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亡霊と言っていた君は

『俺はあのキャンパスにいる亡霊なんだ』

そう言った彼は、野鳥を数える会の長靴をとてもオシャレに履きこなしていました。

『そのブーツすごく素敵だし、似合ってるね!いいなぁ〜』

『これブーツじゃないんだよ、長靴なのさぁ』

彼は東京に長く住んでいるけど、
ネイティブ青森方言は健在していました。

かくいう私は仕事帰りの、OLスタイルでピンヒール。

足元に如実に現れる自分の現状の対比が面白くもあって、
ピンヒールに行き着いた自分に少しガッカリしたものでした。

そんな彼は私と同じ美術大学の同期生でした。
私はテキスタイルを専攻し、
彼は環境デザインを専攻していました。

私は高校時代にハードコアパンクバンドなどをやっていて、大学入学当時は本気のモヒカンでした。
女芸人のまちゃまちゃさんと同じ感じです。
オレンジの立髪で、腰には弾丸のベルトを巻いて、ドクターマーチンを履いて毎日通学していました。

美大だからそんな人たくさんいるし、
すぐ友達できるだろうと思ったけれど、
それは検討違いでした。

異様に大人っぽい人50%。
異様にパリピっぽい人50%。

そんな中異様にパンクっぽいひと一人。
大学の2ちゃんねるでは『弾丸女』と呼ばれていじられる対象でした。
骸骨を持ったロリータ女性に執拗に追いかけ回されたりもしました。

そんな中、彼は私を人として向き合ってくれた数少ない友人のうちの一人でした。
彼もまた、ロックバンドをしていて同じ匂いがしたからかもしれません。

そんな彼はある日突然、大学を辞めたのです。
私は辞めると言う彼に理由は特に聞きませんでした。

『どうして辞めるの?』
って聞くのって、なんだか辞める選択肢があること自体を否定してしまうような気もしたし、
自然とその言葉が私から出てこなかったんです。

決断をした人はサラッとしててかっこよく見えたのでした。

それから数年後、私は卒業し社会へ飛び立ちました。
いろんな事が短期間で起きて、今の会社に落ち着きモヒカンだった私は、ピンヒールのOLと化しました。

とある日、ショートメールで彼から
『今日の夜、君の街を通るから飲まないか?』
と誘いがあったのです。

忘れていた彼の存在を思い出して、
懐かしいし、久々に会いたいし、
即オッケーしました。

そして野鳥を数える会のブーツと
仕事上がりのピンヒールは再会したのでした。

チェーン店の居酒屋の個室で、
あれからどうした、こうした、
バンドはどうした、
私はこんなことがあった、と話が止まりませんでした。

『俺はあのキャンパスにまだいる感じがするのさぁ』

『あのキャンパスに俺の亡霊がいるのさぁ』

彼はそんな言葉を突然漏らしました。

私は彼のその言葉が愛しくて愛しくてたまらなくなりました。

『自分でも言いづらかった本音を話すことができたね!
口にすることができたからもう大丈夫だよ!』

と心の中で興奮しながらも

『そうかぁー。亡霊になってるのかぁ。
いつか成仏したって思ったらまた私の街を通って。』

と最大限の笑顔で声を掛けました。

すると彼は

『今までの君で、いっちばんきれいだなーって今思ったさぁ』

と少し笑いながら言いました。

彼はその日、私と会うまでの時間、
私の住む街を散策して、
『MAPを作っていたのさぁ』
とミニクロッキーを出して見せてくれました。

それがトップ画です。

ど、独特ぅ〜!!

彼は環境デザイン専攻を辞めたけど、
彼はやっぱり環境を愛しているのです。

だから亡霊してるんでしょうね。


そして、さらに忘れかけていた頃に何度か不思議な形で出没する彼でした。

それはまた次のお話で。



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