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「企画書のつくりかたは?」「自分の売りをつくるには?」編集者がクリエイターのお悩みに答えました。──#創作相談RADIO レポート①

デビューを目指すクリエイターや物語をつくる作家からの悩みにお答えする「創作相談RADIO」を7月2日(日)にTwitterスペースで配信しました。『冴えない彼女の育てかた』『紅霞後宮物語』などの立ち上げを担当した編集者でnoteディレクターの萩原猛さんが答えた内容を、レポート形式でお届けします。

7月17日(月)に応募〆切が迫る投稿コンテスト「創作大賞」に応募をする方も、ぜひ参考にしてみてください。


Q.どんなジャンルも書けるのですが、突出した得意ジャンルはありません。テンポのいい会話が得意ですが売りになりますか?

萩原さん(以下、萩原) 「テンポのよい会話文」は最高の武器だと思います。「テンポがいい」というのは、伝わりやすいということ。伝わりやすいというのは、読者に届きやすいということ。これは作家としての売りです。

その上で、そこをさらに武器として磨くのであれば、得意な「テンポのよい会話文」に専門性を持たせたほうがいいと思います。たとえば「男女の軽妙なやりとりが得意」「男同士の粋な会話を書くのが得意」のように、もう一歩先まで踏み込んで武器をとがらせ、可視化させる。そうすると、たとえば編集者が「刑事バディものをやりたいな」というときに名前が挙がるようになります。

Q.ライトノベルやネット小説で「アダルト」のラインはどうなっているのでしょうか?

萩原 本に関しては、絵よりも文章はかなりゆるいと思います。想定される読者が引いてしまわないか、などで編集部や編集者が個別に判断することが多いと思います。ネットに関しては、プラットフォームの規約がそのままルールになります。プラットフォームごとに基準が明示されている場所もあれば、明確になっていないゆえに「警告」からまず入って、是正されなければ削除となる場合もあります。

禁止表現は、時代によって変わってきます。今引かれているラインがそのあと10年後も続くことはおそらくないので、その都度判断する必要があると思います。

Q.編集者はどこで作家を見つけていますか?

萩原 各レーベル主催の新人賞や、noteでやっている創作大賞のように、新人さんやあたらしい作品を探すためのコンテストがあるので、まずはそこで探すことが多い。次にネットがあります。この2つが大きなところです。

それ以外だと、私の経験では、人からの紹介ですね。作家さんやイラストレーターさんらと打ち合わせをする中で、「最近おもしろい作品に出会いました?」「おもしろい作品を書いている人がいるんですけど、読んでみます?」みたいな流れで紹介してもらうこともあります。

書いている作品がそのまま仕事にならなくても、魅力的なものが書ける方なんだということがわかれば、「こういうの書いてみませんか?」とご提案をし、実際に私が担当して商業作品になったこともあります。新人賞とネット以外だと、おもしろいかどうかが外から見えないので、自分よりアンテナの鋭い信頼してる誰かに紹介してもらうしかないですね。

Q.創作のための下調べ・資料調べが苦手です。作家として調べものをするために必要なことはなんでしょうか?

 
萩原 「必要だからやる」資料読みは、ある種の作業なので、楽しいと思う必要はないと思います。それよりも効率よくこなして、早く執筆に戻った方がいいです。

一方で、書く前に、自分の興味のあることを深掘りするために調べ物をすることは、私はすごく重要だと思っています。ミステリーに興味がある人が建築の本を読んでみるとか、ファンタジーを書きたい人が昔の騎士がどんな風に生きていたかを調べてみるとか。シャーロック・ホームズが好きな人がロンドンに行くと、ただ街並みをみるだけでも興奮すると思うんですが、そういうワクワクする感覚を得ることが一番大事だと思っています。

必要だから調べるんじゃなくて、まず興味がある場所に足を運ぶ、興味がある本を読むということを先にやって、ワクワクしたものや気になったものを自分の中に入れ、それをネタにする。そういう、楽しいと思える調べ物を見つけられると、苦手意識は薄れていくんじゃないでしょうか。

Q.主人公以外のキャラクターの設定に必要な情報量を教えてください。

萩原 主人公以外のキャラクターも作中においては人間なので、会話が自然に出てくるような情報量が適正だと思っています。「主人公と一緒にサウナに入っているとき」「ラーメン屋でばったり隣になったとき」など適当なシチュエーションを考えて、会話が自然に浮かぶかどうか。

身長が高い、髪が茶色い、などの情報を箇条書きで連ねていっても、そこからキャラクターは立ち上がらない。自分でキャラクターをいろんなシチュエーションに放り込んでみて、自然に動きや会話が想像できるようになるまでが必要な情報量なので、その状態になるまでは無限に書いてみたほうがいいです。

Q.企画書はつくったほうがいいですか? また、どうやってつくればいいですか?

萩原 私は編集者なのでいっぱい書きますが、作家さんも、自分の作品の企画書を、誰かに見せるためではなく、自分の書こうとしている作品と向き合うために、A4一枚程度にまとめて書いてみることをお勧めしています。

エンターテインメントには「見る前にわかるおもしろさ」と「見たあとにわかるおもしろさ」があります。「見る前にわかるおもしろさ」はタイトル、あらすじ、キャッチコピー。企画書は見る前のおもしろさを表現するもの。これはつまり、Webに小説をアップするときに「どうクリックさせるか」を考えることと同じなんですよね。

A4一枚だと、他人にも読んでもらいやすい。企画書を何枚も持っておいて、いろんな人に見てもらって、ブラッシュアップするなかで、「書けそう」「書きたい!」と思った瞬間が書けるときだと思います。そういう意味では、企画書を書くというのは、自分の中で熱を溜めることにもなりますよね。

企画を考える時のコツは、前回のオフライン創作会で作家の蒼月海里さんがおっしゃっていたことですが、今ヒットしているものではなく、それを見ているユーザーを見るということ。

私が過去に担当した富士見L文庫の『紅霞後宮物語』(著・雪村花菜)を例に挙げますね。あの作品を立ち上げた当時はまだ、中華後宮ものはキャラクター文芸ジャンルでは流行っていなかったので、企画会議でも反対の声が上がりました。企画を通すためにやったことは、ターゲットを明確に決めること。読者は、主人公と同世代以降、かつ、中華ものが多かったコバルト文庫やビーンズ文庫などの少女小説を過去に読んでいたひと。さらに具体化して、『彩雲国物語』や『ふしぎ遊戯』を10〜20代で読んでいた人、というところまで絞り、その方々に届く本にしたいと企画書に書きました。

さらに、周囲の作家さんにこのターゲットに近そうな方が多くいたので、「いまどんなものを見てますか?」と聞いてみました。そしたら、宝塚と韓流ドラマが好きな人がすごく多かったんですね。そこから、きらびやかな絵を描かれる桐矢隆さんにカバーをお願いすることにしました。

そこまで読者の解像度を上げると、自分の意見に説得力が出て、周りも説得できるし、帯やPOPにどんなキャッチコピーを書けばいいのかのイメージも出てくる。「届けたい読者」というところで、すべてに一本の筋が通ったんです。

編集者のテクニックとしては、もう一つあります。「別のジャンルのヒット作を分析して、持ってくる」という方法です。違うジャンルでもヒット作品は見えないところでリンクしていることが多いです。

これをやるときのポイントとしては、「このヒットを、小説でどう表現するのか?」と考えることです。たとえば映画のヒット作を小説にそのまま持ってこようとしても、映画と同じ表現方法はできません。そこにあるおもしろさを解体して、並べて、小説で表現できる形に組み替えるという思考は、身につけておいて損がないかなと思います。

Q. 書きたい作品があるが、調べると似たような作品があり、パクリと思われるのではないかと心配です。

萩原 気にしなくていいと思います。「書きたくないけど、ウケるために書こうと思っている」場合は別ですが、「書きたい」のであれば、まず心のままに書き切ってみましょう。そうすれば、自然と自分のカラーが出てくるはずです。

Q. タイトルをうまくつけられなくて悩んでいます。

萩原 商業作品の場合、タイトルは作家さんと編集者と、どちらがつけるかは半々くらいですが、ここでは編集者である僕がつける場合のお話をします。作家さんは中身をよく知っているので、中身がわかるタイトルやあらすじをつけることが多いんです。でも、タイトルやあらすじは「読んだあとのおもしろさ」を書く場所ではなく、「読む前にわかるおもしろさ」を伝える場所です。

じゃあ、どうやって「読む前にわかるおもしろさ」を伝えるのか?という話になります。ひとつの作品の中におもしろいところは、5個も6個もあると思うんですよ。でも、カバー、タイトル、帯のキャッチコピー、あらすじという場所をあわせても、読者に伝えられるおもしろさは、そのうちの一つくらいなんです。だからその一つを決める。

先に例に出した『紅霞後宮物語』の場合は、とにかく主人公がかっこよくて強い女性であるということを押し出すことに決めました。だからカバーイラストの主人公の衣装は重厚にしましたし、顔も“かわいい”ではなくて、強そうで厳しそうに見えることを重視しました。

タイトルの付け方に戻ると、一つ決めたおもしろさを、タイトルでどう表現するか。どうやって読者の目を引かせるか。テクニックとしては、「相反する単語を並べると響きやすい」「強い単語は目に残りやすい」というのはありますね。たとえば『やさしい竜の殺し方』(著・津守時生)という作品は、「殺す」という強い言葉が入っていて、そこに相反する「やさしい」が並ぶことでドキッとするんですよね。

あとは、中身を想像させる、期待させるというのも重要かと思います。タイトルとカバーと帯を見たら、読者は「こんな内容かな」というのを想像するんですよね。その想像する内容に興味が湧けば手にとって、想像した内容に沿っているかを確認するためにあらすじを見ます。そう考えると、「どういう内容と想像させたいか」から逆算してタイトルをつけるのがいいと思います。

最後に重要なことは、音読することです。音読してみて口なじみのいいタイトルは、見た人の頭に残りやすいし、響きやすいです。

Q: 最初のプロットから外れてしまい、うまく終わらせられるか心配です。

萩原 総論としては、終わりまで持っていけそうな手応えがちょっとでもあるうちは、何とか書き進めたほうがいいと思います。原稿は後から直すことができますし、完結させたところで見えてくるものもありますので。

ただ、どうやっても物語の辻褄が合わず、手が止まったままぐるぐるしてしまうようなら、その原稿は一旦寝かせたほうがいいかもしれません。

そうではなく、キャラクターが独り歩きし始めた結果、プロットから外れてしまいそうな場合は、そのまま書くことをお勧めします。なんとかなると思いますし、なんとかならなかったら、キャラクターと一緒に悩みましょう。キャラクターが動き出しているということは、設定表よりもいいキャラクターになっているということなので、それを手放すのはもったいなさすぎる。結果として、すごく長くなるかもしれないし、思ったものと違う作品になるかもしれませんが、時間があればそのキャラクターで別の作品を書いてみてもいいと思います。

持論ですが、キャラクターとシチュエーションが完璧にできていれば、物語は自動生成されるはずなんですよ。そのぐらいまでキャラクターをつくり込めれば、人間にすることができる。僕らだって先の人生なんかわからないまま、シチュエーションが与えられて、勝手に生きてたら勝手におもしろくなったりするじゃないですか。キャラクターが勝手に動き始めたらチャンスだと捉えてください。


【〆切迫る!】投稿コンテスト「創作大賞」開催中

noteでは日本最大級の投稿コンテスト「創作大賞」を開催中です。15の編集部と1つのテレビ局に協賛いただき、受賞作は書籍化や映像化などを目指します。

締め切りは7月17日(月)。応募はプロ・アマ問いません。詳細は特設ページをご覧ください。たくさんのご応募をお待ちしております!

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