普段は強面で凶暴な彼女は、僕の前では嘘みたいに優しい。3話
ー瑛紗の家ー
瑛紗:うぅ…少しだけ、砂糖は少しだけ。
学校から帰ってきた瑛紗は、1人キッチンでさじによそった砂糖を慎重にボウルに加えようとしていた。
瑛紗:ふ〜、出来た!
アルノ:何してるの〜、瑛紗。
瑛紗:わぁ⁉️
1歳年上の姉のアルノに後ろから背中を突っつかれて、瑛紗は危うくキッチンの床を砂糖まみれにしかけた。
瑛紗:馬鹿!おどかさないでよ!
アルノ:ごめんって。で、何これ?
瑛紗:な、何って…ただのお菓子作り!!
アルノ:ふ〜ん、瑛紗がお菓子作りか。
瑛紗:悪い?
アルノ:いや珍しいなぁ〜って。瑛紗がバレンタインのチョコ作るなんて。
瑛紗:は⁉️な、何言ってるのよ姉貴⁉️
アルノ:え、違うの?
瑛紗:あ、あったり前でしょ⁉️
アルノ:ふ〜ん、じゃあ出来たの半分食べても良いよね?
瑛紗:ダメ。
アルノ:え?なんで?
瑛紗:ダメなのはダメなの!
アルノ:やっぱりいるんでしょ?好きな人が。
瑛紗:い、居ないし‼️
アルノ:もう隠さなくたって良いじゃん。良いなー、瑛紗には渡す相手がいて。
姉のアルノがニヤニヤしながら言った。
瑛紗:わ、渡すって言っても…友チョコだから…
アルノ:友チョコなら、なんでそんな隠すのよ?
瑛紗:別に隠してなんか…姉貴がしつこいだけだよ。
アルノ:まぁ〜、でもさ味見させてくれない?
ほら、不味いのを相手に渡したくないでしょ?
瑛紗:ん、まぁ…そういうことなら…
アルノ:やったああ。
瑛紗:ただ食べたいだけじゃん…
姉からこれ以上詮索をされたくなかった瑛紗は、出来たチョコブラウニーを食べてもらうことにした。
瑛紗がチョコブラウニーを作ろうと思ったのには、訳があった。
3日前
瑛紗:♪♪
〇〇:よく歩きながら漫画読めるね。
瑛紗:だって面白いんだもん。
〇〇:いや面白いのは分かるけど、危なくない?
瑛紗:大丈夫、大丈夫。
と息巻いていた瑛紗は、コンクリートの地面に出来た段差に気づかず、足を躓いた。
瑛紗:わあ⁉️
本を持ったまま、正面から地面に倒れそうになった瑛紗だが、〇〇が肩を押さえて止めてくれた。
〇〇:ほら、危ないって言ったじゃん。
瑛紗:ごめん、ありがとう。
〇〇:それ貸すからさ、家で読みなよ。
瑛紗:良いの?
〇〇:うん。
瑛紗:ありがとう!
そして、〇〇と別れた瑛紗は1人家まで歩いていた。
瑛紗:あ〜、早く帰って読みたいな〜
?:池田先輩、ですよね?
後ろから声をかけられた瑛紗が振り返ると、
女子中学生が1人立っていた。
瑛紗:奈央。
奈央:久しぶりですね、池田先輩。
瑛紗:そ、そうだね。
奈央:あの、先輩に渡したいものがあって。
奈央が学校指定の鞄から緑色のリボンがついた包みを瑛紗に渡した。
瑛紗:何これ?
奈央:先輩への義理チョコです。ほ、本当は本命でも…
瑛紗:奈央が作ってくれたの?
奈央:はい、私がいまこうして学校に行けるのは、先輩のおかげですから。
奈央:あの日、池田先輩が私を虐めっ子たちから庇ってくれたから。
一年前
瑛紗:おめーら、寄ってたかって女の子をトイレに閉じ込めるとか最低なんだよ‼️
虐めっ子A:あっ?何ヤンキーみたいなだっせえ格好のアンタに説教されなきゃいけないよ?
瑛紗:ごちゃごちゃ、ごちゃごちゃうるせー‼️
女子トイレの個室の前に密集していた女子たちを瑛紗は無理やり退かして、個室に閉じ込められていた奈央を連れ出す。
虐めっ子B:何するのよ、止めなさい!
瑛紗:あ?やるか⁉️相手してやるよ。
虐めっ子B:調子乗らないでくれる?
虐めっ子Bが果敢に瑛紗に殴りかかってきたが、瑛紗は瞬時に虐めっ子Bの拳を掴んで床に叩きつけた。
虐めっ子B:痛ッ⁉️
虐めっ子C:アンタ、よくもやったわね。暴力したって先生に言うわよ?
瑛紗:あっそ。じゃあウチはテメーら全員の虐めのこと先公にバラすからな?
奈央を庇いながら、瑛紗は周囲を睨み付けた。
虐めっ子A:ちっ…
奈央:なんで助けたんですか、こんな私を…
瑛紗:なんでって、そりゃ…ほっとけないからだよ。
瑛紗:泣いている声が聞こえて、無視なんかできないよ。
奈央:う…うぅ…
泣き崩れた奈央を、瑛紗は優しく抱いた。
奈央:ごめんなさい、こんなことに巻き込んで。
瑛紗:気にしないでよ。
奈央:でもこれからあなたも、あの人たちに狙われるかもしれないんですよ?
瑛紗:ふっ、その時はまたボコボコにしてやるから心配すんなって。笑
瑛紗:今は、大丈夫なの?
奈央:はい。あの人たちは転校させられたし、
それに今は頼りになる男の子がいますし。
瑛紗:そっか。良かったね。
奈央:はい。でも、どうしても先輩にお礼がしたくて、それで今日こうしてチョコを。
瑛紗:そっか、ありがとう!
奈央:先輩も彼氏さんにバレンタインのチョコを渡すんですか?
瑛紗:へ?彼氏?なんのこと?笑
瑛紗の反応を見て、奈央が慌てた。
奈央:あ、ご、ごめんなさい!この前、池田先輩が同じくらいの歳の男の子と一緒にいたのを見ちゃって…
瑛紗:ああ、〇〇か!友だち、良いやつだよ。ま、ちょっとドジな感じはするけどね。
奈央:そ、そうでしたか!勝手に池田先輩の彼氏さんだと思って…
瑛紗:ううん、全然平気だよ。
奈央:でも、お似合いだと思いますよ。私は。
瑛紗:え?
奈央:じゃあ、また。
瑛紗:あ、うん…
奈央と別れてから、奈央に〇〇との関係を言われたことが、瑛紗の頭から離れなかった。
瑛紗:〇〇が彼氏…
瑛紗:いやいや、そんなんじゃないって…
家に帰ってきた瑛紗が、自室の机で独り言を呟いていた。
瑛紗:私なんかが…でも…
瑛紗:〇〇にチョコ作ってあげるのも、いいかな…
ー瑛紗の家ー
アルノ:うん、めっちゃ美味しい!
瑛紗:ほ、本当か姉貴?
アルノ:うん、なんか思ったよりこのチョコブラウニー食感柔らかいし、甘さも丁度良いよ。
瑛紗の作ったチョコブラウニーを試食したアルノが、瑛紗に向かってサムズアップした。
瑛紗:よっしゃあ‼️これで〇〇に喜んで貰えるぞ‼️
アルノ:へ〜、〇〇くんって言うんだ。瑛紗の友だち。
瑛紗:あっ!
口が滑って〇〇の名前を出した瑛紗が、手で口を抑えた。
アルノ:どした?そんなリアクションして?
瑛紗:いや、べ、別になんでも…
アルノ:でもなんかお姉ちゃん、安心した。
瑛紗に良い友だちが出来たんだな〜って。
瑛紗:う、うん。〇〇はさ、こんな私でもちゃんと向き合ってくれるんだ。
アルノ:大事にしなね、その友だち。
瑛紗:うん。
アルノ:それか、そのまま付き合って…
瑛紗:おい、あんま調子に乗らないでよ?
アルノ:ぷふ、はいはい笑。友チョコでしょ?
瑛紗:そ、そうだから!
そして、2/14になった。
〇〇:ふ〜、疲れた。
授業が終わりため息をついていると、
雅史:なんか良いよな…女子にモテるやつらはさ、今日いっぱい貰っているんだよな。
〇〇:何が?
雅史:何ってお前、チョコだよ。バレンタインの!
〇〇:ああ…ま、僕には縁がないよ。
雅史:だよな…早く帰るわ。またな、〇〇。
〇〇:うん。
〇〇の瑛紗以外の数少ない友だちの雅史がいなくなり、〇〇も教室から出ようとした。
〇〇:あれ、瑛紗はどこだ?
一緒に帰ろうと思って辺りを見回したが、瑛紗が見当たらなかった。
〇〇:先に帰っちゃったのかな?
仕方なく、〇〇は教室を出た。
〇〇:瑛紗、大丈夫かな?
いつもは真っ先に帰る時に瑛紗が〇〇に声をかけてくるのだが、今日はそうじゃなかったので瑛紗に何かあったのかと不安になった。
〇〇:まさか、具合悪いとかじゃ…
瑛紗:〇〇ー!
〇〇:うわあ⁉️
瑛紗:ごめん、びっくりした?
〇〇:あ、うん…先に帰っちゃったのかなって思ってたから。
瑛紗:あのね、その…
瑛紗が、らしくなくもじもじしながら、リボンをつけた包みを〇〇に渡した。
〇〇:これ…
〇〇:もしかして、チョコ?
瑛紗:う、うん…作ったんだ…
〇〇:え、あ、ありがとう!
瑛紗:ご、誤解しないでね?その、別に…
〇〇:瑛紗?
瑛紗:友チョコだから、ね?
〇〇:ああ、分かってるよ。瑛紗が一生懸命になって作ったんだよね、僕の為に。
瑛紗:え…う、うん!
〇〇:凄く嬉しいよ。
〇〇が見せた満面の笑みを見た瑛紗も、ニッコリして言った。
瑛紗:良かった!
〇〇:帰ったら食べて感想教え…
瑛紗:あ、い、今食べても良いよ?
〇〇:え?
瑛紗:ほ、ほら…味が変とかあるかもしれないし。
すると、瑛紗がチョコブラウニーの入った包みを開けて、チョコブラウニーを〇〇の口の前まで運んだ。
〇〇:え?
瑛紗:はい、食べてみて。
〇〇:え、あ、あ…
パクッ
〇〇は、瑛紗が作ったチョコブラウニーを食べた。
瑛紗:どう?
〇〇:す、凄く美味しいよ!
瑛紗:ほ、本当⁉️
〇〇:うん、瑛紗が作ったチョコブラウニー、お店に出せるんじゃないかなって思うくらい凄く美味しいよ。
瑛紗:や、やめてよ!そんな大層なもんじゃないんだから…笑
〇〇:でも、凄く美味しいのは本当だよ瑛紗。
瑛紗:うん、分かっているよ。嬉しい!
〇〇がチョコブラウニーを美味しそうに食べる姿を見て瑛紗は微笑んでいた。
〇〇:今度お返ししなきゃだね。
瑛紗:え、良いよ私は全然!〇〇が喜んでくれたなら…
〇〇:そんな悪いよ。瑛紗にこんな美味しいの作ってもらって。
瑛紗:良いって、私が勝手に〇〇に作りたかっただけだから笑
〇〇:そ、そっか…
瑛紗:うん。
少し間を置いて、〇〇が口を開いた。
〇〇:じ、じゃあさ…瑛紗。
瑛紗:何〇〇?
〇〇:僕の勝手だけど、瑛紗に今度チョコ作って良いかな?
瑛紗:〇〇…
〇〇:瑛紗ほどは美味しく作れないかもしれないけど、頑張って美味しく作るから。
〇〇がそう言うと、瑛紗が〇〇の肩に手を乗せてきた。
瑛紗:ありがとう、〇〇!
〇〇:うん。
瑛紗と別れた〇〇はふと思った。
〇〇:これって、初めてのバレンタインチョコ…
〇〇:あ、いやいや…瑛紗は友チョコって言ってただけだし。
〇〇:でも、凄く嬉しかった。
〇〇:よく分からないし知らないけど、まるで…
瑛紗の笑顔を想うと〇〇の胸の中で恐らく、ドキドキって言うのが止まらなかった。
ー瑛紗の家ー
瑛紗:♪♪
家に帰ってきた瑛紗はご機嫌だった。
瑛紗:(やった、〇〇に凄く褒めてもらえた!)
瑛紗:(しかも、チョコを今度は私に作ってくれる!)
アルノ:瑛紗、ご機嫌だね。何考えてるの?
瑛紗:な、聞くな!!
アルノ:よし当ててやろう。〇〇くんに友チョコって言ってチョコブラウニーあげたけど、やっぱ本命と言っておけば…って後悔してるな?
瑛紗:な、全然ちげーーし!!
アルノ:絶対そうでしょ?笑
瑛紗:うっさい、姉貴!
アルノが揶揄いに来たあと、自室で1人になった瑛紗は思った。
瑛紗:本命か…
瑛紗:〇〇と友だち以上になれたら…
自分には似合わないと言っておきながら〇〇の笑顔を思い浮かべながらそう考えると、瑛紗は胸の奥でざわついていた。
3話 完
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