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悪魔の種族

人間という種族が地球を温暖化させていることに、もはや疑いの余地はない。
国連IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書において記載された見解だ。
とてつもなく端的に言ってしまうと「地球環境に負荷をかけているのは人間だ」ということである。産業革命以降現在位に至るまで、人類は己の繁栄のために自分たち以外のすべての種を犠牲しているのだ。
そういう意味で地球にとって人類は悪魔の種族だといえる。
(災害映画やSF作品なんかでも「人類は自分たちの繁栄しか考えていないから滅びた方がいい」みたいなセリフが出てくる)
まあ、確かにそのような見方ができなくはない。

しかしながら、ぼくはふと疑問に思った。地球に生命が誕生してから38億年の歴史の中でたくさんの種が生まれているのだ。その長い長い期間の中、こんな風に地球全体の環境を変えてしまう種族は特殊なのか、と。

そしたらいたのである。人類以外でも地球環境を大きく変えてしまった種族が。
そしてその「悪魔の種族」はまだこの現代世界でも生きている。それも限られた場所にひっそりと生きているのではなく、そこら中にはびこっている。たぶんみなさんも見かけたことがある。むしろ見たことがない人がいないくらいだ。

人類以外に地球環境を激変させた種族。それは「植物」である。正確に言うと「シダ植物」と「裸子植物」。中学校の理科の授業で習ったことがあるだろう。
「シダ植物」はワラビとかゼンマイとか、花をつけることなく、胞子を飛ばして増える植物の種類だ。
「裸子植物」はより身近だろう。種を作って増える植物の中で、その種がむき出しになっているもの。マツとかイチョウとか、現代でもとてもなじみがある。

「植物が地球環境を激変させただって? 植物は汚れた空気を浄化してくれるんじゃないのか?」と思うかもしれない。
確かに現代においてはそうだろう。人類が化石燃料を燃やしまくって排出した二酸化炭素を、彼らは光合成という形で体内に取り込み、酸素を作ってくれる。
しかし、それは「現在の地球環境」での話だ。

植物が悪魔の種族だったのは、今から約3億年前。石炭紀と呼ばれていた時期だ。
3億年前とは、各大陸が合体して「パンゲア=超大陸」ができていたころ。
陸地が衝突すれば、山ができる。山ができれば空気の流れがぶつかって雨が降り、川ができる。川が流れれば湿潤な土地ができる。これは植物の生育にとても適している環境だ。
加えて、植物の天敵になる種がほとんどいない。この時期、動物の生育場所は主に海の中である。地上では両生類がどうにかこうにか生活をしていて、その中には植物を食べるものがようやくでてきたところなのだ。

天敵がいない。生活できる場所はそこら中にある。そんな環境があって、植物は爆発的に地球上で繁殖した。
先ほども話したが、植物が光合成をする。二酸化炭素を吸って、酸素を吐く。石炭紀の植物も同じだ。世界中のあらゆるところに生活している植物は二酸化炭素を吸いまくり、酸素を吐きまくって成長する。現代で地球上の酸素濃度は21%くらいだが、石炭紀の酸素濃度は最大35%にも達していたらしい。空気中の酸素が増えれば、植物はもっと成長できるので、どんどん植物が巨大化してどんどん繁殖する。まさに植物にとっては楽園だと言えよう。

と、ちょっと待て。
今だって植物はそこらへんにたくさんいるし、光合成して二酸化炭素を吸って酸素を吐いているんじゃないか。
そう思った人はとてもいい視点を持っている。
確かに植物が光合成をするのは現代でも同じだ。しかし、現代とは決定的に違うことがある。
それは、「植物を分解する」種族がいないことだ。

森に入ればわかることだけれど、今だったら木は倒れたら朽ちていく(もちろん、倒れずに朽ちていく木もある)。
それはキノコとかカビとか、菌類が植物を食べて分解しているからだ。植物が菌類に食べられて分解されることで、植物中に蓄えられていた炭素は大気中に還る。

しかし、石炭紀には菌類がまだ発達していない。つまり植物は倒れても朽ちずに土の中に埋まっていく。つまり植物が吸いまくった二酸化炭素は空気中に放出されることはなかったのだ(ちなみに化石燃料ができたのは実はこのおかげ。「石炭」紀という名前はここからくる)。

二酸化炭素が少なくなるとどうなるだろうか。それは現代とは逆だ。
今では空気中の二酸化炭素濃度が高くなりすぎて温暖化しているけれど、二酸化炭素濃度が低くなれば逆に寒冷化する。寒くなれば海水が凍り、海は低くなる。空気中の二酸化炭素濃度が変化すれば海水の酸性度も変わる。
この石炭紀の植物大量繁殖(しかも死んでも分解されない)によって、地球環境は寒冷化し氷河期を引き起こしたと言われている。氷河期になって大量の生物が絶滅したのはみなさんもご存じだろう。

つまり、石炭紀の植物は「自分たちの繁栄のために地球資源をむさぼりつくり、環境を激変させてしまった種族」だったのだ。現代の人間たちと同じく。
もしかしたらほかにも同じように自分たちが繁殖しまくって地球環境を変えてしまった種族がいるかもしれない。
だとすると、今の人間たちが地球環境を度外視して自分たちを繁殖させているのは、人間という種族が愚かないのではなく、生物としての宿命とも言えるかもしれない。

さて、ここで終わりにしてしまうと「地球環境を破壊しているのを正当化してんじゃねえ! 孫の、その先の世代が生きていけないかもしれないことを勝手な理屈で片づけるな!」と怒られてしまう。もちろん、ぼく自身も人類、いや地球に暮らす一員として、今の状況がいいとは決して思ってないし、なんとかしなければならない、とも思っている。

今、人類が引き起こした地球環境に関する課題はとても重い。それは考えれば考えるほどに深まっていく。
「もしかしたら、このまま地球環境の変化を抑えらず、人類は絶滅してしまうのではないか」
そんな風に不安になることももちろんある。

でも、こうも考えられる。
かつて悪魔の種族として確かに植物は自らの繁栄のために悪逆の限りを尽くした(ように見えた)のかもしれない。だが、植物は絶滅などしていない。それどころか、いまだ世界中に生活して大繁殖をしている。
植物だって、地球を破滅させようとして生きてきたわけでは決してない。自分たちをよりよく繁栄させようと懸命に生きた結果、たまたまそうなってしまったのだ。
それは同じ現代の悪魔種族である人類にも同じことが言えるのではないか。

「人類は地球のために滅びた方がいい」
そんなことを思うことがあるかもしれない。
しかし、自分たちの種族を反映させるために懸命に生きることは、地球生命の宿命で、そのこと自体は問題ではない。
問題は「地球に暮らす一員として懸命に生きる」こととはどういうことかを考えることではないだろうか。
かつて悪魔の種族であった植物は、空気中の酸素濃度を大幅に変えてしまった。けれど、そのおかげで次の時代に昆虫種族が大繁殖することができた、と言われている。
そして、今では植物は地球環境を蘇らせることのできる種族である。
同じ地球上の種族なのだ。人間も植物種族のようになることができるはずだとぼくは信じている。

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