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きつねの地図

きつねは、頭の中に地図を持っています。
それは自分のテリトリーの地図です。


月のきれいに見える丘。
木々や空を映しながら、森の奥に在る水辺。
実がなる木や、小鳥の巣がある場所。
野ネズミが住む茂み。

きつねは母さんや兄弟と別れてから、2度目の季節を迎えました。


きつねは、探していました。
独り立ちして最初に友達になった花を。

(確か、あの場所に・・・・あの場所に咲いているはずだ。)

大きな水辺をぐるりとまわったすぐそばに、
小さいけれど深い池がありました。その周りは、
日当たりのよい くさはらで、去年の今時期、きつねは
花と出会ったのでした。

花を探して歩いていくと、居ました。花が!
同じ場所に咲いていました!
去年と同じように!

きつねは、花に話しかけました。
「やあ、久しぶり。元気かい?」

すると花は、キョトンとして言いました。
「こんにちは・・・。あのう、申し訳ないけれど、
      私はあなたに会うのは初めてだと思うのですが・・・。」

きつねは(そんなはずはない。)と思い、花にこう言いました。

「わたしは、1年前、星や月が出てくるまでたくさんあなたと話をしました。母さんや兄弟たちと別れたばかりだったので、とても慰められたのです・・・。あなたは忘れているかもしれませんが・・・。」

花は合点がいったようで、こう言いました。
「たぶんそれは、私の先代です。私たちの種族は冬を越すことができないのです。ただ、根は生きていますから、その時が来たら次の世代が花を咲かせるのですよ。」

きつねは、胸がいっぱいになって、
           花の(お母さん)がどんなだったか話しました。

花は、言いました。

「私たちは、親を知らずに生まれて死ぬので先代がどのような存在だったか知ることができて嬉しいです。」


きつねは、1年前と同じように、
           星や月が出てくるまで花と語り合いました。

「1年後、もう、あなたはいないのですね。」

 きつねは悲しい気持ちで言いました。

 すると花は言いました。

「でも、私の(次の世代)は居るはずです。
              その子に私のことを話して下さいますか?」

「もちろん。よろこんで。」
       
きつねは言いました。

きつねの地図には、花の場所がとりわけ大事に記されています。
 
 (来年も、またその次の年も、
          変わらずここに来られますように・・・。)

きつねは、そう願いながら、自分のねぐらに帰っていきました。