「離ればなれになった二人が再会した時、生まれる願い」
ー体育館ー
バレーボール部の部活が終わったあと、高校1年生の上条〇〇はチームメイトで同級生の間宮壮吾とスパイクの練習をしていた。
壮吾:あげるぞー、〇〇!
壮吾があげたトスが体育館の照明と重なり、ボールは黒いシルエットとなる。
バチーンッ‼️
激しい音とともに、ボールはコートラインギリギリのとこに打ち付けられた。そのボールが転がった先に、中学3年生の後輩の菅原咲月が立っていた。
咲月:上条先輩!
〇〇:おっ、ありがとう咲月ちゃん!
〇〇は咲月が投げたボールを受け取る。
壮吾:あ、そうだ。3人で練習しない?
咲月:良いんですか?
壮吾:もちろん。なぁ、良いよな〇〇?
〇〇:うん。
練習を続けていると、学校の門が閉まる時間まであと10分になっていた。
〇〇:そろそろ帰るか。
壮吾:だな。
〇〇たちは急いで、それぞれの更衣室で着替えて校門から出た。
壮吾:〇〇、咲月ちゃん、お疲れ様!
咲月:お疲れ様です、間宮先輩。
〇〇:お疲れ〜、って1人で帰るのか?
壮吾が早足で〇〇と咲月から離れていくのを見て、〇〇は聞いた。
壮吾:ああ、ちょっと用があってな。先に帰るわ。
珍しい…と〇〇は思いながらも、壮吾の後ろ姿を咲月と二人で見送った。
咲月:行っちゃいましたね。
〇〇:うん…帰ろっか。
〇〇と咲月は途中まで帰り道をともにすることにした。
〇〇:どう、最近の調子は?この前の練習試合、すごく良かったけど。
咲月:ああ、凄く良いです!上条先輩たちの練習に混じって色々教わったお陰で、最近は皆んなと一緒にバレーボールするのが凄く楽しいです!!!
〇〇:そっか。高校の女子バレーボール部の子に、咲月ちゃんが最近凄く腕が上達しているって聞いたよ。
咲月:そ、そうですか。
〇〇:俺、それ聞いたときすごく嬉しくてさ。一人で心の中でガッツポーズしちゃったよ笑
咲月:あはは、嬉しいです笑
そして、〇〇たちはしばらく黙ったまま歩いていった。
少しして〇〇は立ち止まり、左にあった公園の方に顔を向けた。
〇〇:・・・・
咲月:どうかしたんですか?上条先輩。
〇〇:ちょっと昔のこと思い出してね。小さい時に、よくこの公園で一緒に遊んでいた子がいたんだ。でもね、小学生になる前に俺が引っ越ししちゃってさ、それ以来会ってないんだよね…
咲月:その子、名前なんて言うんですか?
〇〇:それがね、苗字とか聞いたことなくてさ…お互いのこと名前でしか呼んだことなくて。さっちゃんって呼んでたな。元気にしてると良いな…凄く楽しかったな、あの時は…
咲月:先輩…
〇〇:って、ごめんね咲月ちゃん!なんか自分語りを急に始めて…笑
咲月:いえ、そんな気にしないでください!その子に、また会いたいとか思ってますか?
〇〇:え・・・?
急にそんなことを聞かれ、一瞬言葉に詰まった。
〇〇:そ、そうだな…向こうがもう覚えてないかもしれないけど…でも、会えるとしたら会いたいかな。
と喋り終えて咲月の方を向くと、なにやら慌てた様子だった。
咲月;す、すいません!!用事思い出したので、帰ります!!!
そのまま、咲月は猛スピードで走り去っていった。
〇〇:お、おう…気をつけてな!!
和:もう!あと少しだったのに!!
壮吾:は〜、また失敗か…
公園の草木に隠れて〇〇と咲月を見守っていた二人はため息をつく。
和:でも、これで咲月が言ってた男の子が上条先輩なのは間違いなさそうね。
壮吾:まぁ、進展はあったか。しかし、〇〇の奴も鈍感というか…
早く気付け!っと〇〇に対してもどかしさを感じていた。
和:それ壮吾が言えたこと?
壮吾:な、俺のことはいいんだよ!!とりあえず、また出直すか。
和:そうね…なんとしてでも二人をくっつけないと。やっと会えたんだから…
小さい頃からの腐れ縁のある和と壮吾は、その場をあとにした。
家に帰ってきた咲月は机にうつ伏せになると、先ほどの〇〇とのやりとりを思い返していた。
咲月:ダメだ…言えなかった…
〇〇が言っていた小さい時に一緒に遊んでいた子が、自分だと。
咲月が小学生に上がる前、よく公園で一緒に遊んでいた一歳上の男の子が引っ越していった。その時、男の子と約束をしたのだ。
(さっちゃん、大きくなっても僕のこと覚えててくれる?)
(うん、〇兄のこと忘れないよ)
(ありがとう、さっちゃん)
(ねぇ、○兄?もし大きくなってまた会えたらね、私○兄と結婚する!)
(じゃあ、約束しよう。さっちゃん)
そして、その男の子と指切りをした。
それから時が経ち、咲月は中高一貫校に入学してバレー部に入部した。
咲月が中学3年生に進級した時、今年になってスポーツ推薦でこの学校に入った高校1年生でバレーボール部に入部した男子がいるとの報告があった。
その男子生徒の名前は、上条〇〇。
転校前は全国大会で優勝経験のある高校のバレーボール部に所属していた〇〇は、大会でチームのアタッカーとして活躍していた。
えっ、まさか…〇兄!!??
下の名前は、確かに小さい時に約束を交わした男の子のと同じだった。でも、その男の子の苗字は聞くことなく別れてしまったのだ…
咲月:どうしよう、直接聞く?でも、違ってたら恥ずかしい…
それで咲月は後日、親友で同じバレーボール部員の和に相談した。
和:そりゃ、直接会って聞くしかないでしょ?
咲月:でも、いきなりそんなことしたら変に思われるんじゃ…
和:大丈夫でしょ?別に聞くだけなんだから。
咲月:いや〜、でもやっぱり思い込みかな…名前が一緒なだけだし…
和:そんなこと言ってても仕方ないよ。あ、咲月、どうせなら上条さんたちの練習に混じってみたら?
咲月:へ?なんで??
和:だって、咲月前に言ってたじゃん。もっとバレーボール上手くなりたいって。
咲月:そ、そうだね…私、チームだと全然ピンとこない立場だし…
和:折角なら上条先輩たちに教わってくれば良いじゃん。そしたら交流もできるしさ。
和の後押しもあって、咲月はその後男子のバレーボール部の部活があった日に上条〇〇のもとへ向かった。
男子バレーボール部のもとに咲月が行くと、〇〇が咲月の姿を見て驚く。
〇〇:あれ?女子の方は今日休みじゃ…
咲月:お、お願いがあるんです❗️先輩たちの練習に混ざらせてください❗️
〇〇:お、おう…けど俺に決定権無いからなぁ…
咲月:(そ、そりゃそうだ…キャプテンがダメって言ったら無理…).
キャプテン:ん?菅原か。
咲月:あ、はい。
キャプテン:今日女子の部は休みの筈だけど、見学に来たの?
咲月:いえ。キャプテンたちの練習に混ぜりたくて来ました。
キャプテン:そっか。良いよ。
あっさり男子バレーボール部のキャプテンから許可がおりて、咲月はキョトンとした。
咲月:はぁ〜はぁ〜。
〇〇:はい、これ飲みな。
咲月:あ、ありがとうございます。
〇〇から渡されたスポーツ飲料水を咲月は飲んだ。
〇〇:咲月ちゃん、無理にボールを追いすぎだったね。
咲月:そ、そうですね。自分でも、この走り意味あるかなって思うことが多かったです。だって…
〇〇:毎回ボール追っかけて走った先に、先輩が既にいるから。
咲月:!
〇〇:見てて思ったよ。咲月ちゃん、ボールを観察する力は凄いあると思う。それは良いことなんだけど、もっと大事なことがあるんだ。
咲月:大事なこと、ですか?
〇〇:自分のチームをよく見ること。バレーボールは一人でやる競技じゃない。
〇〇から言われたことは至極当たり前のことだが、咲月は自分がずっとそれができてないことにようやく気がついた。
咲月:私、ずっと視野が狭かったんですね…
〇〇:でも、目でボールを追う力は凄いから、それをそのまま生かせばきっと大丈夫だよ。
咲月:もっとみんなとコミュニケーション取らないといけないのは分かっていたんですけど、でも自分のプレーに自信がなくてずっと引っ込み気味でした。
〇〇:もしかして、高く上がったボールのトスとか、ブロックされたボールのレシーブとかが苦手かな?
咲月:(やっぱり、ちゃんと見てるんだ…)
〇〇:怖いよね、確かに。
咲月:はい…だから、つい避けちゃうことが…
〇〇:でも、試合中なら絶対そのボールを取らなきゃいけない時は来るからね。俺もブロックされたボールを取る時、あの痛いの嫌なんだよね〜
咲月:(先輩もあのボールをレシーブするとき、そう思うんだ…でも、怖がらずにちゃんとやってる。なら…)
咲月はベンチから立ち上がると、拳を握りしめていた。
〇〇:やる気が入ったみたいだね。
咲月:え?ああ…
恥ずかしくなった咲月は、握りしめていた拳を緩める。
〇〇:大丈夫、自分を信じて。
咲月:自分を、信じる。
〇〇:うん、このボールは絶対取るって毎回思うんだ。そして、みんなも信じるんだ。自分が取ったボールをつなげてくれるって。
咲月:はい。
咲月はそれから何度か男子バレーボール部に混ざって、練習や試合に加わった。
そして、咲月の所属する女子バレーボール部で他校との練習試合があったときのこと。
咲月のチームが打ったボールが相手チームにブロックされた。
その直前、咲月は相手チームがブロックして狙いそうなエリアを予想していた。
咲月:(あそこが空いてる!)
すかさず咲月はカバーに入りにいく。そして、ボールがブロックされた直後、ほとんどのチームメイトがボールの行く先に咲月がいたことに落胆していた。
?:(おいおい、アイツじゃミスるって!)
?:(でも、これじゃ間に合わない!)
咲月と和を除くチームメイト全員がそう思ったとき、咲月はしっかりボールをレシーブして和の方へと上げた。
?:(と、取った!!??)
?:な、ナイス菅原!!
和:(咲月がカバーしてくれたボール、必ず入れる!!)
和はジャンプして、咲月がレシーブしたボールでスパイクを打った。
バチーーーン!!!!
和が放ったスパイクは相手コートのラインギリギリで落ちた。
ピー!!!
咲月たちのチームに点が入る。
和:ナイスだよ、咲月ーーー!!!!
和が咲月を讃えたのを筆頭に、他のチームメイトたちも咲月に寄り咲月を讃える言葉を送った。
?:よく取れたね!
?:菅原さん、変わったね。
?:今の、めっちゃかっこ良かったよ!!
咲月:ありがとう、みんな。
試合結果は、咲月たちの勝利で終わった。
和やチームメイトたちと離れた咲月のもとに、〇〇と壮吾がやってきた。
〇〇:お疲れ様。
壮吾:今日の咲月ちゃん、輝いていたね〜
咲月:上条先輩!そ、それに間宮先輩も!観ててくれてたんですか?
壮吾:ああ、俺が〇〇を誘ったんだ。今日、咲月ちゃんが試合やるから観に行こうって。
〇〇:すごく良かったよ。怖がらずに、ブロックされたボールをちゃんとレシーブできていたし。
咲月:先輩たちとの練習で、痣だらけになった甲斐がありました笑
〇〇:あれ、凄く痛そうだったね笑
壮吾:あ、ごめんちょっとトイレに。
壮吾が二人を残して、トイレへと向かう。
〇〇:本当に良かったよ、みんなと連携出来ているとことかさ。
咲月:ありがとうございます。
〇〇:あ、それでね。咲月ちゃんに聞きたいことがあってね。
咲月:聞きたいこと?何ですか?
〇〇:あ、それが…
さっきまで普通だった〇〇が急に勿体ぶった感じを見せ、咲月は様子がおかしいと思った。
咲月:先輩?
和:咲月、帰ろ〜!!!
和が咲月を呼ぶ声が聞こえた。
〇〇:ごめん、なんでもないや。悪いね、友だち待たせちゃって。
咲月:ああ、いいえ。大丈夫です!
〇〇:またね。
そう言って、〇〇は咲月に背を向けて去っていく。
初めて咲月がチームの勝利に貢献した日から3週間後。
今日の授業を全て終えた咲月は、〇〇が初めて咲月の試合を観に来た日のことを思い出していた。
咲月:もしかして、あの時…上条先輩は…
そう呟いた咲月のスマホに、LINEの通知が来ていた。そのメッセージは、〇〇からのだった。
「昨日の帰り道に通った公園に、今から来てくれないかな?」
咲月はそのメッセージに返信すると、教室を飛び出して公園に向かった。
和:(もしかして、上条先輩かな?咲月、頑張って)
1人飛び出して行く咲月を、和は静かに見守った。
公園に着くと、〇〇がボールをあげてトスの練習をしていた。
咲月:上条先輩。
〇〇:咲月ちゃん。
咲月に呼ばれた〇〇は練習を中断すると、咲月のもとに来た。
〇〇:ごめん、急に呼び出して。
咲月:いえ…
〇〇:どうしても二人っきりで話したいことがあってね。
咲月:〇兄。
〇〇:え?
咲月:あ…、ごめんなさい!!急に下の名前でなんか呼んで…
〇〇:さっちゃん?
咲月:え?
〇〇:さっちゃん…、だよね?
咲月:じゃあ…、〇兄なの?
〇〇:う、うん。
〇〇にそう答えられ、咲月は〇〇の胸元に抱きつく。
咲月:もう会えないかと思ってた!
〇〇:俺もだよ。
咲月:うぅ…グスンッ
咲月のこぼした涙が〇〇の服を濡らす。
〇〇:泣き虫なのは変わらないね、さっちゃん。
そう言って〇〇は、咲月の背中をさする。
咲月:だってぇ…嬉しくて…
しばらく、咲月は〇〇の中で泣いていた。
それから落ち着いた二人は、ベンチで座っていた。
咲月:ごめんね、〇兄。〇兄が私と同じバレーボール部に入部したって聞いて〇兄が帰って来たって思ったけど、苗字知らなかったしもし違ったらどうしようって思ってずっと聞けなかった。
〇〇:もしかして、それを確かめるために…
咲月:うん、男子バレーボールの練習に混じって、〇兄かどうか確かめたかったの。も、勿論バレーボールも上手くなりたくてだけど。
〇〇:こっちこそごめん。さっちゃんが初めてこっちの練習に混じりに来てから、もしかしてさっちゃん?ってずっと思っていた。それで、この前、さっちゃんの練習試合観に来たんだ。でも、その時聞けなかった。
咲月:同じだったんだね、〇兄も。
〇〇:そう、だね。
咲月:ねぇ、〇兄?小さい時の約束覚えてる?
〇〇:うん。
(ねぇ、○兄?もし大きくなってまた会えたらね、私○兄と結婚する!)
(じゃあ、約束しよう。さっちゃん)
〇〇:だからね、さっちゃんに伝えたいことがあるんだ。
咲月:うん。
〇〇は姿勢を正して、咲月の方を向く。
〇〇:俺と付き合ってくれないかな?
その言葉を口にしたとき、〇〇の心臓が激しく鼓動していた。
咲月:うん!もちろんだよ!
咲月は嬉しさのあまり〇〇に飛び付く。
〇〇:うわぁ!?
咲月:ふふ、大好きだよ、〇兄。
〇〇:俺も大好きだよ、さっちゃん。
長い時を経てようやく結ばれた二人の上には、青空が透き通っていて、太陽が眩しかった。
そして、2人の笑顔はそんな太陽よりずっと眩しかった。
ー神社ー
〇〇、咲月、和、壮吾の4人が、今度の大会で優勝を祈願するための絵馬を書きに神社に来ていた。
和:いや〜、やっとだね。
壮吾:本当だよ、お前らいつになったらくっつくのか心配だったぜ。
〇〇と咲月が付き合い始めたと報告を受けた和と壮吾は、呆れた顔をしていた。
報告をした時、〇〇と咲月は初めて和と壮吾が裏で2人が結ばれるようにサポートしていたことを知った。
和には一応〇〇のことは話していた咲月だったが、まさか壮吾まで関わっていたことは思いもよらなかった。
咲月:二人には感謝してるよ、ね?〇兄。
〇〇:うん。
和:あれ?なんで二人は二枚書いてるの?
壮吾:お〜、書いたの見せろよ〜
〇〇:ダメだって、壮吾。絶対ダメだからな!
壮吾:ちぇ〜、ケチ。
(一同の笑い声)
咲月:和、どさくさに紛れて見ようとしないでよ。
和:えへへ、バレてたか。
先に4人でバレーボールの大会の優勝を祈願した絵馬を絵馬掛所に掛けたあと、和と壮吾が先に離れて行き〇〇と咲月がそれぞれの願いを書いた絵馬を掛けた。
〇〇:よしっと。
咲月:一緒だね、〇兄。
互いの絵馬に書かれたことを見て、〇〇と咲月は微笑みあった。
4人が去った後…
沢山の絵馬が掛かっている絵馬掛所へ、黒いタキシードを纏い白と赤のマフラーを首からかけた男がやって来た。男は、〇〇たちの書いた絵馬を見ていた。
「バレーボールの県大会で優勝して、全国に出場出来ますように」
「大好きなさっちゃんをいつも幸せにできる男になれますように」
「〇兄と二人で笑顔の絶えない毎日をいつまでも送れますように」
?:良い願いだな。きっと叶う、願い続ける限り。
fin.
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