『従征緬甸日記』⑨

【原文】
緬兵交戦、無甲胄弓矢。所用惟槍・砲・鏢子。其砲子墜帳房前、重四十八両。馬匹亦甚少、然皆膘壮。携帯象隻、止駄運器物、間或乗騎、不用以戦。駐営則蓋草柵、棲止無帳房、婦豎亦随営服役、以糯米為飯、截竹貯米、炙而食之。其長技惟善樹柵、毎於扼要処、用大木排列為寨、掘深濠以蔵身、柵内窺我兵如鏡。槍鏢亦易中、我兵雖施放槍砲、恒不能傷、故攻克甚難。
【語釈】
・鏢子 刀剣。
・膘壮 家畜の壮健であるさま。(漢語) 
・駄運 馬や牛が荷物を運ぶ。
・蓋 けだしと訓読して、思うに、たぶんなどと訳す。(漢辞海)
・婦豎 夫人と子供。
・糯米 もちごめ。(漢辞海)
・截 切断する。(漢語)
・毎 つねに。(漢辞海) 
・扼要 肝要。(漢語)
・蔵 隠す。(漢語)
【書き下し】
緬兵交戦するも、甲胄弓矢無し。用いる所のものは惟だ槍・砲・鏢子のみ。其の砲子帳房の前に墜つ。重さ四十八両なり。馬匹も亦た甚だ少なく、然れど皆膘壮なり。象隻を携帯し、止だ器物を駄運するのみ。間に或いは乗騎し、以て戦に用いず。駐営し則ち蓋し草柵ありて、棲むに止だ帳房無し。婦豎も亦た営に随いて服役し、糯米を以て飯と為し、竹を截し米を貯め、炙りて之を食す。其の長技惟だ樹柵を善くするのみして、毎に扼要の処なり、大木を用い排列し寨を為し、掘の深濠に以て身を蔵し、柵内に我が兵を窺うこと鏡の如し。槍鏢も亦た中り易く、我が兵槍砲を放つを施すと雖も、恒に傷する能わず、故に攻克すること甚だ難し。
【現代語訳】
緬甸の兵と交戦したが、緬甸兵は甲胄や弓矢を身に着けていなかった。使用していたのはただ鉄砲・大砲・刀剣だけであった。発射された砲弾が帳房の前に落ちた。重さは四十八両だった。緬甸側は馬もまた非常に少なかったが、馬は皆壮健であった。象を連れていたが、ただ物を運搬するだけであった。合間に象に騎乗するが、戦いには用いない。駐営すると、思うに草の柵があった。泊まろうとしても帳房がなかった。夫人子供もまた宿営に着き従って働いていた。もち米を食事とし、竹を切って米を貯蔵し、炙って食べていた。彼女らの長所の技術は木の柵を作るのに役立つだけであった。これはいつも重要なところであった。大木を使い列をなして要塞を作り、掘の深いところに身を隠し、柵内に我々の軍の兵を窺うことは鏡のようであった。鉄砲や刀剣も攻撃しやすかったが、我々の兵士が鉄砲や大砲を放っても、いつもいつも敵を負傷させることはできなかった。なので攻めて勝つことは非常に難しい。

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