenue de France After Rain, Avenue des Champs-Élysées Insane.

          目にしているのは川のようなものだ。 左から右へと直線的に走り続ける車体。 水面に揺らめきながら流されていく外灯の光。 均一なリズムを確かめながら漸進するランナー。 僕の視野で繰り広げられているそれらは、全てが真っ直ぐだ。 単線的で無機質に見えながら、動的で力強い。 その動きの1つ1つは丹念な意思を持っているが、それでいて、なにかに強迫されているようにも見える。 それらは全て、同じ暗がりの中にいる。 そして見つからなさそうで、でもかすかに感じる、その先の光明のようなものをめがけ

          Avenue de France After Rain, Avenue des Champs-Élysées Insane.

          ぼくの話。

          この頃、ぼくの話を聞きたいと言われることがよくあるので書いてみようと思う。 文体も気にしない。 深いところまで出してみるとよいかもと言われたので、字数も気にしない。 でも、初めに断っておくと、ぼくは最近ぼくの話をするのが億劫で仕方がない。 ぼくはみなと変わらない、いたって普通の人間なのだけれども、ぼくにまつわる話が「特別」すぎて、ぼくを「特別な人」と呼ぶ人が多いからだ。 アイデンティティの話。 在日韓国人Ⅲ世。 あまり思い出したくもない差別体験は、首が据わったばかりの児童に

          ぼくの話。

          セーヌ河畔18平方メートルの浅慮

          セーヌ河畔パリ一区。 ルーブル美術館を横目にポン・ヌフを渡る。 なんとなく気になっている画材道具屋を通りすぎ、サンジェルマン通り付近のカフェに入る。 頼むのはエスプレッソ。砂糖は入れない。 「豊かな苦みは哲学の味だ。」そんなふうに背筋をのばしながら飲んでみるけれども、革命家たちの深慮にはまだまだ迫れそうもない。 ——「大統領のキャンペーンは悪くなかった。でも実際はなんていうか、多くの問題点を彼は提示している。ひょっとするとそれ自体がいいことなのかもしれないけれど。」シャネル

          セーヌ河畔18平方メートルの浅慮

          ソトとウチ

          駅前のカフェ。 今日来るのは2度目。そして2度目の水出しアイスコーヒー。 特にここが好きな場所だというわけではない。 ——ぼくの行きつけのカフェはバスでここから15分ほど行った別の駅前にある。ここはハンドドリップ選手権の全国大会で入賞したマスターの一杯が愉しめる。—— ただ、衝動的にソトに出たくなったのだ。 日曜日。夜20時01分。 閉店まで1時間を切ったこの時間帯で、まだ多くの人がなんでもない、けれども、なんらかの意味を持った必要を営んでいる。 左隣から30代くらいの女

          ソトとウチ

          雑感。

          雑感。【昨日】 深夜の駅でバスのこないバス停に佇む1人の女性。たぶん主婦。 気持ちよさげに石づくりのベンチに腰掛けている。 僕は電車に乗っていたときから付けていたイヤフォンを外して首にかける。 ミスターチルドレンの代わりに、学生らしき人たちの中身のない会話が聞こえる。 意識が内側から外側へと向くのがわかる。 「社会」はとらえどころがない。 一歩進むだけで輪郭が変わる。耳をふさいだり反対に耳をすましたりすると、中身が変わる。 【今日】 駅の中のソファに座る2人のおじいさんが

          雑感。