『従征緬甸日記』⑩

【原文】
外域早晩多涼、日出後、隆冬亦如盛夏。黎明大霧迷漫、旭日升高、天始開朗。惟過錫箔江清晨少霧、而炎蒸不減他処。瘴気春深始発、渉冬尽消。冬月絶無雨沢、交春雨水漸至、夏秋則無日不雨。我兵初冬出宛頂、従未遇雨、次年正月至蛮栽穀、始大雷雨。後至猛域及回赴宛頂、至木邦・錫箔・宋賽一路。間有坦道、邦海至猛弄・大山一路。跬歩皆山、極其険阻。
【語釈】
・迷漫  煙、風雪などが地に満ちること。(漢語)
・清晨  早朝。(漢辞海)
・跬歩 ひとあし踏み出すこと。
・皆山 地名。
【書き下し】
外域早晩涼多く、日出づる後、隆冬も亦た盛夏の如し、。明けに大霧迷漫し、旭日升高たり、天始開朗なり。惟だ錫箔江を過ぎて清晨少霧なるのみ。而れど炎蒸他処を減らさず。瘴気春深に始めて発ち、渉冬尽く消ゆ。冬月絶えて雨沢無く、春に交わり雨水漸く至り、夏秋則ち雨ふらざる日無し。我が兵初冬に宛頂を出で、従いて未だ雨に遇わず、次の年の正月蛮栽穀に至り、始めて大いに雷雨ふる。後に猛域に至り及び宛頂を回赴し、木邦・錫箔・宋賽の一路に至る。間坦道有りて、邦海より猛弄・大山の一路に至る。皆山に跬歩するも、極めて其れ険阻なり。
【現代語訳】
外域(ビルマの地)は早朝と晩に涼しいことが多く、日が出てからは、冬の盛りといえども盛夏のように暑い。明け方に霧が地に満ち、朝日が高く昇り、天気開朗である。ただ錫箔江を過ぎると早朝に少し霧が出るだけである。しかし蒸し暑さは他のところと変わらない。瘴気は春の終わりに発生し、冬の初めにはことごとく消える。冬の間は雨のめぐみが無く、春になるとようやく雨が降り始め、夏と秋には雨が降らない日はない。我々の軍は初冬に宛頂を出発でしたので、いまだ雨に遭ってない。次の年の正月蛮栽穀に到着し、初めて大きな雷雨が降った。その後猛域に移動し宛頂に赴き、木邦・錫箔・宋賽への道に至った。間に山道があって、邦海から猛弄・大山への道に至る。皆山に一歩踏み出したが、極めて険阻な山だった。

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