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”小さな原石”に宿る宙組娘役のDNA-宙組・美星帆那さんの成長を見た

「オーシャンズ11」の105期生の初舞台口上を上回る回数、107期生の初舞台を見届けた訳だが、結局名前を顔を覚えるまでには至らなかった。なんとなくは覚えたとは思うが、105期生の初舞台のあの日のような事は起きなかった。

海のものとも山のものとも分からない、全く未知数の娘役さんとの出会い。

音楽学校時代の事も知らなければ、どんな経緯でタカラジェンヌを志したかすら知らない。仙台のご出身で、好きな食べ物は「牛乳とカステラ!」と可愛い声で応えた姿(阪急貸切の抽選で偶然彼女の日に当たったのだ)今年の「おとめ」にはモンブランとラーメンが追加され、美術館巡りと言う私と同じ趣味だと言う事。つい最近CSの1コーナーでお話されてたな。どんな娘役さんになりたいかと言う事を少しだけ知れた。

宙組娘役となって2年が経つ。もう研3。

その小さな原石は、磨けばどんな宝石になるのかすらも分からない。どんな娘役になるかすら分からなければ、組としての位置づけも将来性も分からない。そんな事よりも下手側のロケットの子が宙組生になった。ただそれだけ。

初舞台のその日から密かに応援していた彼女の「娘役」としての輪郭が少しずつ浮き彫りになって来た。そんな公演だった。

お芝居でのセリフはまだない。後ろの方で民衆の1人、不穏な事件が続くロンドンの街で困惑する市民。恋人と別れてしまったのかな?悲しい顔をして引き裂かれていく。ロイヤルイタリアンオペラのバレエダンサーの1人。端っこで首をプルプル震わせるコミカルな振り付けが可愛い。ゴールデン・ジュビリーはピンクのドレスが映える。好きな色はピンクと言っていたな。背の高い上級生男役を見上げる姿がTHE・娘役のそれ。何かが起きる緊張感。最前列のセンター付近で上級生と絡み合う。小柄だから収まりやすくてそこのポジションに入ったのだろうか?フィナーレナンバーの幸福感に溢れる曲に合わせ、同期ならではの空気感で幸せそうに踊る。

お芝居も見どころ満載だった。賑やかなショーの中でいつだって笑顔。時に頬を膨らませたり、上級生のアドリブに本気で大はしゃぎしたり。ただの振り付けも1か月を通すと表情のバリエーションが増える。お茶会のバレリーナちゃん、最後の方は自由にのびのびと楽しんでいたもんね。身長差のある男役さんをキラキラした瞳で見上げる。小柄な娘役さんの最大の武器。東京公演ではロケットに入るのかな?見たいけどこのコロナ禍ではなんとも。

私がかつて大好きだった彩花まりさん。その宙組娘役時代を彷彿させる仕草を見た時には「娘役のバトンは脈々と受け継がれている」と体感し涙が出そうになった。彼女にそっくりだからファンになった訳じゃないし、似ていると思った事はなかった。学年も離れているし接点もないと思う。

こう言う話を聞いた事がある。娘役Aさんにメイクを教わったBさんとCさんがいるとする。Bさんが上級生になりDさんに、CさんはEさんにそのテクニックを伝授するとする。DさんとEさんのテクニックも元をたどるとAさんのもの。男役さんより娘役さんの方が感じやすいのかもしれない。メイクや振り付け・心構え。在団期間が被っていないにも関わらず、かつて彼女がこの宙組に居た事のDNAを感じる。しーちゃんは確かにこの宙組にいたんだなって思った。

この公演を通じて、少しずつ娘役としての輪郭が浮き彫りになってきた。とても愛らしく可憐な娘役さんだ。そのチャーミングな笑顔のバリエーションが今後増えていくだろう。学年に応じた大人っぽさや凛とした強さを身に着け、したたかさや賢さのような強い大人の女性も演じられるのだろうか。少しずつ経験を積み重ねて成長していって欲しいと願っている。

「初めての新人公演を見る」この夢も叶った。

中卒の彼女は新人公演に出演するのが初めて。コロナ禍で中止になった新人公演の再開。研3での初めての新人公演。セリフは無かったが、新人公演の舞台に立つ彼女がなんとも楽しそうで「わーい!新人公演!!」と言う心の声が聞こえそうな位楽しそうだった。人数の都合上、本公演とは違う場面にも登場する。本公演では同期の男役さんと楽しい雰囲気で踊るナンバーが同期の娘役さん同士だった。普段から仲良しなのかな?とっても楽しそうに踊る2人が何とも可愛くてね!映像化されたあかつきには、ちゃんとあの2人を映してねと願わずにはいられない。

退団と異動・そして組替え。この公演で多くの「宙組の顔」が旅立つ。

長い月日「宙組娘役」でいらした花音舞さんと綾瀬あきなさん、そして里咲しぐれさん。彼女たちが退団してすぐじゃないかもしれないけど、何年後かの宙組公演を見た時に彼女の足跡をきっと感じられると思う。彼女たちが紡いできた娘役のDNAも美星帆那と言う小さな娘役が受け継ぐはず。

大丈夫、あなたは立派な宙組娘役としての道を歩んでいるからね。