早稲田ロー 2021(令和3)年度 再現答案 民法【半免】


第1 問題1
1 小問(1)
(1)CのBに対する請求の訴訟物は、所有権(206条)に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求である。
(2)その請求原因は、①C所有、②B占有である。
本件で、もと所有者のAから、売買契約(555条)により、Cは甲土地の所有権を取得し(①充足)、一方で、Bは甲土地上に乙建物を所有し、居住している(②充足)。
よって、右請求が認められるとも思える。
(3)もっとも、Bから占有正権原の抗弁をすることが考えられる。
本件で、A B間で甲土地の賃貸借契約(601条)を締結している。
つぎに、BのAに対する賃借権をもって、Cに対抗できるか検討する。
まず、賃借権の登記(605条)はなく、民法上対抗できない。
もっとも、甲土地の賃借権は、乙という「建物の所有を目的とする…土地の賃借権」(借地借家法2条1号)であり、借地権に当たる。
そして、借地権の対抗力は土地上に登記された建物があれば認められる(同10条1項)。本件で、乙土地に登記があるという事情はない。
よって、借地権をCに対抗することができない。
(4)よって、CはBに対して明渡しを求めることができる。
2 小問(2)
(1)CはBに対して601条に基づき甲土地の賃料支払い請求ができるか。
(2)もっとも、CとBは賃貸借契約を締結していない。そこで、A B間の賃貸借契約における、賃貸人たる地位がAからCに移転し、それをBに対抗できる必要がある。
(3)本件で、Aは甲土地の「譲渡人」でかつ「賃貸人」である。そうすると、Aと「譲受人」たるCの「合意」があれば、賃貸人たる地位がCに移転する(605条の3前段)。
そして、同後段が準用する605条の2第3項より、不動産の所有権移転登記を要するところ、本件ではこれがない。
(4)よって、Cは賃借人Bに賃貸人たる地位を対抗できず、賃料支払い請求は認められない。
3 小問(3)
(1)EのCに対する請求の訴訟物は、所有権に基づく返還請求権としての建物収去土地明渡請求である。
(2)その請求原因は、①E所有、②C占有である。
本件で、抵当権の実行により、BがEから売買により甲土地の所有権を取得している(①充足)。もっとも、Cは丙建物をFに売却しており、②C占有が認められない。
(3)もっとも、登記名義人がCであることをもって、Cに対して物権的請求をすることができないか。
 
 そもそも、物権的請求権の根拠は、所有者が自らの権利を正当に行使することを補助 する点にある。そうすると、返還請求権の場合、原則として、現に占有をしている者、すなわち建物所有者に対して行使できると考えるべきである。
 しかしながら、登記名義人は、土地の所有者と建物所有権の喪失をめぐって建物につき対抗関係(177条)類似の側面がある。
 さらに、登記名義人に対して請求できなければ、現に占有している者を探求することが困難である以上、土地所有者にとって不都合である。
 そこで、①登記名義人が自らの意思に基づき登記を具備した場合で、②いまだにその登記が残存している場合には、登記名義人に対して返還請求権を行使できると解する。

 本件で、Cは、自ら丙建物の所有権保存登記をし(①充足)、右登記はいまだにCのままである(②充足)。
 よって、EはCに対して、物権的請求権を行使できる。
(4)Cとしては、乙建物につき有していた建物利用権が、丙建物について残存していることをもって、占有正権原を有していると反論すると考えられる。
 もっとも、混同(179条)により消滅していて、認められない。
(5)次に、Cは、丙建物につき法定地上権(388条前段)が成立することをもって、Eが占有正権原を有するから、占有正権原の抗弁があり、右請求が認められないと反論すると考えられる。この反論は認められるか。
 
 まず、甲「土地」と、乙「建物」は、Dの甲土地への「抵当権が設定され」た当時、Cという「同一の所有者に属」していた。
 
 ここで、抵当権実行時には、乙建物から丙建物へと変わっている。この点、右抵当権は、乙建物との関係で、担保価値を把握するという点から、新築に際して知っていた等の特段の事情のない限り、法定地上権が認められないと解する。

 本件で、新築をするということは知らなかった。
 
よって、法定地上権はEに成立せず、右請求は認められない。
第2 設問2
1 小問(1)
(1)設問前段
 BのAに対する請求の根拠は、請負契約(632条)に基づく報酬支払請求権の履行遅滞に基づく損害賠償請求権(415条1項)である。ここで、報酬支払請求権は、目的物引渡しと同時履行関係(633条)にある。したがって、引渡し日に報酬支払請求が可能になる。
そうすると、引き渡し、すなわち弁済提供(493条)したのち、履行請求ないし期限を知った時のいずれか早い時(412条2項)から、請求が可能になる。
(2)設問後段
報酬支払請求権と、目的物引渡請求権は同時履行の関係にある(633条)以上、引渡しを拒むことができる(533条参照)。
2 小問(2)
(1)Aに対する請求
DのAに対する請求の根拠は、不法行為に基づく損害賠償請求権(709条)である。 そして、Aは「注文者」であり、716条により原則として責任を負わないとも思える。
 ここで、Aと請負契約を締結しているのはBであり、Cの損害は「請負人がその仕事につき第三者に加えた損害」には当たらないとも思える。
 もっとも、CはBの被用者(624条)であり、Bの指示した「労働に従事する」ものである。そうすると、Cの不法行為はBのそれと同視できる。
 よって、Cの損害は「請負人がその仕事につき第三者に加えた損害」にあたる。
そして、本件で、Aに過失はなく、同但し書きは適用されない。

 よって、716条本文により、請求が認められない。
(2)Bに対する請求
DのBに対する請求の根拠は、715条1項である。
Bは、建設という「事業のため」、Cという「他人を使用する者」にあたる。
ここで、「ある事業の執行について」とは、外形的・客観的に見て、職務行為に該当するものをいう。
 本件で、Cが行っていた甲建物の屋根での作業中、工具を甲建物が接する公道に落とすことは、外径的に見て職務行為にあたる。
 よって、「ある事業の執行」にあたる。
 そして、「第三者」Dは250万円の「損害」をうけていて、同条の要件を満たす。
 もっとも、「相当の注意をした」(同項但書)として免責されないか。
 
 ここで、使用者であるBは、公道に接する建物でCが作業をする以上、公道を歩く者に対してたとえ工員に落ち度があったとしても、危害が加わらないような設備を設ける義務が生じていたと言える。
 そして、本件で、何らの対策もしていなかった以上、Bはこの義務を履行したとは言えず、「相当の注意をした」とはいえない。
 よって、免責されず、Bに対する請求が認められる。
3 小問(3)

 715条3項により、支払額である250万円分の求償が認められる。
以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?