エルの店(12)
脚の調子が悪いのでちょっとメンテナンスしてもらおうと、
その店に寄った。
赤い半開きの扉。店の前にはミルクティー色の眠り猫。
エルさんの店だ。
私はスポーツをしていて、体のメンテナンスには人一倍気を遣っている。
生物学的な性別は女だけど、
男って言ってもいいんじゃないかと思うことがある。
エルさんに脚をケアしてもらいながら、店内を見渡した。スポーツシューズには詳しいけれど、こんな品々には縁がないなあ・・・・。かわいいピンクのバレエシューズが目に留まった。
実は隠していることがある。
チームの中では、強がっているけれど、
本当の私は「乙女心」を隠し持っているのだ。
可愛いものや、美しいもの、儚いものが好き。
でもそれは弱さに繋がるような気がして自分の中で封印している。
エルさんが、不意に話しかけてきた。
「あのね、あのバレエシューズ、部屋履きなの。柔らかくてとても履き心地がいいの。もしよかったら試してみない?」
ここにはエルさんと私しかいない。
少し躊躇したけれど、履いてみることにした。
つづく