占い師レイコさん
その頃、仕事帰りに、ときどき、街角の占い師に占ってもらっていた。本当は話し相手が欲しかったのだと思う。占い師はレイコさんといった。数回通ううちに仲良くなった。「見て欲しくなったらいつでもおいでよ」。
その日も、占ってもらいながら恋愛や上司の話などを聞いてもらっていた。だが、レイコさんは何だか暗い顔をしている。
「どうかしたんですか」
「実は、先日、ちょっとがんばって人類の未来を占ってみたの。そしたら、すごい結果が出たのよ」
「どんな結果ですか」
「あと数年で人類は滅亡するって」
「どうやって」
「未知の状況が発生する。私の力でははっきりとは見えなかった。でも何か大きなイベントが起きることは間違いない。夢子ちゃんも一日一日を大切にしてね」
数日後、朝起きると、私の周りの電子機器がすべて動かなくなっていた。電話もつながらない。テレビもつかない。
通勤のため駅に向かったが、車が一台も走っていない。駅に着くと、電車の再開の見込みは全く立っていません、と駅員が声を張り上げていた。
アパートに戻ったが、情報が何も入ってこない。市役所の広報車も回って来ない。
空が急に曇ってきて、雷が鳴り始めた。雷が私のアパートの道向かいの家に落ち、火が出た。真っ黒い煙が私の部屋にも入ってくる。消防車も来ない。逃げなきゃ。
外に出ると、あちこちで火が出ていた。雷だけで雨は降っていない。道には人がたくさんいた。でも、どこに逃げたらいいのだろう。
川なら水がある。川に向かって逃げれば何とかなるかも。周りの人も同じように考えたのか、人の流れは川に向かってできていたので、私も皆と同じ方向に走り出した。雷は建物をどんどん直撃し、火事を起こしている。火の熱さが伝わってきて怖い。
と、急に腕を引っ張られた。レイコさんだった。
「こっちよ」
私はレイコさんと一緒に路地を走り、地下鉄の駅に入った。真っ暗だ。息が切れ、端の壁際に座った。
「これが滅亡の始まりなの」
「まあ、そういうこと。でも、よく占ったら滅亡じゃなかった。今起きてることは、宇宙人の仕業に見せかけて世界政府が行っていることよ。これから、本物の宇宙人が来て私たちを守ってくれる。世界政府対本物の宇宙人の戦いになる。戦いはすぐに決着がつく。多くの犠牲者が出る」
「え、宇宙人って」
そのとき、ドーンという大きな爆発音が聞こえて地下鉄構内が揺れた。
「怖い。私たちここで死ぬのかな」
私はレイコさんにしがみついた。レイコさんは私を抱きしめてくれた。
「きっと大丈夫。なんとかなるよ」
キューンという聞いたことのない甲高い音や、ドーンという爆発音が繰り返し聞こえ、だんだん遠ざかっていき、静かになった。私たちは数時間静かに隠れていた。地上は一体どうなっているのだろう。
「よし、ちょっと地上の様子を見てみよう」とレイコさんが言った。
「大丈夫かな」
「誰にも見つからないように、そっと見てみよう」
地上は、焼けた建物はかなりあったが、火は消えていた。それ以上の目立ったものはなかった。消防車のサイレンの音が聞こえる。
「建物が全部なくなってるかと思った」と私は言った。
「うふふ。私たち、助かったみたいね」とレイコさんが言った。
「レイコさんは、全部分かってたの」
「私、実は宇宙人なんだ。世界政府の動きを宇宙艦隊に報告するために地球に送り込まれたの。占い師は地球で暮らしていくためにやってたの。夢子ちゃんは地球のいろいろなことを私に教えてくれた。本当は、私に関係した人は今回の騒動の中で全員殺す計画だった。でも、夢子ちゃんを殺すことなんてできなかった。だから、夢子ちゃんのアパートの座標を少しずらして報告して雷が落ちないようにして、助けたってわけ」
「でも、レイコさんは、そんな違反をして大丈夫なの」
「宇宙艦隊から追われる身になったわね」
「私のアパートで一緒に隠れて暮らしましょう。私は死んだことになってるわけだし」
「そうね。しばらくお世話になっちゃおうかな」
レイコさんは、私のアパートに隠れ住み、オンライン占い師となって大金を稼ぎ出した。私は前の会社を辞め、別の会社で働き始めた。
楽しい日々が数年、続いた。
ある日、レイコさんはいなくなった。
危険を察知してどこかに逃げたのか、それとも、宇宙艦隊が派遣したエージェントに連れ去られたのか。
もしかしたら、レイコさんは、宇宙人なんかじゃなくて、作り話のうまい変人だったのかも。
でも、もし、いつか、レイコさんが戻ってきたら、また匿ってあげるつもりだ。
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