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エルの店(13)

            「弱さ」はご法度。

 そう考えて「乙女心」を封印していたのに、
    こんなきっかけで「バレーボール」から離れて
             「バレエシューズ」を履くことになろうとは。


部屋履きのバレエシューズは、軽くてとても履き心地がよかった。
         ピンクの光沢のある生地がまぶしくて、クラクラした。


エルさんは、言った。

「思った通り、あなたにピッタリ! あのね、バレエを踊る人たちね。あの人たち、とても強靭なの。しなやかな強さね。
 私、物事をいろいろな角度から考えてみるの。人はみんな一面ではなく何面もある多面体だと思う。一面しかない人生はもろくて弱い。だってその面がダメになったらおしまいでしょう?だから、多面体で生きたらいいと思う。あなたも時々、もうひとりの自分を労わって、そのシューズをそっと履いてみたらどうかな?」

   エルさんの言葉が心に響いて、涙が出そうになるのをこらえた。

「じゃ、いただこうかな。
      いつも脚のメンテナンスをしてもらっているお礼も兼ねて。」

どこまでも強がってしまう私だが、本当は心の中にピンク色のシューズを抱きしめている小さな女の子がいるのだった。

                つづく