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3:乳がん治療方針決定がひと段落つくまでに私が考えたこと

 乳がんになるわけないと思っていたところに乳がんとの告知を受け(2019/1/22)、当然温存で済むと思っていたところに全切除を勧められ、戸惑いつつ部分切除を希望する旨を伝えて(2019/2/8)から、本当に治療を決めるまでのお話。

基本情報(再掲)

・女性
・1981年生まれ、投稿時点37歳
・独身ひとり暮らし、出産経験なし
・痩せ型寄りの標準体型、胸は大きくない
・29歳で再生不良性貧血(指定難病60)中等症との診断を受け、以来2ヶ月に1度総合病院に通院、血液検査を受け続ける
・再生不良性貧血の処方薬は、2011年~現在:シクロスポリン(免疫抑制剤)、2018年8月~現在:レボレード(2017年8月に再生不良性貧血への適応拡大した医薬品)
・やや長時間労働になりがち、インターネットサービス会社の会社員

決定した治療方針

 最終的に決めた方針はこの通り。

『乳房全切除/同時再建』

(理由)
再発のリスクを最小にしたい
 ・再発したときは浸潤癌となる可能性がある。非浸潤癌である(正確には非浸潤癌である「可能性が高い」)今回のうちにつぶしておきたい。
 ・再発して抗がん剤治療が必要になっても自分は再生不良性貧血があり抗がん剤治療を受けることができない可能性が高い。

現在の状態に近い状態を保つことができる
 ・再建には自分の皮膚を使うことになるため、全摘でインプラントによる再建をした場合も、皮膚に触れる感覚は残る。
 ・部分切除すると、切除箇所が大きく見た人を驚かせてしまう可能性が高い。
 ・もし再発したときにいざ全切除になっても再建ができない、あるいは再建する場合には身体への負担が極めて大きくなる可能性が高い。

決めるまでに話した人たち

※名称は「2」からの引き続き

隣の席の同僚B(男性):とにかく女性に話を聞きましょう

 たまたま診察当日ランチの約束をしていて、話を聞いた直後だったので診察の内容を話した。とったら終わりだと思っていたら再発リスクがあるからと全切除を勧められたこと、リスクはあるけど身体の一部がなくなるってことが想像つかないから全切除は嫌だということ。「部分切除にしたいって言ったんですけど、どう思います?」と聞いた時点で、自分にも迷いがあったのだとは思う。いい人を絵に描いたような人物である彼は、言葉を選ぶように言った。

 「人によるとは思いますけど・・自分だったらですよ?自分だったら、リスク取らない方を選びますね。」

 気を遣わせないように「なるほどー」と平静を装っていたけれど、内心はやや動揺していた。おそらくこのときは、とにかく「それはそうだよね、部分切除にしたらいいよ」票を集めたかったのだと思う。
 いや、まだ全切除は一票だ。そもそも彼はよき同僚ではあるが男性だ、今更ではあるが胸どうこうの相談をする相手ではない。

 「女性に相談した方がいいと思いますよ。しかも若い人じゃなくておばちゃんがいいと思います。おばちゃんはまじですごいです。病院とかによくあるじゃないですか、相談センターみたいなの。ああいうところ近くにないんですかね?」

 それならついさっき行ってきた総合病院にある。つい先日、自分には必要ないかなぁと前を通り過ぎた記憶がある。

 「いいじゃないですか、行きましょう。すぐ行きましょう、今日です今日。」

 その日は2月8日(金)、入院予定日は2月18日(月)、土日祝は病院もお休みで建国記念の日がはさまる翌週は4営業日しかない。考える材料を集めるなら三連休に入る今日しかない。時間休で出社したその日、私はがん相談支援センターに行くためにフレックスで帰ることにしたのだった。

ガン相談支援センターの相談員G(女性):それがあなたの答え

 実質的にはこちらの方とのお話が決め手になったとも言えるかもしれない。

 同僚B同様、診察時に聞いたこと、考えたことを話す。こうやって胸に触れれば触れられた感覚があるけれど、再建するとなるとそれがなくなる、そんなのは信じられない。
 人目につかない空間だったからだろうか、同じようなことを話しているのに涙と鼻水が止まらなくなる。ひとしきり話し切ったときに、うんうんと聞いていた相談員がゆっくりと口を開いた。

 「あなたが全切除をどうしても納得できないって思うってことは、それがあなたの答えなんだと思いますよ。」

 肯定されて突然肩の力が抜ける。
 その瞬間に自覚したのが、部分切除でなければならないということを一生懸命説明していた自分。正しい選択が全切除であるという考えがなんとなく頭の中にあって、それを覆すだけの説明をしなければと、私は必死だったのだ。
 おそらく、ちゃんと全切除を考えた方がいいとか、リスクも考えるべきだとか、そういうことを言われたら、私はすぐに答えを出すことができていなかったと思う。

 「いろんな人がそれぞれの考えで答えを出すから、本当に正解はないんだけど、どうしても乳房温存でっていう人もいれば、全切除して、でも異物を身体の中に入れるのは嫌だからってそのままにする人もいるし。私ね、驚いちゃったんだけどふふふ、彼氏と一緒にきて、彼氏に『あんたどっちがいい?再建にする?』なんて聞いたりしてた方もいたのよ。部分切除だとほら、放射線治療で皮膚が硬くなったりするから、それだったら全摘にしてきれいな胸にしようって考える女性もいるみたい。
 変な言い方なんだけど、トレンドっていうのかしら?全摘再建をするっていうのが最近は多い気がするわね。数年前までは、乳房温存ができるのであれば乳房温存でいこうっていう先生が多かったんだけど。やっぱり2013年にインプラントの再建が保険摘要になったのが大きいかしらねぇ。」

 数分前までは部分切除でいくべきだとアピールをしていた自分が、再建についての質問をしていた。なにせ再建についてはその時点では何も知らないものだから初歩的な質問もしていたと思う。調べればわかることも含めて、聞いておいてよかったと思ったのはこういうこと。

 (1) 部分切除でも問題ないという人でも全切除を選択することがある。
 (2) 再建には自分の皮膚を使うからその皮膚の触覚はある。
 (3) 部分切除をするとその後1ヶ月程度の放射線治療を伴い(伴うことが多く)皮膚が硬くなってしまうため、その後全切除に切り替えとなった場合に再建するのは不可能に近い。※その後調べた限りは自家組織再建は可能のようだが、それはまた別の負担が大きい。

 考えれてみれば当然なのだけど、(2)が意外と自分の中では大きかったように思う。そうか、作り物っていっても中に入ってるものが作り物ってことだから、触ってる感覚はあるんだ、と知ると、今度は先生の言葉でいう「美観」という言葉が気になってきた。説明を受けたときには、「は?美観?そんなんどうでもいいわ何いってんの」と思ったものだが、現金なものだ。

 がん相談支援センターで話を聞いた前後で、以下の図でいう左から右のように考えるようになったと思う。

 現在の乳房の状態との差分を考えて部分切除「で済む」のか全切除「までしないとならない」のか、というのが事前の感覚で、つまりいまに近いほど自分にとってポジティブな選択だと考えていた。それが、相談員と話す中で、2つの選択肢をフラットに見ることができるようになっていった。

親戚H(女性):全摘なんて要らないでしょう

 年末に乳がんの手術をしたという40代後半の親戚。全切除にするかもしれないという言葉を受け、母親から会ってきたらどうかと勧められ会うことになった。目的は不明瞭ではあったけれど、相談員と話して乳がんを知る人と実際に会うのは大事だと実感したので、乳がんの経験者の話は聞けるだけ聞こうと思っていた。
 彼女はステージ1、脇に極めて近い場所のガンだったがリンパへの転移も手術時点では見つからず、放射線治療は行ったため脇あたりはやや黒ずんでいるようだったが、「胸の切除」という印象ではなかった。

 「私なんて浸潤だよ!非浸潤なのに全摘しないとなんて、ちょっとねぇ・・。セカンドオピニオン受けた方がいいよ。私が行ったところ紹介するから!」

 話したタイミングでは私もこの彼女の発言に違和感はなく、自分はステージ0(非浸潤癌)見込みで彼女はステージ1なので、自分の方が治療として重い「という印象を抱く」全切除をすることが腑に落ちなかった。
 あとから考えてみればこれは正確ではなく、切除範囲については非浸潤癌か浸潤癌かという違いとは基本的には無関係なものだ。

 ※私のガンは、乳腺にそうように縦に長く、乳頭から1cmのところに飛び火している。この飛び火が、直接的に「全切除でないとリスクがある」という診断となってしまった理由。

妹:アンジェリーナ・ジョリー

 母との話がこじれたタイミングで母のフォローをお願いするついでに乳がんを伝えた妹。全切除の話をすると、こうつぶやいた。

 「アンジェリーナ・ジョリーのこともあるしね・・」

 あまり芸能には詳しくなかったのでよく覚えていなかったが、「将来の乳がん予防のための乳房切除」というものだ。単なるミーハーなのかもしれないが、絶世の美女が全切除しているというのもなにかこう、励みになる気がした。(彼女は乳頭切除はしていないようなので、厳密に重なるわけではないけれど。)

決意

 相談員と話して実質的にはほぼ決まっていたようにも思うが、その後の三連休は正直しんどかった。手術を終えて退院を明日に控えた今でも、あの三連休が一番きつかったなあと思う。
 会社の同僚や元同僚の友人が多く、なんとなく「休日は連絡を取るのが気がひける」というそもそもの悪条件(?)と、乳がんを伝えてからなんとなく感じる腫れもの感。逆の立場になることを想像すれば、なんとなく気持ちは理解できる。どうすればいいんだろうという言葉に、「下手なことを言って誤った選択をさせてはならない」という慎重さ、安易に答えられないという感覚を持ってくれているのかもしれない。
 そういうときには家族、なのかもしれないが、母親にも妹にも下手に心配をかけられない(かけると面倒)というのが強く、基本的には悩んでいないふりをしている。

 結局、その連休はほとんど誰とも連絡を取らずに、寝たきり半分ネット半分で、「世の女性がどう考えてどう選択したのか」というおわりなき情報を、一人で読みあさり続けた。

 連休明け2月12日(火)、異動先に、実は休暇は「家庭の事情」ではなく「乳がんの手術のため」であること、そして、全切除を検討したいので休暇を3月にいただくことを了承いただきたいことを伝え、翌日2月13日(水)、入院前オリエンテーションとして呼ばれていた日に、医者に、全切除方向で考えたいことを伝えたのだった。

 最後に何が後押しになったのかは正直わからない。実質的には、12日、13日に「なぜ部分切除ではなく全切除の方向で考えたいのか」を自分の口で説明したときに決まったという言い方もできそうだ。
 結局、「これだ」という答えは私自身のなかにあったという言い方もできそう。だけど、乳がんになってからすべての対話が、私にとって意味のあるものだったと思う。


 その時点では形成外科の話も聞いて改めて決めるつもりではあったけど、特にこの時点から考えは変わらず、穏やかに入院・手術を迎えた。
 入院の日を迎えるまでにやったことは、また改めていつかそのうち。

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