主のいない部屋
何もないガランとした部屋にあったのは、
重たいばかりで、着てもあまり暖かくなさそうな古いコート。
それから、変わったデザインの古い電気ポット。
(お湯を沸かして、お茶でも飲もうか。)
通電してみたけれど、いっこうにお湯が沸かない。
断線しているか何かで、壊れているようだ。
コートとポットは、持ち主がいなくなっても、
その物の性質を保ってここに在る。
主だけが、いない。
この部屋も、コートも、壊れているポットも、
脱ぎ捨てられた殻のよう。
(人も脱皮するんだな。)
脱皮する度に、要らなくなったものを脱ぎ捨てる。
最後は、体も脱ぎ捨てられて、透明になり消えていく。
この人は、今どうしているのだろう?
新しいポットを買って、新しい部屋で、お茶でも飲んでいるのか?
それとも、もう、なんにも必要なくなっているのか?
私は窓を開けて、新しい空気を入れた。
そして、大きく深呼吸した。