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「角を曲がって」


 なんてことのない普通の高校生の自宅の部屋で、私はベッドの上で仰向けになって目を瞑っていた。


 みんなが変なだけ。私は普通だ。


ずっと頭の中で再生される今までのことが鬱陶しくて、ひたすらそう言い聞かせてそのノイズを消そうとした。


 でも、普通って何…


その曖昧さが、消しても消してもノイズを何度も蘇らせてくる。


耐えきれなくなって、私は外へ飛び出した。




真夜中の住宅街の道。


誰もいないだろうと思って来た。


でもすぐに、夜道を散歩する人とすれ違って落胆した。


私だけのものと思っていた世界は、既に誰かのものだったと知らされたような気がして…




「てちは、てちらしくいれば良いと思う。」


幼馴染の君からそう言われ、

上から目線でまるで何でも知っているかのような口調に聞こえ、

私はつけ離された気がした。


先生も親もみんなこう言ってた。


「お前にも、お前にしかない良さがきっとある。お前らしく生きて行けば良い」


建前上で皆んなそう言っているんだ。

周りに馴染めず虐められることが日常の私に向かって、さも私のことを理解しているふりをして。

でも、本当の私を見ようとはしてくれないんだ。


でも、それでも今までは我慢できた。

君という存在がいたから。

どんな私も受け止めてくれる君がいたから。


でも今日の放課後、君から一番聞きたくないことを言われてしまった。


私は真っ先に教室を飛び出した。


そして、街路樹の横をただ虚ろな表情で通り過ぎた。


そしたら、後ろから荒い息遣いが聞こえて来た。

それから、手を握られた。

振り返ると、私を追いかけて来た君がいた。


「私らしいって、何?」


そう捨て台詞を残して、君の手を振り払い私は走り去った。




何度も、


「こんなの私じゃない!」


と叫んだ。

まるで、そう思えば何かが切り開けるおまじないのように。

そしてその度に、泣いていた。


でも、私の横を通り過ぎて行く通行人は誰も私を見向きもしない。

こんなに近くにいても、私は所詮ありふれた風景の一部でしかない。


フォーカスの合っていない被写体が、

泣いていようと睨みつけていようと

どうだって良いんだ。


家に着いて、私は親が作ったご飯も食べず一人部屋に閉じこもっていた。


分かってもらおうとすればするほど苦しむくらいなら、もうやめようかな。

みんなが私に求めてくるようにすれば良いのかな。

そしたら、もう誰も虐めたり変な目で私を見たりしないんだよね?

私に幸せをくれるんだよね?




「でも、無理。」

「皆んなの思う私になれなくてごめんなさい。」



私は目を瞑って、真夜中に独り言を呟いた。

誰も私がこんなことしているなんて気がつかないだろう。

だから、私は一人きりで角を曲がった。


君のこと恨んではいない。

ただ受け入れただけなんだ。


その時、私の頭から初めてノイズが消えた。


fin.




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