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DX企画推進者は「個人事業っぽい活動を3ヶ月くらいやってみるべき」な件

はじめに

筆者は生命保険会社のCDOとして、社内のデジタル戦略や執行支援をする傍ら、顧問先やパートナー企業のDX支援、自治体向けのビジネス発想支援や官公庁のDX推進委員を務めており、日本全体のDX推進や人材育成のあり方を考える活動に携わっている。

この中で、JTC(日本の伝統的企業)の役職者からよく聞かれることに「なぜDXが上手くいかないのか」「社員から良いDXが提案されない」「ツール導入に終始している」などがある。その答えの一つにJTCの社員は、その構造上、商売や事業を細分化した役割分担の一部にしか責任を持たずに生きていくため「商売や事業の全体的な理解に疎い」ことがある。

DXはビジネスの改革であるのでビジネスに詳しいこと、商売や事業の全体を網羅的に理解していることが求められる。ビジネスや商売や事業とは、客にプロダクトやサービスを売って利益を得ることである。デジタルやデータを使って効率的にそれをやることがDXなのだから商売や事業に聡いことが必要だ。そのためには筆者はJTCの社員に「個人で(擬似的も含め)商売や事業をやってみること」を勧めている。

筆者は個人事業主的立ち位置でも動いているし、付き合いのあるDX企画推進者(CDOの人たちなど)はレストランやワインバーを経営している人なども多く、話をすると個人事業的活動が社内のDX成功に貢献していると強く感じる。このような理由により、DX企画推進者は「個人事業主的立ち位置であることが役立つ」と思っているのである。

そこで本記事では、DX担当者は「個人事業っぽい活動を3ヶ月間くらいやってみること」の意義を語りたい。こんなことを言うと「会社員なので副業は無理。禁止されている」というJTCの役職者の人が多いと思うが筆者は「副業しろ」と言っているのではなく「個人事業的立ち位置でビジネスを考える訓練が必要」だと言っている。

趣味でも個人事業的な活動はできるし、ビジネスネームで素性を明らかにしないでも活動はできる。お金をもらっていけないのなら、もらわないでもいいし、くれるなら寄付すれば良い。副業禁止を言い訳に取り組まないのはもったいないと言いたいのだ。やり方はあるので是非考えてみてほしい。

個人事業がDX企画推進者に与える「とても良い影響」

1. スピード感のある意思決定

個人事業主は一人で意思決定を下せるため、新しいアイデアを素早く実行できる。これはDX推進に非常に重要な要素である。JTCでは意思決定に時間がかかり、革新的なアイデアが埋もれがちだが、個人事業主は自分の判断でスピーディーに行動できる。この「素早い判断」がDXには欠かせない。自分ひとりで判断する訓練は、その後の会社人生に良い影響をもたらす。

2. 顧客ニーズの理解

個人事業主は顧客との距離が近いため、顧客ニーズを直接的に把握できる。DXの目的は顧客価値を高めることにある。個人事業を通じて顧客との接点を持つことで、顧客が真に求めているものを理解し、DXの方向性を定められる。

経営会議でDX関係の事業を通す場合、経営から「市場に受け入れられるのか」と問われた場合「これからなので分かりません」と下を向いて答えるのと「ペラペラと消費者ニーズを答える」のでは結果がまったく異なることが想像できるであろう。

3. 柔軟性と適応力

個人事業は事業環境の変化に柔軟に対応できる。DXでは技術の進歩や市場の変化に素早く適応することが求められる。個人事業主は自分の判断で方針を転換できるため、変化に対応しやすい。また、DXには試行錯誤が付き物だ。

個人事業主は失敗を恐れずにチャレンジでき、仮に失敗しても経験から学びを得られる。JTCでは失敗が許容されにくい風土があるが、個人事業主は自分の責任で失敗を受け入れ、次のステップに生かせる。

「個人事業をやってみる」具体的なステップ

1. ビジネスアイデア

自分の強みや興味のある分野を基に、DXに関連するビジネスアイデアを検討する。Webマーケティング、データ分析、クラウドサービス活用など、自分の専門性を活かせる領域を選ぶ。趣味でも良い。尖っている他者と差別化できるものが良い。鉄道、登山、旅行、料理、生成AI、プログラミング、資格試験、セミナー運営、パーティー運営などでも良い。ポイントは人に「すごい」と思われることだ。そういうものを探してみよう。

2. 市場調査と競合

選んだビジネスアイデアについて市場調査と競合分析を行い、顧客ニーズや競合他社の動向を把握して自分のビジネスの方向性を定める。この過程でDXに関する知見も深まる。SNSやネット情報で関連商材やコンテンツの人気度合いが分かる。これが良い市場調査になり、自分がつくるべきプロダクトが分かる。そうすれば、ビジネスの方向性が見えてくる。

3. 最小限の投資

個人事業は大規模な投資を必要としない。最小限の資金でスタートでき、自宅をオフィスにしたりフリーランスとして活動したりして固定費を抑えられる。NOTEで記事を有料で売ってみても良い。自分の記事はコンテンツ商材である。これを有料で売ることが如何に難しく、工夫がいるかが良く分かって勉強になる。

4. デジタルツール

プロジェクト管理ツール、コミュニケーションツール、会計ソフトなどを駆使し、効率的に業務を進める。これらのツールを使いこなすことはDXを理解する上でも役立つ。今であれば生成AIであろう。コンテンツ記事を書くのも、SNSで投稿するのも生成AIが便利だ。これを駆使して個人ビジネスを効率的に設計することが重要だ。

5. 人的ネットワーク

個人事業主は一人で全てを担うのは困難なため、同業者や異業種の人々とのネットワーク構築が重要。勉強会やイベントに参加し、SNSを活用して交流の機会を増やす。DXに関する最新情報も入手できる。SNSのグループに入ると効率的だ。仲間を増やして、同時に販売しようとしているプロダクトの意見を聞いたり、モニターになってもらったり、実際に販売する相手としても有効である。

個人事業経験がDXにもたらすもの

このような経験を通じで、「DXリーダーとしての能力」が磨かれる。個人事業経験を通じ、スピード感のある意思決定、顧客ニーズの理解、柔軟性と適応力、失敗からの学びといったDXリーダーに求められる資質が身につくのだ。また「 組織文化の変革」を先導できる力も付く。個人事業で培った経験は、既存の文化や慣習に縛られがちな大企業の組織文化の変革に役立つ。自由な発想で新しいことにチャレンジする経験を組織に持ち込むことで、イノベーションを促進できる。

さらに、「 デジタル人材の育成」の良いケースとなる。個人事業を通じてデジタルツールの活用方法や最新トレンドを学び、その知見を社内のデジタル人材育成に生かせる。経験者が社内で知識を共有し、組織全体のデジタルリテラシーを向上させられる。

「 新たなビジネスモデルの創出」にも役立つ。顧客ニーズを直接把握し柔軟に対応することで、今までにない価値を提供できる新たなビジネスモデルの創出にもつながる。DXは単なる業務効率化でなく、ビジネスモデルの変革を目指すものだ。

まとめ

DX企画推進人材としてDXを成功させるには「個人事業経験」が有効だ。スピード感ある意思決定、顧客ニーズの理解、柔軟性と適応力、失敗からの学びといった要素はDX推進に欠かせない。3ヶ月間でも個人事業にチャレンジすることで、DXリーダーとしての資質を磨き、組織文化の変革やデジタル人材の育成、新たなビジネスモデルの創出につなげられるはずだ。

もちろん、3か月では十分な成果を出すことは難しいかもしれない。しかし、何もしない場合と比べ「とても多くのものを得ること」ができる。それは20年前に、この活動を体験してみた筆者が保証する。ただし、当時はSNSがなかったので、「電子メールとホームページと掲示板とハンドルネーム」を使って実施したが、本質は一緒である。

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