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夜明けまで

夜明けまで一緒にいてよ、と言えるひとがいたらいいなと思う。

てっきり物語のなかで、徹夜でもするのかと思っていたが違った。ただ、いつ訪れるかわからない夜明けを待つような日々を送るふたりの物語で、彼らは無理をしない (ように心がけているつもりだろう) し、終電で帰る。でも、そばにいなくても、恋人や友人という関係でなくても、夜のなかにいるものどうし、一緒に夜明けを待ちわびることができる。それがどれだけふたりに力を与えたのかは、物語を読めばわかる。

人生がまっくらだ、と思うようなことを、幸いわたしは経験したことがない。......まあ、一時的にそういう落ち込み方をすることはあるけど、なんてことなくて、すぐに光がさしてくる。でも、薄曇りが続く日はある。なんで普通のことが普通にできないんだろう。普通に生きられるようになりたいなぁ、と結構切実に思うことがある。こういうときの普通っていうのは、そう、だいぶ乱暴な使い方のそれだって自覚はあるけど、たとえばはじめましての他人と会話していて、変わってるとか、人見知りだって思われないようにしたいとか。毎日きちんと家事をこなすとか。夜になったらお茶を入れてスピーカーで音楽をかけて、遅すぎない時間に寝るとか。ささやかだけど、自分にはたいそうなことばかり。

でもきっと、普通は普通じゃなくて、みんな何かしら変なところや患っているところ、きずがあって、わたしがうらやましいと思う人生を送っているひとも、たぶん何かに悩んでいたり、誰かをうらやんでいたりする。この本を読むと、そう思う。

どうせみんな薄闇の中にいるような気持ちに、ひとりぼっちやみじめさを感じるような気持ちになる瞬間があるのなら、せめてそれを分け合えたらいい。心をひとかけずつ交換して、一緒に夜明けを待ちたい。そうなれば、きっときれいな朝焼けが、わたしたちの前にあらわれる。

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