エルの店(15)
「それではフットケアをしますね。」
こんなおばあさんの、汚い足を人様に見せておまけに洗ってもらうなんて・・・。とても恥ずかしかった。
私は、そのことを率直に言ってエルさんに詫びた。
「お客様の足を綺麗にするのが私の腕の見せ所です。
それが、私の喜びでもあるのですよ。」
エルさんは言った。
・・・・・・・最初はくすぐったいような気持ちだったが、なるほどプロのケアはとても気持ちがよかった。
そして、私はいつのまにか、うとうと眠ってしまった。
★ ★ ★ ★
目が覚めると、
「それでは、ネイルをしますね。」
エルさんは言った。
えっ!手にマニキュアを塗ったこともないのに、足に?
私はあわてて言った。
「もう充分よくしていただきました。ありがとう。
もう、これでいいから。」
エルさんは、柔和だけれど強い推しの口調で
「もし、お気に召さなければ
すぐに拭き取りますからさせていただけませんか?
代金は、娘さんからいただいていますよ。」
仕方なく、私は足に、人生初のネイルをすることになった。
ネイルの間、問わず語りで自分の悩みをエルさんに打ち明けてしまった。
エルさんは、相槌を打ちながら、黙って私の話を聞いてくれた。
★ ★ ★ ★
施術がすべて終わった。
私は自分の足を見た。楽しい気分だった。
「お客様、悩み事は尽きないですね。私もそうです。どうしていいものやらわからないから悩みますよね。でも、だからこそ、なにかしら楽しいことを見つけましょうよ。」
帰りの車中。娘に感謝の言葉を伝えて自分の家に戻った。
靴下を脱ぐと、爪の上の小さなアートが私の目を楽しませた。
愛犬がやってきて、不思議そうに私の爪と顔を見つめた。
おしまい