澄風なぎの「ほっこりおじさま芸」を忘れない
「おじさま役」の似合う男役は数あれど
澄風なぎのおじさま役
これはもう、宙組25年の歴史の中に刻まれるであろう。記憶に残るものをたくさん残してくれたと思っている。それぞれに「たっくさんのおじさま役」についての思い入れがあり、どの作品のどの役のどのおじさまが好きか?は人それぞれで、みんなの心の中のおじさまが存在すると思っている。
あの愛嬌のあるお姿、真摯に芸に向き合うストイックさ。
記憶に新しい悪役(HiGH&LOW)や、個人的に好きなエル・ハポンの鬼剣舞。短い時間ながら歌で惹き付けるアルフォンゾ・リベラ。渋い役、カッコいい役、真摯な思いが伝わる役。その人柄から色んな役を見せてくれた…
けど、やっぱり「おじさま役と言えばたっくさん」だし「たっくさんと言えばおじさま役」なんだよね。
私は、長く宙組を観て来た中で、この先に多くの作品に出会うだろう中でもダントツに記憶に残る、愛するおじさま役として「パパアイラブユー」のビルじいさんを推薦する。澄風なぎさんの好きな役と言えばビルじいさんってぐらいに大好きな役だ。
パパアイラブユーは、轟悠さん主演で宙組生の個性豊かな選抜メンバーによる賑やかなコメディ作品としてお勧めしたい。轟さんがタカラジェンヌとは思えない身体を張ったコメディエンヌぶりを発揮し、当時それぞれの宙組生もおよこ男役/娘役とは思えない体当たりなお芝居を見せてくれた。
その中で、澄風なぎさん演じるビルじいさんは、当時まだ(カンパニーの中では)下級生だった中、伸び伸びとその役を楽しむ姿が印象的だった。舞台である病院の入院患者・認知症のおじいさんと言う役。絶妙なボケっぷりで物語をしっちゃかめっちゃか掻き回す。車いすに乗っていて身体が不自由かと思いきや、車いすごと壁際に押されて反動で窓際に飛び乗る。看護師と追いかけっこする。車いすを押されたまま出口へ捌けていく(ものすごいスピードで)…吉本新喜劇でもそんな事しないよって位に体当たり。このお芝居に出た人みんな「宝塚歌劇団に入団してそんな事するなんて思わなかった」だろう体当たりの作品だった。
宝塚でパパアイラブユーをやると知り、外部(ラフィングライブ)の舞台を見に行った。外部のビルじいさん役の方は年相応の俳優さんで頭頂部がとてもリアルだったし、余りにもハードな役だった。澄風なぎって言っても女の子だよ??どうするの??と不安と期待の中、たっくさんは見事に宝塚歌劇団らしいビルじいさん像を作り上げて来た事に感心した。たっくさんの人柄が憎めない可愛いビルじいさんとしてあの作品に生きていた。
たっくさんのおじさま役と言えば…
アナスタシアの「ないしょだよ」おじさん。あのチャーミングな雰囲気はたっくさんじゃないと出せない。新人公演の天は赤い河のほとりのタロス。こう言う骨太な役も似合うんだ。そう言う役もっと見たかったな~。澄風なぎのキャラクター全開だったカルトワインの「屋台のおじさん」絶妙な間合いでの登場の仕方、後半のお金持ちおじさんのいやらしさも憎めない。
そして、最後の役となった支配人。
これぞ澄風なぎの集大成で真骨頂。恰幅のいいお髭のおじ様。ビジュアルから150点満点で、センターで歌い踊る姿。華やかな場に相応しい支配人らしくドンと構えていて、ホテルの不備を指摘されてもチャーミングに切り返す余裕。
お芝居のイメージももちろんだけど、ショーのたっくさんも大好きだった。太陽のような明るい人だったな。スレンダーな娘役さんが多い宙組、相手によって身長差が逆転する事もあったりするけど…それでも何故か、娘役さんがたっくさんに信頼して委ねている。身長差を超えた包容力がある。きっと、たっくさんのお人柄に抱かれているんだろうな~と思いながら見るそのデュエットダンスも好きだった。
澄風なぎと言うタカラジェンヌは二度とは存在しないだろうけど、たっくさんが存在した事は記憶にずっと残っている。そして、たっくさんの暖かさや優しさを下級生達が引き継いで、また新しい風を吹かせてくれると思っている。
宙組で、澄風なぎに出会えて良かった。
いちファンのこの気持ちをネットの片隅に残しておこうと思う。