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「好きなことは止められない」 最終話



木陰で立ち止まっていた〇〇と瑛紗に風が吹き、二人の髪をなびかせた。


瑛紗:偶然だね、〇〇くん。

先に瑛紗の方から喋りかけた。

〇〇:そ、そうだね。ここによく来るの?

瑛紗:うん。ここ好きなんだ。


瑛紗とは知り合ってまだ間もない〇〇だが、ここには何度も来ていた。

けど、一度として瑛紗みたいな美少女をこの川原で見たことはなかったので不思議に〇〇は思った。


〇〇:ここ、良いところだよね。

瑛紗:うん、空気もおいしくて。嬉しいことがあったりすると、よくここで絵を描くんだ。

〇〇:ぼ、僕もだよ。

瑛紗:え?

〇〇:僕も嬉しいことや、ちょっと気分が落ち込んだ時にここで絵を描くんだ。そうすると…

瑛紗:心が落ち着く…

〇〇:そう。

瑛紗が微笑んできて、〇〇も微笑み返した。




木の根元に座り込んだ二人は、それぞれのスケッチブックを見せ合った。

〇〇:これはね、前に山登った時に描いた。

瑛紗:凄い…この鳥、生きてるみたい。

〇〇の描いた枝に止まっている鳥の絵を指差して瑛紗が感心した。

〇〇:瑛紗ちゃんのその夕陽も、本当の景色みたいに見えるよ。

瑛紗:ほ、本当に?

褒められて照れる瑛紗の頬が、夕陽のように赤くなっていた。


それから、2人はそれぞれ絵をスケッチブックに書き始めた。

が、一方がもう一方の描いているのを見つめてを繰り返していたら、両者とも描くものが完成した。


〇〇:どう、描けた?

瑛紗:全然かな…

〇〇:何か今日は調子悪いのかな…

瑛紗:そうかもね。


本当は2人とも描き終わっていた。

それぞれが絵を描く様子を描いたのが。

でも敢えて言わなかった。

思っていることは2人とも同じだからだろう、

多分。


瑛紗:またね、〇〇くん。

〇〇:うん、またね。

日が暮れ、二人はそれぞれ家に帰っていった。




〇〇と別れた私は、彼とまたあの川原の木で会う約束をした。


クラスは同じだしいつでも教室で話せるけど、二人ともどうしても周りの視線が気になって、教室だと会釈程度しか出来なかった。


あの場所でなら、なんの気兼ねもなく〇〇と喋れた。

時々、絵を描くのを中断して二人で野原に寝そべっていたこともあった。


野原に生えた草が風に揺らされる音。

流れる川の音。

二人だけの世界があった。


〇〇:は〜、ここにずっと居たい。

瑛紗:ふふ、そうだね。私も居たい。

そうしていたら、いつの間にか〇〇と手を握っていた。


夢みたいな時間だった。


でも、その後しばらくここに来れない時期ができた。



私の学校では、部活に何かしら1つは入っていないといけなくて、親からは運動系に入れと言われていたのだ。


何となくで、私はバスケ部の体験入部をした。


周りが既にバスケ経験者だったり、運動が元々得意な子が多い中、私はとりわけ運動が苦手で、早速バスケ部の厳しさを突きつけられた。


?:そこ、遅い!!!

瑛紗:す、すいません…

ウォーミングアップで体育館内を走っている時、キャプテンに注意された。


立ち止まって、ボールをバウンドさせるのもままならなかった。


練習試合では、チームメイトのパスを毎回取れなくて、

?:ちょっと、今のも取れないの???

と呆れられた。


そんなことが続いて、アルノに心配された。


アルノ:無理してやることないんじゃない?

瑛紗:でも、運動系の部活じゃないとダメだって親に言われてて…

アルノ:ん…まぁ〜、そうかもしれないけど。でも、部活だよ?好きなことやれば良いと思うけどな。

瑛紗:好きなことか…

アルノ:うん。


でもその時、好きな部活って言われても何も思いつかなかった。


親にバスケ部をやめたいと取り敢えず言ってみたものの、最低でも1年は続けてと言われてしまい意味無かった。


そのままバスケ部に行き続けたが、徐々にチームメイトから悪口を言われていることに気がついた。

「あの子、何でバスケ部にいるの?」
「よく分からないけど、いらないよね。」
「さっさと辞めて欲しいよね。鈍臭過ぎるし。」
「見た目が良いからって、調子に乗ってない??」


我慢出来なくて、私は学校を飛び出した。

泣きながら、あの川原に向かって走っていた。

川原に着くと、〇〇がいた。

こっちを見た彼を見て、私は急いで涙を拭い平静を装うとした。


でも、私のところに来ると抱きしめられた。

あったかい…

止まっていた涙が栓を抜かれて溢れ出した。





久しぶりに瑛紗に会えたと思ったら、遠くからでも分かるくらい彼女が泣いていた。


僕は考えるのをやめて、瑛紗のもとに寄り彼女を抱きしめた。


ここ1ヶ月、僕は勘違いしていた。

1ヶ月前、瑛紗に言われた。

瑛紗:今度、バスケ部に入るんだ。

〇〇:そうなの?どうして。

瑛紗:今まで運動全然してこなかったから、折角だし。

〇〇:そうなんだ。

瑛紗:色々視野を広げていこうと思って。

〇〇:そっか。頑張ってね。

瑛紗:うん。でも時々、またこうしてここで会おうね。


僕はその時、瑛紗が自分から進んでバスケ部に入ったと思い込んでいた。


時々、学校で瑛紗に話しかけた時も、

〇〇:顔色、悪いけど大丈夫?

瑛紗:え、ああ…寝坊しちゃったんだ今日。

なんて笑っていたから、瑛紗に何も起きていないと思っていた。


でも、今目の前で瑛紗が泣いていた。


〇〇:ごめん、瑛紗…

自然と口から出てきた。

瑛紗:ううん…私こそ…


しばらくして、泣き止んだ瑛紗がここ1ヶ月のことを話してくれた。


〇〇:そっか、親が運動系の部活じゃないとダメって。それで無理に入ったんだ、バスケ部に。

瑛紗:でも、怖かった。あそこにいるのが…私運動音痴で、何やってもダメで…

〇〇:ごめん、こんな嫌な思いしてたのに気づいてあげられなくて…

瑛紗:そんなことないよ!!だって、隠していたの私だし…


それから、僕と瑛紗はいつものように木の根元に座り、スケッチブックに絵を描き始めた。




久しぶりに、〇〇とここで会って話して絵を描いた。


ここ1ヶ月の嫌なことなんかすっかり忘れていた。


〇〇:やっぱり瑛紗は、絵描いている時が一番良いよ。

そう言ってくれるのが嬉しかった。

瑛紗:だって楽しいもん。

〇〇:僕もだよ。は〜、でも僕も部活決めないとだな。もういっそ好きなことだけしていられる部活とかあれば良いのに。

瑛紗:好きなことだけ…

「好きって気持ちは止められないよ」

〇〇の言葉で、急にアルノに言われたことが頭をよぎった。


瑛紗:ねぇ、〇〇。

〇〇:ん?

瑛紗:部活、一緒に作ろうよ。

〇〇:部活を、作る?

瑛紗:そう、絵を描く部活。


突拍子もなく閃いたことだが、〇〇はすぐ賛同してくれた。

〇〇:そっか!!!部活作っちゃえば良いのか!凄いな、瑛紗は!!

瑛紗:そ、そうかな…??

〇〇:うん、僕には思いつかなかったよ。ありがとう、瑛紗!!!

異常なくらい喜んでいる〇〇だったが、もちろん嬉しかった。





それから、〇〇と一緒に部活を作る為に色々動いた。


バスケ部をやめるために親に説得する際、〇〇が一緒にいて説得してくれた。


それから、部活を作るための書類作りにアルノたちに手伝ってもらった。


アルノ:ねぇ、どうせだったら私たちも入って良い?その二人が作る部活に。

瑛紗:え?


美空:ほら、部員が多い方が楽しいじゃん。

部活を作る際の一番の壁だった人数の問題を解決するありがたい提案だったので、私と〇〇は喜んで受け入れた。



奈央:でも凄いね、瑛紗ちゃんも〇〇くんも。部活作ろうだなんて。

美空:うんうん、中々できることじゃ無いよ。

〇〇:だってさ、瑛紗。

瑛紗:な、何でそんなニヤケた顔してるのよ??

私が〇〇の肩を軽く叩くと、笑いが起きた。


それから書類が完成して、委員会に提出し無事受理された。


こうして、私たちの絵画部が創立された。




それから、半年が経った。


〇〇と一緒に帰り道を歩いていると、


アルノ:ヤッホ〜、お二人さん。


後ろからアルノが手を振ってやってきた。

今度、部活の一環で行く美術館のことで話にきたそうだが、

どちらかというと私たち二人のことを聞き出そうとするのがメインなのは、

バレバレだった。


アルノ:お二人さんは、このあとデートでも行くのかな?

瑛紗・〇〇:はぇ???

アルノ:何でハモった??

瑛紗:いや…別にそんなの…

〇〇:行くわけじゃ…

アルノ:ふ〜ん、まっ良いか。じゃあね〜

去り際に、アルノが耳元で囁いた。


アルノ:で、どこに行くの?

瑛紗:嫌だ、教えないもん。

アルノ:ケチ〜親友なのに。笑

瑛紗:親友でも秘密だよ〜笑

アルノ:ま、楽しんでおいでよ。


アルノが居なくなって、〇〇のもとに向かった。

〇〇:今、何話してた??

瑛紗:ん?アルノにどこに行くのって聞かれたの。

〇〇:っで、答えたの?

瑛紗:ううん、教えてないよ。

〇〇:意地悪な人だね〜、瑛紗さんは。笑

瑛紗:何よ、〇〇と私のためなんだからね。

〇〇:あはは、ごめんって。ありがと。

瑛紗:もう。笑

〇〇:じゃあ、行こっか。

瑛紗:うん。


それから、私と〇〇で夜景が綺麗な場所に向かっていた。

前から〇〇と行きたいと思っていたところだ。


今、こうしていられるのは、きっと…いや絶対に、〇〇とアルノのおかげなんだろう。

好きなことを止めないでいられるのは。

だから、決めた。

この後行く場所で、

〇〇に私の気持ちを伝えることを…

fin.


















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