バイバイカモン

1月15日
朝9時、セットしていたアラームを止めて、もうちょっとだけ…と結局起床は10時前。
掃除機をかけてシーツとベッドカバーを洗濯機に放り込んでから化粧と旅の準備。本当はバオバオのポシェットひとつでどこへでも行けたらいいのにね、と思いつつ、一昨年川村記念で購入したソルルウィットのトートバッグに着替えと化粧品を詰め込む。
特急ひたち号へ乗り込み、天井にある空席確認のできる3色のランプに感動する。車窓からの景色を楽しみながら髭ちゃんを聞き、最終的には寝てしまった。
お昼過ぎに水戸へ着く。駅ビル併設の思ったより大きい駅。改札を抜けると早速水戸黄門の像が立つ。三つ葉葵の御紋のついた提灯が並んでいた。ふと顔をあげると城郭らしきものがビルの間から覗いている。地図アプリをひらくのは止めにして、城郭の見えた方へ進むことにした。少し迷いつつもたどり着いた水戸城大手門、目の前には弘道館。うわ!弘道館だ~!!とテンションが一気に上がりつつ、まずは水戸城址を散策しましょう、と反対方向へ歩き出す。中学校、もうほぼ城。こんな学校に通ってたら、フェンスに囲まれた普通の学校が信じられないでしょう…と生徒たちへ思いを馳せる。城址といえど特に何も残っておらず、スタッフのおじいさんに「無料だから見ていきなよ」と声を掛けられ、記念館を一周した。大日本史。いいねえ~~。眺めがいいと案内板があった二の丸角櫓に砂利道をじゃりじゃり歩いてたどり着いたはいいものの、さっき通ってきた道しか見えませんが~!と落胆して戻った。
そしてついに弘道館へ。入ってすぐ「尊攘」という大きい文字。尊王攘夷の風が吹き荒れてるねえ!さすが水戸!松陰先生とか慶喜公ゆかりのものもいくつか展示されており、ども弘道館がある、ということすら頭にないまま水戸を訪れていたので、収穫ありありとなった。
思ったよりも水戸城址エリアに時間をとられてしまい、本来の目的地である水戸芸術館を堪能する時間がなくなりそうになったため、後ろ髪をひかれながらも芸術館へ向かう。途中、かの有名なかくかくタワーが歩く先に見えだして、ついに来たんだと嬉しくなった。
佐藤雅晴「尾行」。このために今回の旅が計画されたのである。
佐藤雅晴を最初に認識し、この人いいね、となったのがトリエンナーレ中の横浜美術館で見た「死神先生」。その際にネット検索をし、彼が昨年若くして亡くなっていることを知った。その後、最後の1つ前の展示を見に行った原美術館で「東京尾行」を見た。窓際に置かれた、無人の、自動演奏ピアノが「月の光」を奏でていた。ちょうどその頃、くだらないことかもしれないけど、好きな人とうまくいかないとか、不本意な転属が控えていたりとかいろいろと落ち込むことがあった。そんなときに、もうすぐ終わりを迎える原美術館で見た東京尾行は、死後の世界を彷彿とさせた。「人は死んだらみんなここに来るんだ。こうやって静かに生きていたころの面影を見つめながら暖かで穏やかな時間を過ごすんだ。実はもうここにいる私たち、死んじゃってたりして。」と思ったのだ。それはとても気持ちの良い時間で、確かに心の支えになった。
そして今回の大規模個展。展示室に入った瞬間に不穏な空気感が全面に出ている絵画作品がたくさん並んでいた。蟻にたかられている女性、怖かった。エスカレーターを永遠に上り続ける金髪の少女の後ろ姿はいつか振り向くんじゃなかろうかと、恐怖と期待で目が離せなかった。首だけがぐるりとこちらを見ては反対へ戻っていく映像も、すべての首と目が合ってしまい、どきどきした。直前まで人がいた形跡が残るのに、今はもう誰もいない、生き物の気配すらない様々な場所で鳴り響く電話たち。この電話に出てしまったら二度と戻れないんだろうなと思う。
原美術館で見た映像はすべて家にあるくらいのテレビの画面だったが、今回は壁一面に大きく映されている作品が多く、迫力があった。
面倒になったので、終わりにしますが、先日見たホーツーニェンも相当よかったけど、佐藤雅晴は人生ベスト展覧会に入るんじゃないかな。

バイバイ、カモン。またいつか会えるといいね。