狐と豆腐屋(6)
「わたしが狐だと言っても、驚かないんですね。」
「ええ。だって、世の中は不思議なことだらけです。
僕は常識っていうものを、
いつも色々な角度から見るようにしているから。
ほら、神話って神々と人間がいっしょに生活しているでしょう?
それから、目に見えないけれど妖精とか妖怪とか幽霊とか・・・
お話の中では、動物が人間のように喋っているのは当たり前です。」
「あなたは、まるで豆腐屋さんらしくないですね。」
わたしが言うと
「あなたがイメージしているものが、どういうものかわからないけど
僕は豆腐屋です。祖父が亡くなり、祖母が店を畳もうとしたとき、
後継ぎを申し出たのです。
思っていたより、キツイ仕事です。
でも、おいしいと言ってくれる人がいて、その言葉がただ嬉しい。」
豆腐屋さんは、時計を見て言った。
「じゃあ、店があるので・・・これで。また来てくださいね。」
自転車を漕いで、豆腐屋さんは、店に戻っていった。
正体を人間に明かしたなんてことを、
わたしのおばあさんが知ったらどうなるだろう・・・。
その時、豆腐屋さんの言った言葉が心の中でこだました。
僕は常識っていうものを、
いつも色々な角度から見るようにしているから。
明日は、フードを脱いで豆腐屋さんに行ってみようか・・・・。
風が、むき出しになった狐の耳を優しく撫でていった。
(おしまい)