MUSICUS!感想

ゲームの感想を書くなんいつ以来か分からない。それでもMUSICUS!をプレイして、色んな人の感想やレビューを読み、思いが溢れてしまったので書く事にした。

様々なレビューや感想を見ていて一つ感じるのはそれぞれのルートが独立しておらず、様々な対比関係にあるのだから、クリアした順番がそれぞれのルートの印象に大きく影響を与えるんだろうな、ということ。

まあこれは批評ではなくただの感想であるので、そこまで体系だってしっかりと考察してるわけじゃないのは許して欲しい。

僕は澄>三日月>めぐる>弥子の順でルートをクリアした。そもそも名目上のヒロインの名前をルート名にすべきか分からないけど、まあわかりやすいのでいいだろう

プレイ順に沿って感想を書いていこうと思う。


・澄ルート

どんなゲームでも1周目は特に深く考えず、この人物だったらこうするだろうなあと直感で選択肢を選ぶことにしていて最初に入ったルート。

当初は入って三日月と袂を分かつ事になり、ああこれはキラキラの鹿之介ED(きらりBAD)のポジションなんだろうな、と思いながらプレイをしていた。

音楽に囚われ、周りの人を失っていき、それでも音楽はどんどん評価されなくなっていく。それでも抜け出せず、深い沼に落ちていく。バンドマンの世界は知らないけれど、バンドに限らず創作をしている人たちには珍しくない話なのかもしれない。

澄が最後に命を落としたときの馨の慟哭はとても心を揺さぶられたが、最後そのままホラー映画のようなEDに入った時、どうしようもない現実の重苦しさを感じた。

澄の死を持って自分を突き動かす感情を知った馨がその後に再起する、そんな展開を夢想していた瞬間に梯子を外され、読んでいて自分の感情の行く先を失ってしまった。

このルートは花井是清が残した音楽の神はいるのか?という問に対して一人で取り組み続け、同じ呪いにかかったまま最後まで救われないのだろう。


・三日月ルート

澄ルートでプレイしていて苦しい気持ちが残り、とにかく救いが欲しくて選択肢を巻き戻して三日月を選び、苦しい気持ちから逃げるように幸せな現実を追い求め、次の日に仕事があるのにも関わらず明け方までプレイしていた。

澄ルートでは一人で花井是清に向き合った結果、行き着くところまで行ってしまったが、このルートではその役割を三日月が追い、馨が一緒にその呪いと向き合う事で解を出したのかな、と思う。

結局どんな理由があろうとなかろうと、三日月という人間は音楽の才能があり、そして本人も音楽を必要としていた。そこに特別な意味なんて無くて、生きるために必要だったしそれで良かったという事なんだろう。

冷静に見ればこのルートでDr.Flowerが成功した理由は結局三日月という天才ボーカルが沢村倫という天才プロデューサーに見出されただけ。売れるきっかけも売れてからも、馨の存在はほとんど影響せず、物語の展開として果たして良かったのか疑問に思う。

まあそれでも僕は感情豊かで思い込みが激しく、可愛らしい三日月がこのゲームのヒロインとして一番好きだし、綺麗に大団円で終わったこのルートが一番好き。精神が不安定な三日月にとって、自分を初めて必要と言ってくれて、音楽の意味に対して一緒に向かいあってくれる馨という存在は何よりも大切だった、それで良いんじゃないか。


・めぐるルート

今が楽しければそれで良いという選択肢を取ったルート。このルートでは花井是清の影も薄いし、今後の展望も正直見えない。

一番印象に残ったのは楡が最後のライブ前に言っていたことで、音楽は無意味かもしれないが無価値ではないという言葉。

音楽が価値を生んだのは、このルートなのかもしれない。朝川周が死の間際に記憶を取り戻し、最後安らかな死を与える事ができた。演奏によってはっきりと人の心を動かせた事が描写されており、音楽の理想の一つなんだろう。そして今後も朝川周と同じように、この後どうなるか分からない人生だけれど、確かに楽しい音楽をやり続けて生きていく。この作品で一番悲壮感とか、そういう悲しく苦しい感情が無いルートだったのかな、と思う


・弥子ルート

音楽と決別し、現実へと帰るルート。

僕はこのルートを最後にやって良かったと思う。このルートではバンド活動の現実を覗き見た馨が、なんとか折り合いを付けながら現実へと戻っていく。展開は確かにキラキラとした青春モノなのかもしれないが、音楽にのめり込んだ馨がどのようになってしまうかを3ルートに渡って見せつけられたからこそ、尾を引かれながらも必死に現実に引き返し、最後にギターを三日月で送るシーンが感慨深かった。

実際にこのルートで馨が危惧していた音楽にのめり込んだ末路は澄ルートで描かれている。めぐるルートではその先など分からないし、三日月ルートで成功したのは結局三日月の力であって、澄ルートが一番起こり得る現実なんだろう。それでも他のルートでは結局花井是清の後を追って音楽の道に入っていくのだが、音楽から距離を取ったこのルートが一番最初に音楽という表現に対する疑念の答えが出たというのも皮肉だと思う。

他のルートではバンド活動の苦しみも多く描かれているし、求道者となって、それでも向き合って音楽の神をなんとか探していくんだけれど、音楽はそんなに苦しいものじゃなくて、もっと純粋に楽しいものなんだというメッセージをこのルートから感じた。これは最初にこのルートから入っていれば、もっと薄っぺらくご都合的に感じたと思うけれど、最後にこのルートをやったからこそ、この優しい結末が身に沁みたんだ。


・その他の不満とかもろもろ

まあとはいえ不満はある。システム周りはシーンジャンプやスキップがなくて不親切だし、サウンド設定も環境音とかもっと細かく設定させて欲しかった。

ライブシーンの演出もかなり不満。ビジュアルノベルの形式なのだから、こだわって欲しかった。特に三日月ルートのスタジェネのライブ、このゲームの単体ではスタジェネはかなり描写が少なかった存在で、それでも重要な役割をもたせるならこのライブはかなり大切なシーンのはずなのに、普通に読み勧めていくと歌が始まってちょっとしたところでそのまま終わってしまう。

あとは各キャラクターのフェードアウトが早かったのも少し寂しかった。定時制高校のみんながフェードアウトしていくのは弥子ルートと他のルートの対比からして、あえてそれで良いのかもしれないけれど鳥居さんやプテラノドンの面々とかね。まあ出てきすぎて冗長かもしれないけれど。

それと細かい設定の食い違いも気になった。三日月が香織のエピソードを知っていたり、知らなかったり、紅白に1回目に出たタイミングも結構怪しかったり(三日月と同棲してから紅白2回出てるって事なんだろうか。それだと倫はずっとそれを知らなかったのかな。まあこれはそういう事かもしれないけど)まあこれに関しては些事なんで別2良いんだけれども


・最後に

結局こんな感想を思い立って書いてしまったくらいにこの作品には感化されたし、今までやってきたエロゲーの中では一番特別な作品になったと思う。

キラ☆キラも自分にとっては非常に特別な作品で、この作品に対する期待を抱えすぎていないかと自分でも不安に思っていたが、それを越えてくれてよかったと思う。やはり瀬戸口氏の文章にはそれだけ心を揺さぶられるのだろう。

澄ルートに最初入ったときは、ああこれは確かにキラ☆キラの後継なんだな、と思ったが、全てをプレイし終えたときは全然違う印象を持った。

キラ☆キラは各ヒロインが人生の中で抱えるテーマに対して音楽を通じてそのテーマを解いていくシナリオだったのに対して、MUSICUS!は馨の音楽に対する取り組み方が主としてあって、それにちょうどヒロインを当てはめたという構成だ。そういう意味でDEAR DROPSの方が近いのかもしれない。

まあキラ☆キラ、DEAR DROPSに次ぐ系譜の作品である事は間違いない。今後OVER DRIVEがどうなるのか分からないが、CFを通じてこの作品を世に送り出せる手助けが出来たことを本当に嬉しく思っている。

普段はあまりライブに興味がなかったが、友人の勧めで打ち上げライブ視聴権が付いてくるコースで支援したので、書き下ろし小説と合わせてまだもう少しこの作品を楽しめるのも幸せな事だ。

この作品をプレイした時の感動忘れずにその日を楽しみに待つことにしよう


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