もう一度、ベジタリアンの栄養を考える
最近また少しベジタリアン関連の情報を集めていて、世の中のベジタリアン・ヴィーガンのアスリートの食生活をいろいろを見ていた。自分はヴィーガンでもベジタリアンでもないけれど、でもプラントベースの食生活を送っているので、やっぱり気になるところ。
食生活の話題になると、だいたいがどこでも話題の中心にあるのは、「タンパク質が大事」という点。最近のプロテイン市場の拡大もあって、タンパク質が大事というのは少し食生活に意識がある人ならだいたいは認識していることだと思う。
でも、タンパク質って「量」と「質」の問題があって、特にベジタリアン関連だと「質」の方があまり良くないとか、いやそんなことないとか、どこでも議論が多い。
ところで自分も、質を語る上で大切なポイントをちゃんと理解していない部分があるな、と思っていた。それは、アミノ酸スコアとPDCAASとDIAASという3つの指標のこと。
最新の情報ならDIAASを使うのが一番正確、という話は聞いていたけれど、さて何が違うのだろう? と疑問になったので、自分なりに調べてみた。
以下はそのまとめ。論文を最初から最後までしっかりと読んだわけではないので、正確性は保証できないけど、理解のためにざっくりまとめてみたので、誰かの参考にでもなれば、と。
アミノ酸スコア
たぶん一番馴染みがあるアミノ酸スコア。FAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)が1973年に提唱した、タンパク質の栄養価を測るためのもの。求め方は、次の計算式。
なんだか良くわからない感じかもしれないけど、ポイントは「第一制限アミノ酸によってスコアが決まる」ということ。
必須アミノ酸はバランス良く配合されていないと身体に取り込まれにくく、どれかひとつでもバランスが悪いものがあると、それに足を引っ張られてしまう。そんなイメージで考えると良さそう。
PDCAAS(タンパク質消化性補正アミノ酸スコア)
従来のアミノ酸スコアでは、単純に物質としてのアミノ酸組成だけにフォーカスされていて、実際にそれが吸収されるかどうか、つまり「タンパク質の消化吸収率」を考慮していなかった。
PDCAASでは、この消化吸収率を考慮に入れ、ヒトがどのくらい消化吸収できるのか、を計算式に加えた。つまり、こうなる。
これが1991年にWHOが提唱した、PDCAASという新しい指標。
でも、PDCAASが発表されたあと、実際にそれを使ってみると結構いろいろな問題があることが指摘され始めた。
この指摘はいろいろとあって、詳細に書いていると難しすぎるので割愛するのだけど、例えば消化吸収率というのが実際にはいろいろな条件で結構変わってきてしまったり、スコア100を超えるような場合もあってそのときの扱いをどうするのかで意見が分かれたり。(最終的に100は超えない、というのがPDCAASでの結論)
アミノ酸スコアよりも実態に近くなったけれど、でもまだまだ不十分だよね、という感じで、より良いものが模索された。
DIAAS
PDCAASを更に改良したものとして、FAOが2013年に定義したのがDIAAS(消化性必須アミノ酸スコア)。
基本的にはPDCAASと同じような計算なのだけど、背景にある考え方はいろいろと違っていて、でもまあそこは小難しいので割愛。計算式にすると次のように表される。
なんだか良くわからない計算式に見えるのだけど、つまるところ、それぞれの食品が持っている個々のアミノ酸について消化吸収率を考え、係数を掛けて補正したもの。なので、基本的にはPDCAASの考え方とそう大きくは変わらない。
でも、消化吸収率はもっとこうあるべき、ということがどんどん明らかになっていって、その結果を元にしているのでPDCAASよりは正確性が高い、はず。ということで現在ではDIAASを最も参考になる指標として扱っていることが多い。
特に、小さい子供と大人では吸収できる能力に差があるはずだからそこも考慮に入れられていたり、スコアが100を超えることを許容することで、複数の食品の複合状態を考えることができたり。
こう考えるとかなり実際に近いスコアとして考えることができそうな気もしてくるのだけど、DIAASにもやはりいろいろな問題がある。それについては後述。
各食品のDIAASのスコアをまとめるとこんな感じ。今回はベジタリアン関連の情報がポイントだと考えたので、植物性食品を中心にまとめている。
全体的に動物性食品に比べると、植物性食品のスコアは低い。世の中の言説はだいたいこのあたりのことをベースにしていて、それは確かに概ね正しい感じがする。動物性食品派の人も、植物性食品派の人も、どちらもこのスコアを認識して、その上で議論をしているように思う。
これはこれで、ひとつの事実(ファクト)だと思う。
DIAASの問題点
ここまで書いたように、徐々に改良されていったタンパク質の「質」を測るための指標。改良に改良を重ねたものとしてのDIAASなのだけれど、やっぱりまだまだ問題点はあって。
ひとつ大きな問題点としては、吸収率を算出する元ネタとしては、人間ではなくブタやラットが使われているものが多いこと(全てではないらしい)。
人間の吸収効率は、どうしても他の動物と同じとは言い難いと思うので、そうなるとこの補正率の信頼性って? ということになってしまう。
更に言うと、これは自分の感覚なのだけど、同じ人間でも住んでいる地域によって腸内細菌にはかなり違う傾向があるだろうし、もっといえば、同じ地域に住んでいる人間でも個々人でかなり異なる腸内細菌を持っている。
例えば、ヨーロッパの人々の身体とアジアの人々の身体が、まったく同じように消化吸収を行うのかといえば、そんなことはないはず。これまで人類がそれぞれの土地で積み重ねてきたの食文化は、どうしたってその土地ごとに独特の身体のしくみをつくってきた。
そうなると、この指標が自分にとってどれだけマッチするのか、というのは、なかなか一概には言えないのではないか、という気もしてくる。
PDCAASもDIAASも相当よく考えられたものなので、参考にはなると思うけれど、これが絶対に正しいということはないし(これはWHOもFAOも分かっている)、あくまで参考情報として考えるのが良さそう。
自分にとっての栄養とはなにか
結局のところ、数字にとらわれずに自分の身体で試した結果を信じるしかないのだと思う。知識を、つまり外部からの情報を元に頭で考えておくことはもちろん重要なのだけど、もっと重要なのは、自分の身体の変化や反応という内部的なもの。知識に溺れずに、自分の身体の声にしっかりと耳を澄ましてみることが大切だと思う。
このあたりは、先日読んだ「ダイエット幻想」で得た考え方かな。もっと自分の身体性を重視しよう。
巷ではスーパーフードと言われている食品でも、自分には合わないものもある。逆に、避けるべきと言われている食品でも、自分には別に悪影響がないものもある。グルテンとかは、自分としては特に問題ないのでグルテン・フリーにする必要はないし。
とか書くと、グルテンは絶対に避けるべきだ、という人が来るのかな。
あと、個別の栄養素にこだわりすぎるのも良くないと思う。食品は食品であって栄養素ではない、という考え。なので、サプリメントは摂らないと思っている。
考えが偏り過ぎかな。もしかしたらそうかもしれない。
ベジタリアンの栄養を考える - タンパク質の「質」
さて、一応DIAASがどんなものかを理解した上で、では植物性のタンパク質というのはどういうものか、というのを考えてみる。
上でまとめた表など、DIAASについていろいろと調べてみると、相変わらず大豆は優秀だなあ、という感想。一方で、小麦粉や蕎麦などのスコアはかなり低い。野菜類もあまり高くない、ということは傾向としては言えると思う。
全体的には、植物性食品のタンパク質は、動物性食品に比べて70%~90%程度と考えるのが良いと思う(参考リンク)。
つまり、タンパク質の量だけを見て考えてしまうとちょっと危険と言えそう。よく、
「1日あたり、体重1kgあたり1.0gのタンパク質を」
と言われるけれど、植物性のみで摂ろうとすると、もう少し多く必要になると考えたほうが良いかもしれない。全体的にスコアが80%程度と考えれば、
「1日あたり、体重1kgあたり1.25gのタンパク質を」
と言い換えられる。
一方で、これはDIAASの考え方としてもあったけれど、複数の食品による複合的な効果で不足しているアミノ酸を補い合ってスコアを押し上げることもできる。
有名な例だと、米に大豆。米に少ないリジンを大豆が補い、大豆に少ないメチオニンを米が補う。一緒に食べれば全体的にスコアが上がる、という考え。
そうなると、食材ごとのDIAASが80%だったとしても、食事全体として見るとスコアをもっと上げることもできる。
ベジタリアンの栄養を考える - タンパク質の「量」
ところで、上では例として「1日あたり、体重1kgあたり1.0gのタンパク質」と書いたけれど、これが本当はどの程度が良いのかは、議論が分かれている。
一般的には 「1日あたり、体重1kgあたり0.8~1.0gのタンパク質」がスタンダードだと思う。その上で、アスリートであれば「同、1.0~1.4gのタンパク質」で、筋トレのバルクアップのためには「同、1.5g~2.0gのタンパク質」という意見もある。
いろいろな研究論文を斜め読みした感じだと、確かに2.0g/体重kgとかでも効果はあるらしいのだけど、一方で多すぎるタンパク質は内臓(特に肝臓と腎臓)に大きく負担を掛ける。1.5g/体重kgと3.0g/体重kgでは筋肉への違いはなかった等の研究もあることから、タンパク質の「量」が多すぎるのも考えもの。
あと、タンパク質は必要としていないときに摂っても仕方がない。慢性的に不足しすぎな状態では問題があるけれど、不要なときに過剰に摂っても意味がない。この辺は、まるで電力供給みたいな話だな、と。
普通に生活をしている人~ある程度運動している人の範囲内(きっと80%くらいの人がカバーできると範囲)なら、基本的に「1日あたり、体重1kgあたり0.8~1.2gのタンパク質」を、運動後には少し多めに、それ以外の場合は毎食バランスよく、といったくらいで考えておけば良い。あくまで適量が重要。
総括して、では自分はどうするか
こんな風に、事実と意見を織り交ぜながらまとめてみたのだけど。
メリットもデメリットもあって、いろいろな考え方があって、個々人によっても変わってくるはず。こうなってくると、もう全部を計算するのはかなり難しい。
というか、やっぱり全部を計算でどうこうするのって、厳密にやっていくのはあんまり意味が無いかな、と思う。客観的に見える部分でもこれだけの種類のパラメータがあって多すぎるし、それぞれの人ごとに個性があってまた変わってくるし、もっといえばそのときの体調でもいろいろと変わってくるはず。
なので、リスク分散的な意味でも、「なるべく幅広く、いろいろなものをバランス良く」が良いのでは、と考えている。もともと「基本的に和食で野菜を中心に、なんでもバランスよく食べる」が自分の信条と 一年くらい前にも書いてみた けれど、結局そこに落ち着くのかな、と。
今の自分は、植物性食品を中心としてはいるものの純粋なベジタリアンではないし、肉はあまり食べないけれど魚は食べる フレキシタリアンな生活 を送っている。もう少しベジに寄せても良いかな、とは思いつつも、動物性食品をまったくのゼロにする考えは、持たなくても良いか、と。(ちょっと憧れみたいなものはあるけれど。)
ある程度の情報は頭の中に入れつつ、目で楽しんで、美味しそうだと感じて、しっかり味わって、適度なところまでしっかりと食べる。
それで良いんじゃないかな。
完全に余談だけど、ちょっと面白かった話。
アミノ酸スコアではなくDIAASを使った方がより正確、という話で、そうするとDIAASベースのタンパク質では、世界の人々がどれくらいタンパク質を摂っているのか、ということをまとめていた情報があった。
http://www.jdta.or.jp/dt/2022/72_2022_19-29.pdf
205の国や地域から、上位103カ国を抽出して、1日の平均タンパク質を グラム数→DIAASで補正 としてやると、必須アミノ酸のバランスがとれたたんぱく質摂取量が必要量(50g/日)を満たしている国は 103 国中 1か国も存在しなかったという結論を導き出している。
……これって、何か変じゃない?
世界の上位の国々といえば、それなりに健康で長寿の人もいるわけで、これだけ多くの人がこのような生活をして、もちろん病気になる人もいるけれど真っ当に生活している人もたくさんいる。だって平均なのだから。
それでもタンパク質が足りない、しかも1か国も必要量を満たしていない、ということなら、それは必要だと考えられているその量が、そもそも正しくないのでは?
しっかりと研究をしているわけではない自分が言ったところで何にもならないけど、何かちょっと変だなー、というか面白かったので書いてみた。
さらに余談。
ベジ中心の食生活1日3食分。これで見かけのタンパク質の量は61g。
食べ合わせや1食ごとの分量はいろいろと考える必要はあるけれど、これでも体重60kgの人がそれなりに必要タンパク質を満たせるくらいの内容だと思う。
上でも書いた通りDIAASベースだと少し低めになると思うので、これにあと10~15gくらいのタンパク質があれば良さそう。ベジ以外でもOKなら、卵1個とあと何か、くらいで達成できそう。
もちろん、トータルでのカロリー量としては1日分ギリギリのレベルなので、これにいろいろと足す必要はあるのだけど。何を足すのかはそれぞれのお好みで。
参考文献
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35267922/
https://www.todaysdietitian.com/newarchives/0217p26.shtml
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2161831322001612
https://www.fao.org/ag/humannutrition/35978-02317b979a686a57aa4593304ffc17f06.pdf
https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/43411/WHO_TRS_935_jpn.pdf
https://www.rigalo.jp/pickup/2023/07/21/123/
http://www.jdta.or.jp/dt/2022/72_2022_19-29.pdf
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html
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