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第81話「世の中はコインが決めている」

 縁日かざりが発狂したあと、大声で泣き叫んだ。目は充血して、鼻水を垂らしながら嘔吐しては泣く。呆気にとられて、僕はオロオロするしかなかった。

 すると、急にピタッと泣き止んだ。あれだけ発狂して泣き叫んだ挙句、彼女は澄ました顔で虚ろな目をしている。感情の起伏が激しいとか、そんなんで片付けられない。ただただ恐怖を感じるのだった。

「ふふ、ふふふ、ごめん。ごめんなさい。私の勝手な独りよがりだったよね。そうよ、はじめくんは何も悪くない。悪いのはあの年増の女……」と縁日かざりは虚ろな目をしたまま、呟くように言った。

「縁日さん……」と僕が手を伸ばそうとしたとき、彼女はソファから立ち上がって深々とお辞儀をした。そして、頭を下げたままボソッと「嫌いにならないでね」と呟いた。

 すると、彼女は僕の前から走り去ってしまった。バタンと玄関ドアの閉まる音が聞こえる。唖然としながら、僕はその場から動けなかった。

 失敗した。まさかこんな展開になるなんて予想できなかった。自供させるどころか、弓子さん殺しについても話しができなかった。

 しかも、逆に彼女を怒らせた可能性があった。どうすればいい、追いかけて説得させるか。いや、もっと怒らせて状況は悪くなる一方だ。

 今回、僕は完璧に失敗してしまった。まさか、あれほど狂気じみているとは予想してなかった。僕の想像を遥かに超えている。

 縁日かざりは嫉妬深いとか、そんな次元じゃない。僕だけに全てを捧げるため、歪んだ感情で生きているんだ!

 我に返って、正論くんへ失敗したことを連絡した。だけどこの日、仕事なのか正論くんは電話に出なかった。部屋の中をウロウロしながら、次の作戦を練ろうとしたけど、焦りだけが先行して考えが浮かばない。

 念のため、スナックに避難している狛さんへ連絡を入れた。直ぐに電話へ出てくれたのでホッとしたけど、作戦が失敗したことは告げた。

「こっちは大丈夫よ。うん、ハナさんから一歩も外へ出ないように言われてるから。うん、私は平気。わかってる。うん、はじめくんも気をつけて」狛さんはそう言って、電話を切った。

 声が聞けて安心はしたけど、危険が迫っていないとは断言できない。何故なら、縁日かざりは嫉妬深い女。邪魔者は殺してでも消そうとする。なんとか次の手を考えなきゃ。

この日、解決策も見えないまま一日が過ぎ去るのだった。

第82話につづく

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