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用宗 ビールと夜の海

用宗とは地名で「もちむね」と読む。静岡県静岡市駿河区の港町だ。静岡駅から在来線で2駅7分の用宗駅から15分歩くと用宗港がある。東京からは熱海ほどではなくとも、そこそこアクセスの良い海辺の街と言えるだろう。

用宗港。3月から1月まで名産のしらすの水揚げが行われる

気になっていたWest Coast Brewingの「部屋でタップからビール10リットル注ぎ放題」のブルワリー併設ホテルがあるのが用宗だった。立ち寄った理由はそれだけだったが、予想以上に気持ちの良い時間を過ごせたので紹介したい。

用宗では近年再開発が進んでいるが、半日時間を潰せるほど商業施設や観光地が充実しているかというと、そうでもない。1日目12時ごろ、漁協直営の「どんぶりハウス」でしらす丼を食べた後、少し途方に暮れてしまった。チェックインできるのは15時で、3時間何をして時間を潰せばいいかわからなかった。仕方なく水辺で本を読むことにしたが、これがよかった。せこせこ歩き回るだけが旅行ではないのだ。

温泉が好きな人はこの時間で市場をリノベーションした温浴施設でゆっくりするのもいいと思う。私はお風呂はすぐのぼせるので得意ではないが、少し入浴した炭酸風呂の泡がとても細かくて、身体の芯から温まる感覚が面白かった。

そしてこちらが15時に勇み足でチェックインした我々を待ち受ける客室ビールサーバーである。「10リットルのご用意なのですが、前のお客様が2.5リットル残されているので、合計12.5リットル飲んでいただけます」とスタッフのお兄さんから説明される。そもそも全部飲むつもりがないので、2.5リットルなんて誤差だよ。ビールは客室内限定で醸造されているもので、なんとここ以外で飲むことができない。

素人には注ぐのが難しい。もったいなく感じるが、ガンガン泡を捨てるのがコツらしい

この宿は悩ましいことに、部屋にこんなにビールがあるのに併設のタップルームにも16タップも生ビールが繋がっている。

日帰りする場合、22時閉店のタップルームで最後までビールを楽しんでも終電で東京に帰ることができるらしい

ビールの他にこの宿に泊まってよかったと思う一番のポイントは、夜の海岸まで数分歩けばすぐ着くところだ。

数年前に熱海に初めて行ってから、海を見るのが好きになった。
朝も夜もなく波が打ち付けている音を聞くと、普段意識しない地球という存在について考える。潮の満ち引きがなぜ起きるのか。何億年前から、人が誰も見ていないときも地球はこんなことをしているんだと思うと、自分が日々悩んでいることは心底どうでもいいやと思える。
海には人がほとんどいなくて、波の音しか聞こえなかった。4月中旬の快適な気候も合間って、部屋のビールをグラウラー(水筒)に入れてラッパ飲みしていたらいつのまにか1時間経っていた。

翌朝はホテルの朝食を食べてから醸造所の見学ツアーに参加した。小規模な醸造所ということもあり色々な設備を見せてもらえる。かなりコアなクラフトビールファンが参加していて、質疑応答もマニアックで楽しかった。

ランチは前日とは別の店で生桜えびと生しらすの二色丼を食べた。この日は漁がなかったようで生しらすはなかったがそれでも生しらすは美味しかった。
食べたもうやることがないのでさっさと帰った。

小鉢のサービスがたくさんでコストパフォーマンスが良い

また次の暑さが和らいだら、どこか人もまばらな海辺の街で自分のしょうもなさを忘れる時間を取りたいと思う。

生しらす漁のない日はよく見ると看板が倒れている

いつか猫を飼う時の資金にさせていただきます