君と家族になったあの日も、クリスマス前だったね。
葉っぱが全て落ちて枝が裸な木々が増えたこの季節。
窓を開けると、雪が降っていた。
冷たいけど新鮮な空気を吸っていると、部屋のドアが開けられた。
和:兄たん、おはよーー!!!
勢いよく俺の腹にダイブして抱きつく。
〇〇:おはよ、和。
和:寒いよ〜、兄たん。
〇〇:って裸足じゃん。そりゃ寒いでしょ。
和:だって起きたらすごく寒くて…でも、早く兄たんに会いたかったから!
もう中学生になったはずだが、それでも和は相変わらず俺に朝から甘えてくるのだ。
〇〇:それじゃ、風邪引いちゃうよ?
和:良いの、兄たんで温まるから!
早く退かさないと二人とも学校に遅刻するのだが、甘えん坊さんモードに入った和を退かすのは中々に苦労するのだ。
〇〇:和〜、ちょっと離れてくれない?お兄ちゃん準備しなきゃだからさ。
和:ダメ、まだ和があったまってないから。
〇〇:もうあったまったでしょ?
和:ううん、ま〜だ。
首を振りながら、和はくっついたままだった。
〇母:ほら〜、〇〇、和。朝ごはんできたわよ〜
和:あっ。
ようやく和が解放してくれた。
〇〇:ふ〜。
和:ふふ、ありがと。
〇〇:いえいえ。
和:あ、雪降ってる!
〇〇:そうだね。
和:ねぇ、兄たん?
〇〇:何?
和:帰ったら、一緒に雪遊びしよ?
〇〇:良いよ。
和:やったぁあああ
和と雪遊びの約束をして、身支度を整えてから下の食卓で朝食を取り、家を出た。
〇父:いってきます、母さん。
〇母:気をつけてね、あなた。
ハグしていってきますのチューをする二人は、結婚してからだいぶ時が経った今もラブラブだ。
〇母:〇〇と和も気をつけていってらっしゃい。
和:うん、いってきます。
〇〇:ありがとう、いってきます。
〇父:じゃあ、二人で仲良くな。
和:うん、お仕事頑張ってねパパ。
〇〇:気をつけてね、父さん。
父と別れ、和は俺に手を繋いできた。
和:ふふ〜、ねぇ兄たん。
〇〇:何?
和:デートみたいだね。
〇〇:ほぇ??
和:ぷぷっ、兄たん顔赤いよーー笑
〇〇:おいこら、和!
和:わ〜、兄たん怒らないで〜!!笑
〇〇:ったく笑。
和:ふふ、ごめんね。
〇〇:良いよ、和。
悪戯っ子なことをされても、やっぱり和のことが可愛くて頭を撫でると、にっこりしてきた。
こんな感じで、登校する時も賑やかなのだ。
ー高校ー
教室に入ろうとすると、背中を叩かれた。
遥香:〇〇おはよう。
〇〇:おっ、おはよう遥香。
遥香:どしたの?嬉しそうな顔して。
〇〇:へ?いや、いつも通りじゃないか?
遥香:いやいや、めっちゃニヤケてたよ?今。
もしかしてまた和ちゃんと一緒に。
〇〇:え、ああ…まぁ…
遥香:良いなあ〜!あんな可愛い妹ちゃんと一緒に登校だなんて♪
〇〇:んん、まぁ…
友だちの遥香と話して教室に入ると、遥香の親友のさくらちゃんがやってきた。
さくら:おはよう、かっきー、〇〇くん。
〇〇:おはよう、さくらちゃん。
遥香:ねぇ、さくちゃん。今日も〇〇くんが和ちゃんとイチャイチャしてて…
〇〇:おい、その言い方は語弊があるだろ!?
遥香:なんで良いじゃん!本当なんでしょ?
〇〇:まだ何も言ってないだろ!?
さくら:ふふ、和ちゃん可愛いよね。私もこの前会ったら、「さくらさーーーん!」ってねハグしてくれたの。
遥香:え、ズルいよ!!さくちゃん!!
遥香が拗ねると、
さくら:よしよし、良い子だかっきー。
さくらちゃんが遥香をあやしていた。
〇〇:(流石、遥香のお姉さんと呼ばれるだけあるわ。)
拓人:なんだよ、3人で盛り上がっていて!
俺も混ぜろ!
と俺の親友の拓人が教室に入ってきた。
〇〇:おはよう、拓人。
遥香:おお、たっくん。おはよう。
さくら:おはよう、拓人くん。
拓人:あ、そういえば〇〇、お前また和ちゃんとラブラブだったな笑笑
〇〇:は⁉️おまっ…見てたのかよ⁉️
遥香:やっぱり!で、どだった?どだった?
〇〇:いや遥香、おまえ食い付き過ぎ!
拓人:いやさ〜、和ちゃんが〇〇になんか言ってて、それで〇〇の顔が真っ赤になってな…笑
〇〇:な、言うなバカ‼️
さくら:え、何言われたの?何言われたの?
〇〇:いやあ…べ、べ、別に何もないよぉお?(さくらちゃんまで、食い付き凄いのは何故?)
拓人:おい隠すなよ、〇〇ー。
遥香:ね、お願い!今日定食奢るから!
〇〇:いや、いらない…
拓人:じゃあ、俺の持っている漫画、全部やるから!
〇〇:いや、大事にしろ!お前の宝だろ?
さくら:〇〇くん、お願い。
〇〇:(あの、そんなつぶらな瞳を見せられても困ります、さくらちゃん…)
と和と一緒に登校しただけで、何故か3人に拘束されているけど、実は和は本当の妹ではない。
和と初めて出会ったのは、丁度俺が中学2年生の時にたまたまボランティアで孤児院に行った時だった。
その日、俺のクラスの課外授業の一環として孤児院の子たちと遊ぶというのがあった。
他の生徒は皆、誰かしら孤児と一緒にはしゃいだりして遊んでいたのだが、俺は何故か他の孤児たちには好かれず暫く独りぼっちのままだった。
〇〇:はぁ〜、早く帰りてぇ〜
と1人寂しくぼやいていたら、視線を感じた。
顔を上げて見ると、1人の女の子が立って俺を見ていた。
〇〇:ん?
その子がこちらをじっと見ながらゆっくり歩いてきた。
〇〇:あの…
体育座りしていた俺の膝にポンッと手を乗せてきたのだ。
〇〇:1人、なの?
?:うん…
どうせ後数時間はここに居なきゃいけないし、と思い、
〇〇:一緒に、遊ぶ?
?:うん!
とその子に一緒に遊ぶことを提案したら、喜んでくれた。
名前を聞くと、
?:井上和。和って言うの。
〇〇:へ〜、良い名前だね。
〇〇:俺、山谷〇〇。よろしくね。
和:うん。
これが、和との最初の出会いだった。
その子とは鬼ごっこをしたり、キャッチボールをしたり、サッカーボールを蹴ったりして一緒に遊んだ。
その時の様子を見て、孤児院のスタッフたちは驚いたらしい。
今まで誰とも遊んでいなかった和が、初めて会った俺と自分から誘って凄く楽しそうに遊んでいたから。
そして、別れの時間が近づくと、
和:ありがとう、〇〇兄たん!楽しかった!
〇〇:本当に?良かったよ、和ちゃん。
和:また来てくれる?
〇〇:うん、勿論。
和:やったあああ!またね、〇〇兄たん!
〇〇:またね、和ちゃん!
手を振って和と別れた。
それから頻繁に和のいる孤児院に通い続けた。
和:あ、〇〇兄たん!
〇〇:よお和。元気にしてたか?
和:うん!ねぇ、〇〇兄たんも皆んなと一緒にサッカーやろうよ。
〇〇:良いよ、一緒にやろう!
いつしか和も少しずつ友だちが増えていたみたいで、俺はなんだか安心した。
最初は乗り気で無かったボランティアの活動から、いつの間にか俺は和と一緒にいる時間が楽しくて仕方なかった。
こうして和と孤児院で会う日々が続くかと思っていた。
ある日、
家に一本の電話が入った。
?:もしもし、玉谷孤児院の佐藤ですが山谷〇〇さんはいらっしゃいますか?
〇〇:あ、はい。俺が山谷〇〇です。
佐藤:あ、〇〇さんですね。いつも和がお世話になっています。
〇〇:いえいえ。こちらこそ、いつも会いに行くと和ちゃんが楽しんでくれていて。
佐藤:はい、和は〇〇さんのことをとっても気に入ってて。それで、急な話なんですけれど…ご両親は今いらっしゃいますか?
〇〇:はい、いますけど代わりますか?
佐藤:あ、そうですね…ただその前に〇〇さんにお願いしたいことがありまして。
〇〇:何ですか?
佐藤:あ、今和に代わりますね。
〇〇:えっ、ああ…
すると受話器から和の声が聞こえてきた。
和:やっほー、〇〇兄たん!
〇〇:おお、和ちゃん!
和:〇〇兄たんと話したくて、お電話しちゃった笑
〇〇:はは、そっかそっか。ありがとうな!
和:ねぇ、〇〇兄たん?
〇〇:どうした?和ちゃん。
和:あのね…和ね…
受話器の向こうで、和が焦らしていた。
和:〇〇兄たんと家族になりたい!
それを聞いた時、俺は凄く嬉しかった。
急いで父さんと母さんを呼んで話をすると、2人とも快諾してくれた。
〇父:勿論、大歓迎だよ〇〇。
〇母:これで、〇〇に妹が出来るわね。楽しみだわ、和ちゃん私たちのこと気に入ってくれるかな?
〇〇:はは、大丈夫だよ母さん。ありがとうね、2人とも!
それから、和と再び電話した。
〇〇:和、俺も和と家族になりたい❗️
和:〇〇兄たんも⁉️和嬉しい❗️❗️
〇〇:でね父さんと母さんもオッケーしてくれたんだよ❗️
和:えっ、じゃあ…
〇〇:俺たち、今日から家族だ❗️
和:わあーい、わあーい❗️和嬉しい❗️❗️❗️
それから数時間して、和が家にやってきた。
俺と目が合った瞬間、俺の胸元にダイブして抱きついてきた。
和:〇〇兄たん❗️
〇〇:ふふ、和ちゃん❗️
和:ねぇ、〇〇兄たんのこと兄たんって呼んで良い?
〇〇:うん、じゃあ和ちゃんのこと和って呼んで…
和:良いよ❗️兄たん、和嬉しい❗️❗️
〇〇:ありがとう、和。
この日、
和と俺が家族になった日、
ちょうどクリスマスイブだった。
ー中学校ー
下校の時間になり、身支度を済ませた和が窓を覗いていた。
咲月:な〜ぎ!
和:うあ、さっちゃん。
咲月:雪積もったね。
和:うん。だからね、帰ったら兄たんと遊ぶんだ。
咲月:え、良いな!咲月も一緒に遊びたい!
和:良いよ、さっちゃんも一緒に遊ぼ。
和が親友の咲月と一緒に校舎を出て校門をくぐると、
和:え?
目の前に、手を振る〇〇の他に遥香、さくら、拓人が立っていた。
遥香:やっほ〜、和ちゃんたち。
さくら:久しぶり、和ちゃん、咲月ちゃん。
拓人:よぉ〜、お二人さん。
和:わあーー、さくらさーーーん!
和がさくらに抱きついた。
さくら:うわっ。ふふ。
遥香:ああ…和ちゃん…
遥香が気を失い倒れそうになると、
拓人:おっ、おい!しっかりしろ、かっきー!
咲月:賀喜さん!
拓人:おお、サンキュー咲月ちゃん!
咲月:いえ拓人さん、お安い御用です!
〇〇:あの…俺…
一同:あっ…
和:えっ、兄たんが皆んなを誘ってくれたの?
〇〇:えっと、まぁ…そうだよ(いや、コイツらがほぼ勝手に…)
和:ありがと〜!
と和が抱きついてきた。
〇〇:喜んでくれて、良かったよ。
遥香:ほら〜、やっぱりウチらが言った通りじゃん!一緒に雪遊びするって言えば和ちゃん喜ぶって。
〇〇:遥香たちがしたいってのが大きいだろうが。
さくら:まぁまぁ、怒らないで〇〇くん。
拓人:そうだよ、皆んなで雪遊びする方が良いだろ?
〇〇:さくらちゃん、拓人お前もな…
和:兄たん怒らないであげて。皆んな一緒に遊びたいんだよ。和も、皆んなと遊びたいし。
咲月:是非、お手合わせを!
〇〇:お、おう咲月ちゃん、そんな畏まらなくても…
〇〇:ま、いっか。
和:ね、雪合戦しよ兄たん?
〇〇:良いね、しよっか。
遥香:じゃあウチ、和ちゃんとチーム!
さくら:えっ、じゃあ私も!
拓人:じゃあ俺も!
咲月:私は〇〇さんと一緒に❗️
〇〇:おっ、咲月ちゃんありがとう❗️って…
おい、そしたら4対2になるだろうが❗️
和:じゃあ、和が兄たんとさっちゃんと一緒になる。
拓人:え?
さくら:え?
遥香:えええええー!???
咲月:じゃあ、毎回チーム変えて遊ぶのはどうでしょうか?
拓人:おし、分かった!
さくら:良いね、楽しそうだね!
遥香:うぅ…和ちゃんに雪玉なんて当てられないよ…
〇〇:(1人納得いってなさそうだが、まぁ良いか。ありがとう、咲月ちゃん)
それから、雪合戦を6人で始めた。
和:えい!
ヒューンッ ボコッ
遥香:うお⁉️
雪玉を和に当てたれた遥香が雪の地面に倒れた。
さくら・拓人:かっきー⁉️
遥香:うっ…和ちゃんに当てられた…嬉しい…
和・咲月:賀喜さん⁉️大丈夫⁉️
遥香:あ、和ちゃんと咲月ちゃんが居てくれてる…これならもう召されて…
〇〇:何寝ぼけたこと言ってんだよ?
コツンッ
遥香:痛ッ❗️〇〇、この野朗❗️❗️
ボコッ
仰向けに倒れた遥香に、足を蹴られた俺も倒れた。
〇〇:うわぁ、おまっ。
遥香:道連れだ❗️
和:ぶふッ
咲月:ぶふッ
和たちが笑い出したのに釣られて、皆んなも笑い出した。
それから、何回もチームを入れ替えて雪合戦で遊んだ。
和:いえ〜い、兄たんに当てたー!
〇〇:はは、強いな和は。
遥香:おいずるいぞ〇〇!私も!
さくら:なんで味方なのに当てられにいくのよ、かっきー?
遥香:私は、和ちゃんを!!!
拓人:落ち着け。
ポンッ
遥香:え?
拓人:はい、当てたから1ポイント。
遥香:なっ、卑怯だぞたっくん!
拓人を追う遥香に続いて、さくらと咲月も後を追って〇〇と和のまわりを走っていた。
和:兄たん、大丈夫?雪玉当たったとこ、痛くない?
〇〇:え?大丈夫だよ?
和:良かった。
〇〇:優しいな、和は。
和:兄たん。
〇〇:ん?
和:ありがとうね、皆んなで遊べるようにしてくれて。
〇〇:どういたしまして。
今日はクリスマスイブ。
和と初めて家族になった日。
雪合戦をする6人の笑い声が暫く止まなかった。
fin.
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