見出し画像

紙で遊ぶ 燐寸のお話(7)

 買い物帰り。急に思い立って、いつもと違う道を歩いてみた。少しだけ遠回りして町はずれまで来た。ほとんどの店がシャッターを閉めている。

『昔はみんなお店を開けていて、活気があっただろうに。』そう思いつつ、特別な感慨もなく歩き続けた。去年、一番下の子が家を出た。

空の巣症候群とは、うまいこと言うねぇ。
                   私の巣は空っぽ。心も空っぽ。

通りの角まで来て、開いている店を見つけた。

      『角のたばこ屋ね・・・・。じゃなくてマッチ屋?』

店主とおぼしき女性と、目を合わせてしまった。長い髪を一つに束ねて、ゆで卵みたいな顔に愛嬌のある目鼻立ち。

彼女は
    「いらっしゃいませ!どんなマッチをお探しですか?
             舞台初日の劇団員みたいに、元気よく言った。
                             
                             (つづく)