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ひとり目バックオフィスのためのスタートアップ管理部門立ち上げガイド

昨今、X(旧Twitter)をはじめとしたインターネット上でスタートアップやベンチャー企業がなかなかCFOや管理部長を採用できない、という声をよく聞きます。スタートアップが管理部門の専任者を採用しようと考え始める時期というのは、大抵の場合社長が本業の片手間にバックオフィス業務をこなすのが大変になってきたというときでしょう。その頃の会社の状況というのはようやく商品やサービスが安定して売れるようになってきて、このまま順調に行けば売上は右肩上がり、事務作業もどんどん増える、そんな感じではないでしょうか。事務の状況はまあカオスなはずです、なにせ営業も開発もやっているような超忙しい社長が片手間でやっているのですから。

管理部門畑の人というのは、思うにキッチリした性格の方が多くわざわざカオスな状況の会社に入りたいと考える人は稀なのかもしれません。それがスタートアップでなかなかCFOや管理部長が採用できないひとつの要因になっていることでしょう。今回はうっかり事務がカオスなスタートアップにひとり目のバックオフィスとして入社してしまった方に向けて、管理部門の立ち上げについて書いていきたいと思います。


誰にも見えていない業務を発見しよう

社長がなぜ自分を管理部門の専任者として採用したのか。それはもちろん事務が社長の手に負えなくなってきたからなのですが、具体的に何に困ってきたのか、社長自身どのような事務をやってきたのか確認しましょう。まず何から手をつけるべきかの取っ掛かりになります。

ただ注意しなければいけないのは、当然ですが社長が今までやってきた事務というのはやるべき業務のほんの一部に過ぎないということです。やらなければいけないと思っていたけど放置されていた、そもそもやるべきだと誰も認識していなかった業務というのが山ほどあります。あなたはやるべきなのに誰にも見えていなかった業務をしっかり拾い上げる必要があります。そうでなければあなたが管理部門の専任者として採用された意味がありません。移転前の本社のガスは解約されているでしょうか?労働保険の年度更新は行っているでしょうか?社会保険料の料率改定は…確認すべき箇所は無限にあります。

経理

おそらく顧問税理士が記帳代行をしてくれているでしょう。記帳・月次決算の内製化にあたっては顧問税理士からしっかり引継ぎを受け、どのような仕訳をするべきかについてや証憑書類の入手の仕方を確実に把握しましょう。そのほか資金繰りの管理はできているのか、会社に現金や金券類を置いているのか、源泉所得税の納付は毎月なのか納期の特例を採用しているのか、そもそももれなく納税できているのか、消費税の課税事業者なのか免税事業者なのか、課税事業者なら簡易課税制度を選択しているのかいないのか、免税事業者だとしてもいつから課税事業者になりそうか、この辺りは最初にしっかりと確認しておきましょう。

特に資金繰り管理は会社の存亡にダイレクトに関わってくるので、やっていなければ早急に資金繰り表を作成し管理を始めましょう。

現金については、管理するものが増えてしまうため必要がなければ会社に置かなくても良いと思います。ただし通帳やキャッシュカードはあるでしょうからセキュリティの観点からキャビネットや金庫は導入しましょう。

得意先に請求書が送付できていなかった、売掛金が回収されず放置されていたといったことも往々にしてあります。請求書発行のフローや得意先別の売掛金の回収状況も最初にしっかり確認しておきましょう。ここは資金繰りにも影響してくるので優先度が高いです。

法務

契約書のリーガルチェックが法務のメインどころになると思います。顧問弁護士がいればレビューはしてくれると思いますが、自分でも取引先と条項の修正について駆け引きをしたりどこまで相手の要望を飲むか判断しなくてはなりません。あなたが法務畑の人なら慣れているかもしれませんが、初めての業務になるならば実務書をいくつか読むなりして勉強しておくべきでしょう。

どのような事業をしている会社なのかにもよりますが、サービスの利用規約やプライバシーポリシーがあったりします。スタートアップはサービスの内容も日々変容していくので必要に応じて利用規約の改定なども行っていくことになります。どう考えても利用規約が必要なサービスだけどまだ利用規約が存在しないということもあるかもしれませんが、その場合はあなたが作成するのです。これもひな形を顧問弁護士に作成してもらうことはできると思いますが、ゼロからお願いするとそれなりの報酬がかかります。せっかく管理部門の専任者としてあなたが加入したのですから、頑張って作成してみることをお勧めします。社長もそのためにあなたを採用したのです。あなたが作成した上での不明点の相談やひな形のレビューなら、顧問弁護士の報酬も抑えられるでしょう。

労務

労務は何と言ってもまず給与関係です。各従業員の基本給や手当の把握はもちろんのこと、勤怠管理はなされているのか、社会保険料の料率改定には対応できているか、算定基礎届は顧問社労士が出してくれるのか自分で出さなければいけないのかといったところを確認しましょう。

就業規則はもちろんないと思います。これも会社のフェーズを見て適切なタイミングで作成しましょう。従業員が常時10人以上になる場合、就業規則を作成して所轄の労働基準監督署長へ届け出なければならないので注意が必要です。厚生労働省がモデル就業規則というものを出していたりしますが、それを活用するにしてもそのまんま持ってくるのではなく会社に合わせてカスタマイズしましょう。そのほか36協定などの労使協定の締結・届出の対応なども行うことになるでしょう。

人事評価制度ももちろん存在しません。あなたが入社した段階ではまだ必要ないかもしれませんが、いつかは会社の成長によって従業員数も増え制度が必要なフェーズが訪れますし、スタートアップは急激な成長をすることがあるので案外早くその時期がくるかもしれません。制度設計について情報収集をしたり実務書で勉強するなり準備をしておきましょう。

総務

なにせそれまで事務職の人間はいなかったのですから各種書類はいろいろな場所に散らばっており、整理整頓されていることはまずないでしょう。フォルダやファイルを用意して書類を分野ごとに整理しましょう。きっと支払期限の過ぎた未対応の請求書が出てきたりすると思いますが、めげずに整理整頓していきましょう。

また、会社規模の拡大により本社移転をする機会もあると思います。引越業者の手配やスケジューリング、従業員の役割などを決定しプロジェクトとして主導しましょう。移転前後における水道光熱費やインターネットの解約・契約やデスクや椅子の廃棄・新調などやることは多くあり、タイミングも重要なのでかなり大変です。そもそもインターネットの契約ってどうなっているんだっけ?管理画面のアカウントは?みたいなことになりがちなので事前に確認しておきましょう。

業務を定常化しよう

上記で見てきたような行うべき業務を認識・実行していくなかでどの業務をいつやるのかということを整備していきましょう。いわゆる業務の定常化です。新しく管理部門に人員が入ってきたときにどのような業務を割り振るかということも意識しながら整備するとよいでしょう。IPOも目指しているとするならば内部統制もしっかりと構築していかなければならないわけですが、その第一歩にもなりますので重要です。ここでの定常化を礎にして承認フローや職務権限の整備に繋げていきましょう。

管理部門の立ち上げはカオスな状況を整備していくという特有の大変さがありますが、普通の会社で働いていても利用規約や就業規則をゼロから作成するという機会はなかなかなく貴重な経験になります。ここまで読んで管理部門の立ち上げに興味を持たれた方はぜひこちらの世界に飛び込むことを検討してみてください。なにせそれができる人間を探しているスタートアップやベンチャー企業はたくさんありますので。



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