花束
さよならを言うために会う待ち合わせ 花束が振りむいて笑った
旅立たぬわたしに花が渡されてあなたの両手はもう羽ばたける
「ひとに花をあげる理由を探してて」そう言うあなたは窓辺のようで
switzwerlandの投稿ばかり見る そこにもインフルエンサーはいる
アルゴリズムに教わるほどの寂しさを抱えてたのに 交換しよう
アルプスの山にも花は咲くだろう fleur あなたが指先で摘む
にっぽんで最後に食べたいもの聞かれ飽きたって並ぶクロワッサン屋
最後って大袈裟じゃない? なのにほら、ブラッドオレンジ酸味が強い
駅前へ行くバスなんてすぐに来る 最後から2番目のさようなら
花束と歩いていった帰り道 モノクロームのあかるい夜道
あるときはしおからかった瓶のなか蛇口の水が満たすしあわせ
薔薇だけが名前を呼んでやれる花 あとは名前をつけてみる花
突然の別れでもなく永遠の別れでもないただの、お別れ
さよならは塩水に似て薄めたい毎日会ってバイバイしたい
夜遅く帰れば薔薇が冷えている冬は別れの季節ではない
明日から変わっていくひとりとひとり 今日のふたりのはんぶんこから
飛行機が夜に向かって飛んでゆくあなたを昨日に連れ去ってゆく
7時間あなたの未来を生きている タイムマシンの被験者になりたい
まだ知らないあなたが何人いてもいいくるんで咲いてくれたらいいよ
switzwerlandの小窓に鮮やかな気球が浮いていたという朝
電話口かすかに聞こえるフランス語 好きな花屋はあっただろうか
ひらくまで水を呑ませる 蕾から生きているって言って欲しくて
筆跡の強い手紙を束ねればなぞれるほどの言の葉の脈
花言葉なんてなくてもわかることわたしはあなたのことがだいすき
花束のように抱きしめてあげたいあなたはどこに行っても咲ける
生まれて初めて、自分のためだけに用意された花束をもらってつくりました。わたしに見送られるはずの友人から、逆に花束をもらってしまった。渡された花束は、彼女が持つほうがよく似合うくらい、とても可憐でした。もらってすぐの勢いでつくった30首は、手紙に書いて、いまはスイスにいる彼女の手元だけに残してあります。
わたしはswitzwerlandをすうぃっつぁーらんどと読みたくなるひとです。Google翻訳に正しい発音を教えてもらったけどなぜかしっくりきません。
先々月の京大短歌連作歌会に出したものに大幅に加筆しています。今月は出せなかったけど、また頑張りたい。
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