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「私たち、同棲することになりました」


〇〇:祭りか…

オフィスの窓越しに、下の通りで開催される祭りに来た人たちの声が聞こえてくる。

久美:楽しそうだよね。

そう声をかけてきたのは、係長の佐々木久美さんだった。

〇〇:あぁ、すいません!それどころじゃないですよね…早く終わらせないと。

久美:ねぇ、あのお祭り、一緒に行かない?

〇〇:え?俺が…係長とですか?

久美:そうだよ。

すると、佐々木さんが俺のデスクに来てPCの前に顔を出す。

久美:これ終わったら、行けるかな?

〇〇:えっと…そうですね。


久美:じゃ、一緒に早く終わらせちゃお?私のはもう終わったから。

佐々木さんの勢いに負けて、俺は資料作りを手伝ってもらった。



資料作りを終え、俺と佐々木さんは祭りに来た。


久美:わ〜、色んな屋台出てるね。

〇〇:ですね。

祭りなんていつぶりだろうか。

小さい頃、よく連れてってもらったなー

わたあめなんか買ってもらったり、射的で
身体が小さくて中々的に当てられなかったり。
でも、輪投げは全部成功させたりしてたな。

確かあのとき、金魚すくいで隣にいた少し年上の女の子に僕がすくった金魚を渡したら凄い喜んでたっけ?

そんなことを思い出していたら、佐々木さんに呼ばれた。

久美:〇〇くん?大丈夫?

〇〇:あぁ、いえ。小さい時に祭りに連れてってもらったことを思い出していて。

久美:ああ、そうだったのか。私もよく連れてってもらってたな〜楽しかったな〜


俺と佐々木さんで一緒に歩いていると、金魚すくいのコーナーを通り過ぎた。

久美:あ〜、そういえば小さい時にね、金魚すくい全然上手くいかなくてね、そしたらね隣で金魚すくいしてた男の子から金魚をわけてもらったことあるの。

〇〇:へ〜、優しい子ですね。
(偶然だな…でも、まさか…ね)

久美:今どうしているかな?あの子…

〇〇:さぁ〜、どうしてますかね?

久美:ねぇ、あそこの輪投げやらない?

佐々木さんが指差す先に、輪投げコーナーがあった。

〇〇:良いですよ。

佐々木:やった、ありがとう!

〇〇:俺、輪投げには自信ありますよ。

佐々木:おっ、それは楽しみだ。





輪投げコーナーについた俺と佐々木さんは、
はじめに俺から輪投げをすることにした。


全部で3回投げられるのだが、俺は1等の場所を目指してみた。が、どの輪っかも目当ての場所にかからず、全部3等か2等しかかからなかった。

久美:お〜、上手いじゃん!!全部かかった!

〇〇:いや〜、でも悔しい!1等のとこ、引っかけたかったなぁ〜

久美:じゃあ〇〇くん、輪投げのコツ教えてくれない?凄く上手だったから。

次の番になった佐々木さんに頼まれ、俺が輪投げのコツを教えてから、佐々木さんは輪投げを始めた。


すると、


久美:え?

佐々木さんの投げた輪っかが、1等のところに引っかかった。

店の人:はーい、1等おめでとうございまーす!

久美:うぉ〜、やったぁ!!

〇〇:凄いじゃないですか、佐々木さん!

久美:ありがとう、〇〇くんのおかげだよ!

店の人:好きなの選んでください。

佐々木さんが選んだ景品は、2体のクマのぬいぐるみだった。

久美:これにしよ。〇〇くんはこっちのクマさんで、私はこっちで。

と言うと、佐々木さんが片方のぬいぐるみを渡してきた。

〇〇:え、良いんですか?

久美:うん、2人で取れた1等だからね。

佐々木さんからクマのぬいぐるみを受け取った時、なんだか恥ずかしくなってしまった。

久美:えへへ、お揃いだね♪

〇〇:そう、ですね笑

照れる気持ちが滲み出て、思わず苦笑いしてしまった。




祭りに来る人の数が増えてきて、さっきより見通しが悪くなってきた。

久美:さっきより混んできたね。

〇〇:そうですね。

久美:はぐれないように、手繋ごうか。

そう言って佐々木さんに右手を握られる。

〇〇:あ…

久美:ね?

〇〇:そ、そうですね…お互い迷子にならないように。


それから、手を繋いで佐々木さんと祭りの道を進んだ。


久美:(〇〇くんと、手繋いでいる…私。)

〇〇:(やばい…今、佐々木さんと手繋いでいる…)

それから、俺は佐々木さんと一緒に屋台の焼きそばや焼き鳥なんか食べたり、射的なんかしたりして、楽しんだ。


久美:りんご飴だ〜

左に見えてきたりんご飴の屋台の看板には、

「カップルの方、1本買うともう1本無料」

と書かれていた。

?:お2人さん、カップルかい?

〇〇:あぁ、え…と。

久美:そうです。

?:じゃあ、1本おまけ付けるね。


〇〇:なんか、すいません…言わせてしまって。


久美:ふふ、ちょっとズルしちゃったね笑

りんご飴を片手に、俺は佐々木さんとまた祭りの道を進んだ。

佐々木さんにカップルって言ってもらった時、思わずドキッとした。

〇〇:(いや、たださっきはりんご飴のために…)

でも、もしそうじゃないとしたら…





暫くして、祭りから少し離れたところに祭りを見下ろせる場所があった。そこのベンチに、俺は佐々木さんと座った。

久美:楽しかったね、〇〇くん。

〇〇:はい、なんか久しぶりにはっちゃけちゃいました。

久美:だよね〜笑


本当に楽しかった、佐々木さんとの祭りデート。

そう、まるで恋人どうしのように…



久美:こんな時に話すことじゃないんだろうけどさ、私、最近彼氏と別れたの。

佐々木さんの顔から、さっきまでの笑顔が消えていた。

久美:浮気してたの、彼。それで、一緒に住んでたけど出ていった。私と居てもつまらないって…

〇〇:(そんな、酷すぎる…)

久美:って、なんでこんな話してるんだろ…私は。

佐々木さんの目が明らかに涙を我慢していた。

〇〇:気にしないでください。佐々木さん、辛かったですよね…

久美:うん、寂しかった…あんなこと言われて…

こんな悲しそうな佐々木さんを見てられなくなって、俺は言った。

〇〇:俺だったら、佐々木さんをこんな悲しませないですよ!

久美:〇〇くん…

〇〇:だって、こんなに優しくていつも楽しませてくれる佐々木さんを泣かせたくないです。
いつも、笑っていて欲しいです。

久美:ありがとう、〇〇くんは優しいね。

佐々木さんがその時見せたほほえみは、俺に決心を後押しさせた。



〇〇:あの、佐々木さん。ずっと俺…

佐々木さんが俺の目を真剣に見つめていた。

〇〇:俺、佐々木さんのこと好きでした!

佐々木さんの目を見つめて、俺はしっかり気持ちをつたえた。



久美:嬉しい、〇〇くん。私もね…

佐々木さんは、嬉しさから出た涙を拭った。


久美:彼氏と別れてから、〇〇くんのことが好きになってた。今日、〇〇くんと祭りに来てね、もっと好きになったよ。

〇〇:佐々木さん。

嬉しかった、佐々木さんにそう言ってもらえて。


久美:もし良かったらなんだけど…

〇〇:はい、佐々木さん。

久美:一緒に住んでくれないかな?私と。

1人暮らしの俺は、大好きな人と一緒にいられると思い、迷うことなく答えた。

〇〇:もちろんです、佐々木さん。

久美:ありがとう!

こうして、俺は佐々木さんと同棲することになった。


久美:これからは久美って呼んでね。

〇〇:名前で、ですか。

久美:だって、苗字で呼ぶの変じゃない?笑

〇〇:そうですね、久美さん。

久美:〇〇くん。

名前で呼び合った俺と久美さんは、照れ笑いをしていた。




後日、俺は久美さんの家に引っ越しをした。

久美:今日から一緒だね、〇〇くん。

〇〇:そうですね、久美さん。

大好きで憧れだった久美さんとの同棲が始まった。


初めて一緒に暮らすことになった日の夜、
久美さんとダブルベッドに寝そべった。

久美:これから、僕たち一緒だよ〜

〇〇:そうだよ、僕たち一緒。よろしくね〜

それぞれ、久美さんが輪投げで1等を獲得した時に貰ったペアのクマのぬいぐるみを持って腹話術をして遊んだ。



久美:おやすみ、〇〇くん。

〇〇:おやすみ、久美さん。


2人が顔を合わせて寝てる間に、2体のぬいぐるみも、2人のように仲良くくっついていた。


fin.








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