「好きなことは止められない」 1話
私は池田瑛紗。
私が県立の乃木高校の絵画部の副部長になってから5ヶ月が経った。
この絵画部、実は今年になって出来たばかりなのだ。
では、どうしてこの部は出来たのか?
それは、ある男の子と出会ったから。
遡ること、4月。
中学の時の私は地味で、周りから空気のような存在だった。
そして受験をしてこの乃木高校に受かった。
高校生になれば、自分が変わるかもしれないと思っていた。
クラスは1年C組。
中学の時にいた一軍女子みたいな集団がいなく、みんな至って普通そうな子たちばかりでホッとしていた。
これなら友だちも出来そうだと思った。
クラス分けされて最初の日はHRだけで終わった。
?:ねえ、名前なんて言うの?
HRが終わって少ししてから、ショートカットの可愛げな子が話しかけてきた。
?:私、中西アルノ。
瑛紗:い、池田瑛紗です…
アルノ:よろしくね。あっ、瑛紗って呼んで良い?私のことはアルノって呼んでね。
瑛紗:あ、うん。
アルノ:瑛紗は趣味は何なの?
瑛紗:えっ、まぁ…絵描くことかな?
アルノ:へ〜、どんなの描くの?アニメのキャラとか?
瑛紗:アニメとかは描いたことないな…風景とかが多いよ。
アルノ:描いたのとか見せてくれる?
アルノに頼まれて、スケッチブックに描いたのをアルノに見せた。
アルノ:えっ、凄くない⁉️普通にプロの絵だよ⁉️
瑛紗:ちょっと絵の勉強したことがあるんだ。
アルノ:え〜、瑛紗に進〇の巨人のエ〇ンとか描いてもらいたいな。絶対、瑛紗なら上手く描けると思うんだ。
瑛紗:進〇の巨人、好きなの?
アルノ:うん。
瑛紗:私もだよ。
アルノ:マジ⁉️良いじゃん、語ろうよ!
それから、アルノとはすぐ話が合い親友になった。
学校から出た私は、アルノにカラオケに行こうと誘われた。
アルノが曲を次々と入れて歌っていた。アルノはとにかく歌うのが上手で、歌うのが苦手だった私はアルノの歌声を聴くだけで満足だった。
アルノ:瑛紗もなんか一曲歌ってみたら?
瑛紗:いいよ、私歌うの下手だし。
アルノ:大丈夫だよ、一緒に歌ってあげるから。
私は渋々、知っている曲を入れた。
マイクを手にした途端、緊張が凄かった。でも、すぐそれはほぐれた。
アルノが私に合わせて歌ってくれるからか、歌が下手なのは変わらないけど自然と安心出来た。
歌い終わると、
アルノ:瑛紗、良い声してるじゃん。
瑛紗:そんなこと、ないよ。
アルノ:いや練習したら、瑛紗は化けるって!
瑛紗:そうかな…?
アルノ:絶対にそうだよ!
そんなこと言われたら、素直に嬉しかった。
それから、徐々にアルノ以外の友だちも出来た。
美空:私、一ノ瀬美空って言うの。よろしくね。
可愛いの全てを詰め込んだような存在だった。
奈央:冨里奈央だよ、よろしくね。
ここまで屈託のない笑顔になれる奈央は天才だと今でも思っている。
美空:瑛紗ちゃん、ちょっと眼鏡外してみてよ。
言ってなかったけど、私は中学の時からずっと眼鏡をかけていた。
瑛紗:え、なんで?
美空:良いから、良いから。
言われるがままに眼鏡を外すと、美空と奈央に驚かれた。
奈央:えっ、めっちゃ可愛い瑛紗ちゃん!
美空:でしょ?勿体ないって、こんな可愛い顔隠してたら。
瑛紗:そんなこと言われたの初めてだよ。
アルノ:まぁ私は、眼鏡かけてる瑛紗は瑛紗で魅力的だと思うけどね。
美空:ま〜、確かにそうだけど…あっ、ヘアアレンジしたら良いかも。大人っぽくとか。
奈央:どっちも可愛いってことだよ、瑛紗ちゃん。
瑛紗:あはは、ありがとう。
急に私のスタイルプロデュースが始まったが、
なんか楽しかったので良しとしよう。
そんなこんなで何とか順調な高校生活を私は送れていた。
ある日の朝、通学途中でアルノと会い一緒に登校した。
朝からなんでそんな元気なんだと言わんばかりに、アルノはお喋りだった。でも、そんなアルノと一緒にいるだけでパワーをもらっている気がした。
アルノ:って、やば!遅刻しちゃう瑛紗!
瑛紗:ええ、嘘っ!!
呑気に歩きながら話していたら、HRの時間まであと5分まで迫っていた。
私とアルノはダッシュして教室まで向かう。
ドンッ
廊下で私は男の子の背中とぶつかって、尻もちをついた。
?:だ、大丈夫!?
瑛紗:い、いいえ。こちらこそ…
顔を上げたとき、目の前にいたその男の子が振り返って手を差し伸べていた。
?:立てる?
瑛紗:え、ええ。
なんて紳士なんだ。
そう思った。
アルノ:ごめ〜ん、瑛紗。私遅くって…
遅れてアルノがやってきた。
?:あ、この眼鏡。君のだよね?
瑛紗:そ、そうです。
?:壊れてないと良いんだけど、どうかな?
瑛紗:大丈夫そうです。
?:よかった。じゃあ。
そのまま、その男の子は私とアルノと同じクラスの教室に入った。
アルノ:大丈夫、瑛紗?
瑛紗:え?ああ、うん。
もし彼とここで出会ってなかったら、きっと今の私はいないだろう。
授業が終わり帰る支度をしていると、
?:怪我、してない?
声のした方に顔を向けると、今朝の紳士な男の子がいた。
?:ああ、覚えてない?今日朝にぶつかった…
瑛紗:お、覚えてますよ。大丈夫です。
?:良かった、俺内田〇〇って言うんだ。よろしくね。
なんて爽やかなんだ…
瑛紗:い、池田瑛紗です!じゃ、じゃあまた!!
〇〇:あっ、じゃあ…
その場にいたら心臓が破裂しそうだったので、〇〇に頭を下げてから私はダッシュして教室を出た。
アルノ:はぁ〜、はぁ〜。
教室から出て校門前に来た私の後ろを、アルノが鈍足で追っかけて来た。
アルノ:ちょっと急に一人で走り去らないでよ…
瑛紗:ご、ごめんアルノ。
アルノと一緒に帰る約束をしてたのをすっかり忘れて、私は教室から飛び出してしまっていたのだ。
アルノ:ところで、何から逃げてたの?
瑛紗:え?そ、それは…
アルノ:というかさっき内田くんと喋ってたよね?
瑛紗:み、見てたの?
アルノ:うん。内田くんって意外と爽やかで、話してみると紳士的だよね〜
瑛紗:そう、だね…
アルノ:って、瑛紗めっちゃ顔赤いよ??
アルノに指摘され、私は思わず顔を隠した。
瑛紗:そ、そうかな???
アルノ:もしかして瑛紗、内田くんのことすき…
瑛紗:あああ、言わないでアルノーーー!!!
アルノ:声でか。さては、今日眼鏡拾ってもらったときに内田くんに一目惚れしたな??
瑛紗:ち、違うって!!!そんなんじゃ…
アルノ:じゃあ、私が内田くんに告白しても良いか。
瑛紗:あぁ、ダメダメダメ、ダメッーーーー!!!
アルノ:おぉ、落ち着いてって…
瑛紗:それだけは勘弁してください、アルノ様…
アルノ:何故、急に敬語になった???
それから歩きながら、私はアルノから「いっそ告白したら?」と提案された。
瑛紗:いや、だって変だよ!今日しか会ったことないし、それにあんまり話してないし、お互いのことまだ全然知らないし。
アルノ:それはそうだけど、でも恋は早いも遅いもないと思うな。私、中1の時に一目惚れした男の子に、次の日告白して付き合ってたもん。
瑛紗:えぇ!!??うそ…
アルノ:本当だよ。まぁ、高校はお互い違うところになっちゃって別れたけど。でも、あの時告白して良かったと思ってるな、私は。
瑛紗:で、でも自信ないよ…私、アルノみたいに話すの得意じゃないし…
アルノ:ん〜、まぁでも普通いきなり告白はハードル高いか…
瑛紗:うん、アルノが特別なだけだよ。
アルノ:じゃあ、とりあえず内田くんと色々話まくるしかないね。
瑛紗:う〜ん、そうか…そうだよね。
アルノ:好きって気持ちは誰にも止められないよ。
瑛紗:アルノ。
アルノ:だから応援してるよ、瑛紗。
瑛紗:ありがとう。
そんな感じにアルノに、所謂恋のお悩み相談に乗ってもらったのだ。そして、きっとこのアルノの言葉が後押ししてくれたんだと思った。
瑛紗:(懐かしいな〜、あれからもう半年経ったんだ。)
秋の夕陽の光が差し込む絵画部の部屋で、私は一人絵を描いていた。
瑛紗:出来たっと。
描き終わり、私は筆をパレットに置いた。
目の前には、男の子が女の子の眼鏡を拾って渡していて、その男の子に女の子が見惚れている、そんなのが描かれていた。
描いた絵に布を被せると、
〇〇:瑛紗〜、一緒に帰ろ〜
絵画部の部長の〇〇に背後から声をかけられ、背中がビクっとした。
瑛紗:あ、うん!!
〇〇:何描いてたの?
瑛紗:あ、それ見ちゃダメ。
〇〇:え?なんで?
瑛紗:なんでも。
〇〇:ああ、もしかして今度コンクールに出すのを練習してた?
瑛紗:そうだよ。
私が水道の蛇口を捻って水を出し筆を洗おうとすると、
〇〇:洗うの、手伝うよ。
瑛紗:ありがとう。
〇〇も、パレットを洗うのを手伝ってくれた。
洗い終わった筆やパレットを片付け、部屋の鍵を閉めて私は〇〇と校舎から出た。
〇〇と私が歩く道には、風に揺られて橙色の葉が落ちていた。その葉が夕陽の光に照らされ、より色濃くなっていた。
〇〇:なんか良い絵が描けそう。
瑛紗:それ、私も思った笑。
道を見て、絵描くのが好きな者同士の会話が始まった。
少し歩いて、私はそっと〇〇の手を握った。〇〇も私の手を握って、それから二人で顔を見合わせて二人とも照れ臭そうに笑った。
瑛紗:(〇〇の手、暖かい。)
こんな心地いい気持ちになる私を止めるモノなんて、どこにもいない。
1話 完
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