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旅する木

ホテルのベルパーソンは、口をポカンとあけていました。
確かに「木」という名の予約が入っていました。でもまさか・・・・。

「驚かせてすみません。でも、きちんと代金はお支払いしますし、一泊させてもらえませんか?」と『木さん』。

「お客様、少々お待ちいただけますか?」

入れ替わりで出てきたのは、このホテルの支配人。
ホテルの支配人も、木さんの姿を見て内心ギョッとしましたが、平静を装いこう言いました。

「あいにく、当ホテルには、
     お客様のサイズに合うお部屋がございません・・・。」

木さんは言いました。

「エントランスの一角で結構です。そこなら、吹き抜けになっているし、私の体も入るはずです。他のお客さんの迷惑になることはありません。自分で移動でき話せること以外は、普通の木と変わりありませんから・・・。」

支配人は、腕組みしてしばらく考えてから、

「わかりました。では、ご案内します。」

★    ★    ★     ★

ホテルのお客は、木さんをエントランスの木だと思ったようです。

「やあ、この木、造り物かと思ったら本物じゃないか。」
「あら、本当。心和むわ。」

木さんは、そんなお客たちの会話を楽しみながら、エントランスでゆったりと過ごしました。

夜になりました。

ベルパーソンが、何かを持ってきました。
それは素敵な珈琲カップ。

「当ホテルのサービスです。もちろん、中身は珈琲ではございません。
植物によいものを調べてご用意させていただきました。」

木さんは、大喜び!

次の日の早朝、木さんはホテルを後にしました。

木さんの旅は、まだ始まったばかりです。