東大ロー 2021(令和3)年度 再現答案 刑事系【78点】

第1 設問1(以下この設問で刑法は略)
1 まず、Aの顔面を殴打して死亡させた行為につき、傷害致死罪(205条)が成立し
ないか。
(1)まず、Xは、Aの顔面という「身体」を殴打し、気絶させていて、人の生理的機能に対して傷害を与えていて、「傷害」したと言える。
(2)次に、Aは「死亡」しており、右Xの殴打行為に「よって」死亡していると言える。
(3)また、「故意」(38条1項)もある。よって、同罪の構成要件に該当する。
2 もっとも、Aは自らの秘密の載った写真を高額で買い取るようにせがまれているとこ
ろ正当防衛(36条1項)が成立しないか。
 (1)「急迫」とは、法益侵害が現に存在しているか、明らかに押し迫っていることを
いう。本件で、秘密の写った写真を高額で買うようにAから言われているから、Xの名誉・プライバシー・財産権について、法益侵害が現に存在していて、「急迫」している「侵害」があると言える。
 (2)そして、「防衛するため」とは、侵害の認識と侵害に対応する意識があれば、攻撃の意思が並存していてもよい。本件で、確かにXはカッとなってAを殴っているものの、Aが写真を見せてきたことを認識して、これに対応する意思はあるから、「自己の」上記「権利を防衛するため」といえる。
 (3)「やむを得ずにした」かは、防衛行為が相当性を有していたか否かを武器対等の原則を中心に諸事情を総合考慮して検討する。
本件で、Aは写真を見せつけて、現にプライバシー・名誉・財産の利益を侵害している。一方で、XはAの顔面という枢要部を手拳で強く強打し、身体という利益を強く侵害しているといえる。
よって、防衛行為の相当性を欠き、「やむを得ずにした」とは言えない。
 (4)よって、①傷害致死罪が成立し、過剰防衛(36条2項)として、刑の任意的減免を受ける。
3 次に、A宅の灰皿に火をつけた行為につき、非現住建造等放火未遂罪(109条1項、112条)が成立しないか。
 (1)「放火」とは、焼損を惹起する行為をいう。本件で、木造の家に置いてある燃焼性の高い布でできた枕元のサイドテーブルにある灰皿で写真に火をつける行為は、枕を通じて家の焼損を惹起するといえ「放火」したと言える。
 (2)そして、A宅はAの一人暮らしで、火をつけた時点でAは死亡していたのだから、A宅は「現に人が住居に使用しない建造物」に当たる。
 (3)「焼損」とは、既遂を早く認めるべき失火罪との統一的な把握から、火が媒介物を離れて目的物に移り、独立して燃焼を継続するに至った状態のことを言う。
本件で、火は灰皿内で止まり、消えている。よって、「焼損」していない。
 (4)もっとも、XはAが生きていると思って放火したのだから、現住建造物放火罪(108条)の故意は有していたとしても、非現住建造物放火罪の故意はなく、故意責任を問うことはできないのではないか。
   
ア 故意責任の本質は、犯罪事実の認識・認容により、反対動機が形成されたのにあえてこれを犯した道義的非難にある。そうすると、保護法益・行為態様から、構成要件に実質的な重なり合いが認められる場合は、その限度で反対動機が形成される以上、故意責任を問いうる。

   イ 本件で、現住建造物放火罪と非現住建造物放火罪は、両者とも公共の安全を保護法益にして、その行為態様も建物を燃やすという点で共通している。
   
ウ よって、非現住建造物放火罪の範囲で実質的な重なり合いがあり、Xは同罪の「故意」を有していたと言える。
 (5)よって、②非現住建造物放火未遂罪が成立する。
4 そして、A宅を燃やしてAを殺そうとした行為に殺人未遂罪(199条、203条)が成立しないか。
 (1)ここで、灰皿に火をつけた時点ではAは既に死んでいた以上、Aの死亡を招来できず、不能犯として処罰できないとも思える。
 (2)そもそも、未遂犯の処罰根拠は、法益侵害の現実的危険を惹起したことにある。そうすると、一般人が認識しえた事情及び行為者が特に認識した事情のうち真実に合致するものを基礎に、一般人からして法益侵害の具体的危険がある場合には、未遂犯として処罰できると解する。
 (3)本件で、灰皿に火をつけた当時、一般人からして、Aが死んでいることは認識し得ず、また、Xもこれを認識していなかった。そうすると、一般人からみて家に火をつければ中にいる人が燃えて死ぬため、法益侵害の具体的危険があると言える。
 (4)よって③殺人未遂罪が成立し、①②と併合罪(45条前段)となる。
第2 設問2(以下、刑事訴訟法は略)
1 本件D V Dが伝聞証拠(320条1項)に該当する場合は、原則として証拠能力が否定される。
 伝聞証拠とは、公判廷外供述のうち、内容の真実性が問題となるものをいう。内容の真実性が問題となるか否かは、要証事実との関係で相対的に決する。
2 まず、Bの録取過程について。本件で、争点となっているのはXの犯人性である。
 そして、BのAがXに対して事件当日にA宅に来るように指示したと聞いたことは、
 まずAのBに対する発言の存在を前提に、真実AがXに指示したことを推認して、も
 って犯行当日A宅にXがいたことを推認し、犯人性を推認するものだから、要証事実は
 AのBに対する発言の存在となり、内容の真実性が問題となる。よって、伝聞証拠に該
当する。
 (1)そこで、本件D V Dは「書面」ではないものの、Bという「被告人以外の者」の
取り調べが検察官の面前で行われていることから、321条1項2号を準用して検討する。なお、検察官の録取過程については、D V Dの機械的な正確性から、署名・押印を要しない。
 (2)本件で、Bは「死亡」して「公判期日において供述ができない」。よって、同前段
の要件を充足する。
 (3)よって、Bの録取過程との関係では伝聞例外にあたる。
3 では、Aの録取過程との関係ではどうか。本件の争点は犯人性である。ここで、AがXに対して来るように指示をしたことから、犯行日にA・XがA宅にいたことが推認され、もって犯人性が推認される。そうすると、要証事実は現に指示したこととなり、内容の真実性が問題となるから、伝聞証拠に当たる。
 (1)本件D V Dにおいて、Bという「被告人以外の者」が、Aという「被告人以外の者の供述を内容とする供述」をしているから、324条2項が準用する321条1項3号の要件について検討する。
 (2)本件でAは「死亡」していて供述不能である。そして、上記のように、犯人性立証のためには、AのXに対する指示の事実は「犯罪の証明に書くことができない」と言える。そして、長年の友人たるBにこれを話しているのだから、「特に信用すべき情況」(同但書)にてなされたと言える。
 (3)よって、伝聞例外の要件を充足する。
4 よって、裁判所は本件D V Dを証拠として採用できる。
以上

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