葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂け…

葉桜色人(hazakura/sikito)

小説や散文詩などを書いています 気まぐれでイラストなども お暇なときに寄り道して頂ければ幸いです

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小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

独身の棚内昭子はこの道のプロである。この道と言うのは、スーパーのレジ打ちであった。地元のスーパーで働き始めたのは二十歳の春。 気が付けば28年も働いていた。年齢も四十八歳と肌の折り返し地点に迫る。見た目は四十代前半に見られるが、年々足腰が弱くなってきてると、最近の昭子は口にしていた。 それでもレジ打ちに関しては年々速くなると言っていた。つまり昭子は歳を重ねるごとに、レジ打ちのスピードが上がっているという訳だ。 それでも日によって調子が悪い時もあると教えてくれた。尋ねると

    • 第92話「世の中はコインが決めている」

       堂々と見るものじゃなかったけど、僕たちは狛さんの腹の傷跡を見させてもらった。生々しい傷跡。包丁で何度も刺されたと言うが、その傷跡から内臓が飛び出るわけでもなく、血が流れ落ちるわけでもなかった。  ただの空洞と言った方が正しい。傷跡の隙間から覗くのは、暗闇が広がっていそうな空洞だった。  狛さん本人に真実を伝えるのは辛かったけど、これは紛れもない真実であった。  僕たちが工場で組み立てていた謎のピース。ピースそのものを組み立てられた人間。そう、狛さんは普通の人間じゃなく

      • 第91話「世の中はコインが決めている」

         縁日かざりが部屋までやって来たときのことを語ろう。  露子から居場所を聞いて、縁日かざりは朝早くから出かけた。同時刻、露子が僕に連絡を入れた。ハナちゃんは深夜から朝方まで、縁日かざりのマンションを見張っていた。  その後、途中で切り上げてスナックに戻ってソファで一休みをしていた。  まさか、縁日かざりが早朝から出掛けると思わなかった。それで僕たちは安心していたのだ。何故なら、彼女にスナックの場所を特定されていないと思っていたから。  だが実際は、縁日かざりを見張って

        • 第90話「世の中はコインが決めている」

           正論くんから衝撃的な発言を聞いて、もっとも驚いたのはハナちゃんだった。  そりゃ、狛さんが一度死んでいると聞いたら、そんなリアクションになるだろう。だけど僕はイマイチピンときていない。一度死んだと言われても、曖昧な言い方だったし理由も聞かされていないからだ。 「どういう意味で言ってんの。正論くん、説明しなさいよ」と声を大にしてハナちゃんが言う。 「言うなれば、ハナちゃんの中で絵馬さんは一度死んでるだろ。でも、実際は生きている。その真実は変えようがない」と正論くんが冷静

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        小説「レジ打ちの棚内昭子は世界の数字を支配している」

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        • 潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く
          77本
        • 葉桜通信
          6本
        • 読切作品
          23本
        • 琵琶湖の飛び魚と呼ばれた男
          2本
        • 山小屋の階段を降りた先に棲む蟲
          3本
        • 合作小説きっと、天使なのだと思う
          10本

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          第89話「世の中はコインが決めている」

           正論くんがノートに書いた詳細を見せてくれた。十年前、絵馬カナエは銀次郎が設立した『名もない会社』へ誘われる。同時期、鳥居二子も誘われたと思われる。だが同年、鳥居二子は家を出て行ったきり帰って来ない。  数年後、銀次郎がスナックを訪れる。そして、草刈華子(ハナ)へ絵馬カナエが亡くなったことを話した。  このとき、ハナちゃんは絵馬カナエが銀次郎の愛人だということを知る。銀次郎本人から聞いたからだ。但し、絵馬カナエが亡くなった理由は教えてもらっていない。だけど実際は、絵馬カナ

          第89話「世の中はコインが決めている」

          第88話「世の中はコインが決めている」

           様子がおかしかったのは、縁日かざりだけじゃない。狛さんの様子もおかしかった。戸惑いながら、僕はゆっくりと狛さんへ近づいた。そのとき、背後でドアの閉まる音が聞こえた。振り向くと、正論くんが息を切らして入って来た。  どうして彼がここへやって来たのか、訳も分からないまま僕は正論くんを見つめた。 「やれやれ、間に合ったような間に合わなかったような。そんな感じみたいだな。やられたよ。まさか、縁日かざりの奴、部外者を利用して逆にこっちを見張られるなんて。すまない想定外のことだった

          第88話「世の中はコインが決めている」

          第87話「世の中はコインが決めている」

           駅へ到着すると、僕はタクシー乗り場に留まっていたタクシーへ慌てて乗り込んだ。この時間帯なら電車より車の方が早い。目的地を告げると、運転手へ急いで行ってくれと頼んだ。  向かってる途中、正論くんへ連絡を入れたが仕事なのか出てくれない。ハナちゃんに関しては連絡先さえ知らない。下手すりゃ、ハナちゃんだって危ない。  いや、ハナちゃんより、狛さんに連絡すれば良い。慌てて狛さんの電話番号を押した。  ツゥーツゥーと誰かと通話中なのか、狛さんが出てくれなかった。ヤバイ、何かあった

          第87話「世の中はコインが決めている」

          第86話「世の中はコインが決めている」

           真実がわかった以上、縁日かざりと直接会って止めなければいけない。そう決意したとき、僕の胸で泣きじゃくる露子が顔を上げた。 「はじめくん、もう一つ話があるの。私、逆らうことができないから従うしかなかった」 「何か命令されたのか?」 「実は数日前、突然かざりから連絡があったの。あの日の恐怖があったから言われるままに従った。深夜のファミレスに呼ばれて、ある事をやって欲しいと頼まれたの。それを成功させたらビデオテープも返すと言われた。だから私、彼女の言う通りにしたの」 「何

          第86話「世の中はコインが決めている」

          第85話「世の中はコインが決めている」

           始まりは廃墟へ行った日だった……  廃墟へ来てから、僕たちグループは二手に分かれた。倉木先輩と神宮寺と縁日かざり。そして、僕と露子の二人。そのあと、僕と露子は身体の関係を持った。 「あのとき、部屋に入る前、物音が聞こえたのを覚えていない?」と露子が訊いてきた。 「覚えてるよ。確か、僕たちの背後で物音が聞こえた。あのときは気のせいだと思っていたけど」 「あれ、かざりが私たちを後ろからつけていたの」 「でも、彼女は先輩たちと一緒に行動してたよね」 「うん。でも、彼女

          第85話「世の中はコインが決めている」

          第84話「世の中はコインが決めている」

           果たして、露子は部屋に来てくれるのか?これは一つの賭けだった。来なければ僕に対して隠し事があるということ。部屋に来てくれたら、縁日かざりと一緒に来るかもしれない。  それはそれで核心に迫れる。  迷った挙句、露子は部屋へ来ることを選んだ。一時間後に到着するということで、僕は待っていると言って電話を切った。  正論くんへ報告しようと思ったが、一人で解決したかったのでやめた。それに露子と縁日かざりが繋がってるのならば、僕の部屋へ来てもらった方が安全かもしれない。  きっ

          第84話「世の中はコインが決めている」

          第83話「世の中はコインが決めている」

           せっかくの休日だったけど、のんびり過ごすわけにはいかない。だが、何かしないと気が紛れなかったので、溜まった洗濯物を洗濯機へ放り込んでいた。  すると、テーブルの携帯電話が鳴り慌てて洗濯機の前から早足で部屋へ戻った。知らない番号だったけど、もしかしてハナちゃんかもしれない。  そう言えば、彼女と番号交換をしていなかったな。 「はい、もしもし」電話に出ると、数秒ほど間があった。  間違い電話?いや、かけてきた相手の息づかいが微かに聞こえる。どういうわけか話すのを躊躇って

          第83話「世の中はコインが決めている」

          第82話「世の中はコインが決めている」

           こんな非常事態にも関わらず、仕事は仕事として出勤しなければならない。早く、縁日かざりの件を解決させなきゃいけないのに。無意識に深い溜息を吐いてしまう。  工場が見えたとき、何度目かの深い溜息を零した。出入り口のチェックを受けて工場へ入る。更衣室で着替えを済ませて、持ち場に着くと生産数を目に通した。  チラッと絵馬さんを見たが、他の社員と愉しげに喋っている。  以前の絵馬さんに見られない光景だった。やっぱり、もう以前の鬼の班長と呼ばれていた彼女じゃない。僕と深い関係にな

          第82話「世の中はコインが決めている」

          第81話「世の中はコインが決めている」

           縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。  すると、急にピタッと泣き止んだ。あれだけ発狂して泣き叫んだ挙句、彼女は澄ました顔で虚ろな目をしている。感情の起伏が激しいとか、そんなんで片付けられない。ただただ恐怖を感じるのだった。 「ふふ、ふふふ、ごめん。ごめんなさい。私の勝手な独りよがりだったよね。そうよ、はじめくんは何も悪くない。悪いのはあの年増の女……」と縁日かざりは虚ろ

          第81話「世の中はコインが決めている」

          第80話「世の中はコインが決めている」

           僕が縁日かざりと出会い、最愛の恋人と別れた思い出。過去を振り返ってみても、縁日かざりという女性は不思議な存在だと思い出す。  物語は現在に戻り、縁日かざりの話を聞いてるところだった。 「私ね、まだ処女なんだよ」と縁日かざりが口許に笑みを浮かべて言う。 「そ、そうなんだ」と僕は真顔で言った。笑わないと約束したので、もちろん表情に出さなかった。 「驚いた?」 「いや、経験のない子は世の中に沢山居るだろう」 「普通は遅いよ。周りの女子は中学で経験するわ。私なんて化石じ

          第80話「世の中はコインが決めている」

          第79話「世の中はコインが決めている」

           理由を知りたいと言った時点で、僕はさっき聞いた話が頭に浮かぶ。廃墟で男女が情事を行なっている。麻呂さんが瞳だけを動かして、知りたいのか解答を待っていた。 「知りたいかな?」と少々マヌケな声で言った。 「……こっちに来て座らない」と麻呂さんがふっくらとした唇を動かして呟いた。  無意識に懐中電灯を消して、僕はベッドへ近寄った。緩やかな風を顔に感じながら、ベッドの上へ座るとギシギシと音が鳴る。  無言で見つめ合う。何が二人をそんな気持ちにさせたのか。ポニーテールの似合う

          第79話「世の中はコインが決めている」

          第78話「世の中はコインが決めている」

           ツンデレの麻呂さん、今はどっちなんだろうか。その辺のところはわからないけど、今夜は良く話してくれた。 「変な噂は聞いてたの。はじめくんは知ってる?」 「変な噂?知らないけど」 「廃墟サークルという隠れた目的のことよ。今日みたいな廃墟に女の子を誘って、良からぬことを考えているの。無理矢理じゃないらしいけど。それでも雰囲気に負けて関係持っちゃうらしいよ」と麻呂さんが眉を寄せながら言う。  そんな噂は聞いたことなかったけど、ホントだったら最低だ。ますます今夜を最後にしてサ

          第78話「世の中はコインが決めている」