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1:乳がんがわかった日のこと

 乳がんをどう受け止めどう治療を選択するのか。生き方も状況もいろいろ。ならば自分自身がどう感じどう選択したかも、きっと誰かにとって有益な情報になるはず。だから書いておこうと思う。

【1】基本情報

・女性
・1981年生まれ、投稿時点37歳
・独身ひとり暮らし、出産経験なし
・痩せ型寄りの標準体型、胸は大きくない
・29歳で再生不良性貧血(指定難病60)中等症との診断を受け、以来2ヶ月に1度総合病院に通院、血液検査を受け続ける
・再生不良性貧血の処方薬は、2011年~現在:シクロスポリン(免疫抑制剤)、2018年8月~現在:レボレード(2017年8月に再生不良性貧血への適応拡大した医薬品)
・やや長時間労働になりがち、インターネットサービス会社の会社員

【2】乳がんがわかるまで

2018年12月20日(火) 総合病院で乳腺外科を受診

「え、24mmもあるの?」

 最初に心拍数が上がったのは、約2年ぶりに受診した総合病院・乳腺外科の先生のやや上ずったような声で発せられたこの言葉だった。会社を通じて受けた定期健康診断結果内「乳房検査」の項目に書かれていたよくわからない小さな赤字、正直、先生にそう言われるときまで見てもいなかった。

H30.10 右乳腺内部エコー伴う拡張入管 24 × 14mm(血流あり)
H29.10 右乳腺低エコー腫瘤 11 × 5mm

 その数字はどうやら、「なにかしらのかたまり」のサイズだったようだ。なるほど、昨年の検査結果の2倍以上のサイズになっている、ということらしい。

 会社の健康診断を受診したのは10月上旬で、10月中には結果が自宅に届いたと思う。

乳房検査にて所見を認めます。再検査または医師の診察を受けてください。

 感想は「またか、、またなんでもないって言われるんだろうし、面倒だな・・」というところだろうか。2016年に同じく要再検査となった年はちょうど、フリーアナウンサーの小林麻央さんが乳がんを公表した年。再検査しようにも検査は2ヶ月待ちという状況だった。数ヶ月先の仕事の状況が見えづらいこともあり、再検査するにもひと苦労という印象が強かったのだ。
 健康診断を受けたクリニックで受けられないか電話するも、主治医がいる総合病院があるなら同じ病院で受けるようにと断られ、そうこうしているうちに仕事が多忙となり、再検査のための受診は少しだけ先送りになった。

 再検査のために受診したのは12月20日、担当していたサービスの事業撤退が決まり、暇になってしまったこの日だったのだ。

「とりあえず、もう1回検査受けてもらおうか。今日は検査の手続きをして帰ってください。まあ、年明けになるとは思うけど。」

 とりあえず、はっきりさせておくに越したことはない。断る理由はなかった。

2019年1月7日(月) 乳腺超音波/マンモグラフィ検査

 サイズが急激に大きくなっている事情を検査日程調整スタッフに説明すると、検査は年明け早々に設定された。この日は仕事はじめの日だったが、事業撤退で仕事がひまになってしまった今、検査以上に優先すべきものはない。始業1時間ほど前に出社し仕事を片付け、12時に会社を出た。

 マンモグラフィの痛さに思わず声を出して笑いつつ、この不安は明日には解消されるものだと思っていた。"まあ大丈夫ですね、また変化があったらきてください"という、先生の言葉を早く聞こうと思っていた。

2019年1月8日(火) 検査結果:乳腺超音波/マンモグラフィ検査

 この日は特段の検査結果らしきことを聞いた記憶はない。

 「まあ、良性だとは思うんだけど、2年前もこういう話になったってこともあるし、今回はっきりさせておいた方がいいかもしれない。」

 それはそうなんだけど、昨日の痛い思いをしたは何の意味があったのか。。。うっすらそんなことを思いつつ、「針を刺す検査」とやらを承諾する。思うことは昨日と変わらない、早くなんでもないということを明らかにしたい。
 "まあ大丈夫ですね、また変化があったらきてください" の言葉は、またおあずけとなった。

 そうだ、それ以外の言葉は想像してなかった。だって、ただでさえ難病の治療中で、もう9年もこんなに立派な総合病院に通院している。毎日毎日大量の薬を飲んで、鬱陶しい副作用にもようやく慣れてきたのだ。血液検査の変化は、血液内科の先生が見ている。2年前に同じ乳腺外科の再検査で問題なかった。
 難病だけで自分の人生のネタはもう十分なのだ。
 恋人もいない、家族に金銭的に頼れる人もいない。自分で稼いでいくしかないのだから、病気が増えるわけがない。

2019年1月16日(水) 細胞診

 再生不良性貧血の検査で「骨髄生検」は2~3回経験があるが、いつも、女性看護師のみなさんが医師の周囲でわいわいしているので、激痛に耐えつつも自分の中では楽しい記憶になっている。

 さて、乳房に針を刺すのはもちろん初めてだ。部分麻酔による生体検査。血小板が少ないことを踏まえ、針のサイズは"中ぐらい"。結局目視はしなかったが、「鉛筆の芯くらいはあるよ」だそうだ。
 この日は、いつもの50代くらいの男性医師(日本乳癌学会のサイトに名前がある、きっとちゃんとした先生)のほかに、若い女性のお医者さんがふたり。頭の良さそうな女性に、優しそうな口調にもかかわらず無駄に緊張する。

 「あーここに触れますね。」

 右乳房の触診をしながら男性医師に真剣に話しかける、女性医師のその冷静な言葉にも地味にダメージを受ける。乳がんでよく聞く、あの「しこり」というやつのことだろう。

 まずは麻酔。これも普通に痛い。
 少し時間をおいて、右乳房の真横から針を刺しおしこんでいく。エコーでかたまりの場所を確認しながら刺した針を乳房の中で微調整・・擬音はきっとこうだ。

ぐりぐりぐり・・・ぐっ・・ぐぐっ・・・・ぐぐぐっ・・

 おそらく痛かったと思う。けれど、針が肉の中で動くという「恐怖」を痛みと勘違いしたのかもしれない。針が動くたびに我慢がならず小さく悲鳴をあげる私に、「痛い?」と聞く先生、「痛いというか、、怖いです」と苦笑いしながら答えた。
 針をようやく抜いてもらえたと思ったら、「もう一度いきます」という言葉にショック。女性医師で数度ぐりぐりやって、男性医師に交代。「次が最後ですからね」って、まだあるの・・。よく覚えていないが、刺した回数はおそらく4回くらいだったと思う。

 精算を済ませて出社後、隣の席の男性社員に(どことは言わず)「針刺してきた」と軽い嫌がらせをしつつ、異動先候補の2部門の面談を受ける。
 この日は疲れたな。

 翌日は普通に仕事。風呂・シャワーは禁止、という注意事項は、できれば検査の前に言ってほしかった。

2019年1月22日(火) 検査結果:細胞診

 火・木が外来だという先生。検査結果を伝える枠として最初に水曜の12時を指定してくれたのはきっと、丁寧に説明しようということだということを理解しつつ、さすがに連続で休暇を取り過ぎている。この会社に入社してから約9年、毎年4月に20日付与されるようになった有休は、今度の3月で有効期間が切れてしまう分だけでもあまるほどあるが、ほかの社員の目が気になる。
 外来の日であれば9時に予約ができるから、10時の始業にも間に合う。

 「ちょっと、難しい結果が出ていてね」

 難しい結果?特殊、ということだろうか。いいから、私は早く、"まあ大丈夫だと思う"をいただきたい。

 「ここに、Intraductal carcinoma と書いてある」

 うん、それは?

 「Intraというのは中の、という意味、ductal は・・ダクトだから管って意味だね、でcarcinomaはガンだから、要は入管の内部のガンっていうことで」

 ?

 「浸潤癌というのと、非浸潤癌というのがあって、浸潤癌というのはこういう、入管を突き破って外に出て転移をするような癌のこと。いわゆるステージⅠ~Ⅳというのは、これのことですね。一方非浸潤癌というのは、ステージでいうと0。今回の顕微鏡診ではつまり、この非浸潤癌だろいうというのが結果で。この非浸潤癌というのは、切除することで基本的には完治する癌だと思ってもいい。これまでにうちで非浸潤癌で切除手術をした人は、誰も再発していない、ゼロです。だから、2月下旬に入院をしてもらいます。それで・・・・・」

 ・・・??

 2月の下旬に入院、そこに向けて2月の上旬にCTとMRIと・・・話し続ける先生の言葉に、たぶんずっとあいづちは打っていたとは思う。言っていた言葉を覚えているのだから脳みそは動いていたはずだが、いかんせん理解が進まない。

 「すみません、2月下旬に入院って、検査のためにってことですか?」
 「いや、検査は全部事前に受けてもらうから。今日このあと、血液検査とか心電図とかすぐに受けられる検査は受けて帰ってください。で、2月の上旬にCT、MRIで手術の範囲とかを確認して、麻酔科の先生ともまあ形式的ではあるんだけど面談をしてもらって、それで治療を決める。だから、その検査が終わったらまた来てもらうことになりますね。そのときはきちんと時間を取る必要があるから、外来の日じゃなくて、別で枠を取って話をしましょう。」
 私と話しつつ、看護師にその「別枠」の指示をする先生。

 検査スケジュールの調整のために席を立たんとするタイミングで、私はたぶん、だいぶおかしな質問をした。

 「先生、最後にちょっと確認いいですか?」
 「ええ、どうぞ」
 「私って、つまりガンなんですか?」

 私は話がよくわかっていなかった。

 これが、自分が乳がんであることがわかった日までのできごと。

【3】まとめ

・つまり2年前からガンだった?細胞診は思い切って早めがよさそう
・乳がんの細胞診はそれなりに痛いし怖い、看護師の和ませ力は偉大
・定期通院してるからってほかの病気にもなるし、見つけてはもらえない
・働かなきゃならないとかのコチラの事情は、ガンは考慮してくれない
・ならないと信じていても、なるときはなる

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