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普段は強面で凶暴な彼女は、僕の前では嘘みたいに優しい。6話

※時期的に遅いですが、ホワイトデーに因んだ話です。


ー〇〇の家ー


〇〇:よし、分量も正確に出来た。

ボウルに小麦粉、牛乳、卵を投入し、トングで混ぜ始めた。

(インターホンの音)

〇〇:ん、宅配かな?

調理の手を止めて、〇〇はインターホンの画面を見る。

?:こんにちは〜、野上さんいらっしゃいますか?

〇〇:あ、日奈さん。

画面には、近所の知り合いである樋口日奈が立っていた。


玄関に向かい、〇〇はドアを開けた。

日奈:久しぶり〜、〇〇くん。

〇〇:お久しぶりです。それは?

日奈が抱えている箱を見て、〇〇は日奈に聞いた。

日奈:これね、いちごが余ってさ。〇〇くんの家に分けに行こうと思って来たの。

〇〇:え、良いんですか?

日奈:うん、遠慮せず受け取って。

〇〇:ありがとうございます。


日奈に礼を言って、〇〇は苺の入った箱を日奈から受け取った。


日奈:なんか甘い香りがするね。

〇〇:ああ、すいません。今チョコ作ってて…

日奈:もしかして、ホワイトデーの?

〇〇:まあ…そんなところです。この後作って、渡しに…

日奈:え〜、良いね!青春してるね、〇〇くん。

〇〇:あはは…笑

日奈:あ、だったら苺チョコ作ってみても良いかもね。その相手さんに。

〇〇:ああ、良いですね。

〇〇:瑛紗が喜ぶかと。

日奈:へ〜、瑛紗ちゃんって言うんだ。〇〇くんの彼女さん。

〇〇:へ????

日奈:じゃ、またね〜

〇〇:あ、はい。また…

日奈:瑛紗ちゃん、喜んでくれると良いね!

日奈が帰って、〇〇は玄関のドアを閉めた。

〇〇:(まだ、そうじゃないんだけどな…)





日奈が帰ってから少しして、〇〇は瑛紗に渡すバレンタインのお返しのチョコを完成させた。

〇〇:よし、出来たと。

〇L:今から家に行くね。

瑛L:うん、待ってるね!

瑛紗とLINEでやり取りをした〇〇は、作ったチョコブラウニーと苺チョコが入った小包を持って家を出た。



〇〇:瑛紗、喜んでくれるかな?

チョコを渡した時の瑛紗の表情を想像しながら〇〇が歩いていると、

?:おい、金貸せっつってんだよ。

?:き、今日は無いんだ…

?:あっ?ふざけんなよ?

近くで脅す声が聞こえてきて、〇〇はその声が聞こえた方へ向かう。


〇〇:(うわ、恐喝だ…)

ドシュッ

?:うぐ!?

?:金が渡せねーなら、こうするしかねーな?

金髪の不良が、脅されていた眼鏡の青年の腹に蹴りを入れる。

〇〇:(どうしよう…このままじゃ…)

〇〇:(瑛紗なら、すぐあの人たちを倒せるんだろうけど…)

?:や、やめて…

?:んだ?情けねー声あげてよ?

眼鏡の青年が赤髪の不良に胸ぐらを掴まれ、パンチを顔面に受けた。

ボコッ ドサッ

〇〇:!?

?:へへへ。

?:おいおい、やりすぎじゃねーか?

仲間の不良たちが、眼鏡の青年を蹴りながら嘲笑していた。


〇〇:!

?:おい次、どこやる?

?:え、背中じゃね?

?:そうなるか。

?:じゃ、俺が…

鼻にピアスをつけた不良が、眼鏡の青年を転がして蹴とばそうとした瞬間、


シュンッ


?:!?

ドンッ

黙ったまま突進してきた〇〇が、鼻にピアスをつけた不良に体当たりして突き飛ばした。

?:んお!??

ドサッ

?:んだ、テメーは💢!?

突然の部外者の乱入に苛立ったリーゼントの髪型の不良が、〇〇に殴りかかろうとした。

〇〇:!

その不良から飛んできたストレートを〇〇は避けて、代わりにリーゼントの不良の脇腹に肘でタックルし地面に倒れさせた。

?:がはぁ…

瑛紗にバスケで鍛えてもらったからか、〇〇の動体視力が向上していた。

?:ふざけんなよ、お前…

?:お、おい。アイツがいない!!!

〇〇が不良たちに攻撃している間に、眼鏡の青年は逃げていたようだった。


?:良い、アイツはほっとけ。それより…

?:テメー、なかなか面白いことしてくれるじゃねーか??

不良たちの興味が、眼鏡の青年から〇〇に移っていた。

〇〇:(よし…これで良い)

4人の不良たちを前にして、〇〇は今までにしたことのない笑い顔になっていた。

?:へ〜、やる気なんだ〜

?:後悔しても知らねーからな?

そんな〇〇に向かって、不良たちは指を鳴らして威嚇した。


ー瑛紗の家ー


瑛紗:〇〇、どうしたんだろう…

予定の時間になっても瑛紗の家に来ない〇〇にLINEしても既読がつかず、電話しても出ないので、心配になっていた。

瑛紗:〇〇の家に、行くか。

瑛紗はいつも着ているパーカーを着て、家を出た。




ボコッ

〇〇;!?

ドサッ

頰に痣を、額に傷をつけられた〇〇は、赤髪の不良から顎にアッパーを食らって地面に転がされた。

〇〇:うぐっ…

?:っふ、大したことねーな。

?:そうか?お前、顔に傷つけられてるじゃねーか笑

?:っるせー!!

仲間に煽られてキレた赤髪の不良は、〇〇が途中で落とした瑛紗に渡すチョコの入った小包を踏み潰した。

〇〇:!?

?:ま、久々に喧嘩しがいのある奴だったな。

〇〇:(瑛紗に渡すのを、よくも…!!)

悔しがりながら、〇〇は不良たちを睨みつけた。


?:っは、良い目で睨みやがるぜ。

?:こりゃ、特大サービスしてやるか。

不良たちが拳をポキポキ鳴らして、意気込んでいた。

その不良たちから距離を取ろうと、〇〇は立ち上がろうとしたがフラついていた。

〇〇:(こんなところで…!?)

〇〇が反応するより先に、金髪の不良が〇〇の腹にキックを浴びせ〇〇を吹き飛ばした。



〇〇:がぁ!?

腹を蹴られた衝撃と地面に叩きつけられた痛みで、〇〇は呻くような声をあげた。

?:おほー、飛ばすね〜

?:はっ、これくらい。

倒れた〇〇の視界がぼやけ始め、不良たちの声が〇〇の耳には遠くに聞こえ始めた。

〇〇:(嘘…僕ここで…)

その時、走馬灯のように瑛紗との思い出が〇〇の頭によぎってきた。

〇〇:瑛…紗…

瑛紗の名を呼んで、〇〇は目を閉じてしまう。

?:さて、次はどう…


シュンッ


?:!?

ボコッ  

金髪の不良が背中からパンチを受け、倒れた。

?:だ、誰だテメ…

ガシッ

?:!?

ブォーンッ  バコーンッ

鼻にピアスをつけた不良は胸ぐらを掴まれ、そのまま赤髪とリーゼントの不良たちに向かって体を投げ飛ばされ、撃沈した。

〇〇:(!?)

〇〇:(まさか…)

地面にうつ伏せになって倒れていた〇〇が目を開けると、目をギラギラさせた瑛紗が立っていた。


瑛紗:テメーら。

瑛紗:うちのダチ傷つけて、タダで済むと思うなよ?

いつもより静かで、そしてより低い声で瑛紗は怒りを表した。

?:な、た、頼…

ガシッ

瑛紗:!

?:ヒィぃぃ…💦

殺気立った目を見せつけた瑛紗は、赤髪の不良の胸ぐらを掴んでは腹にパンチを食らわして彼方に飛ばした。

ボコッ ヒューーーーンッ

?:嘘だろ…

ガシッ

?:!?

残りの3人の不良たちも、赤髪の不良と同じように一人ずつ瑛紗によって処され宙を飛んで消えていった。


瑛紗:ふ〜、ターキーだぜ。

〇〇:(や、やっぱ凄い…)

額に手を当てて空を見上げる瑛紗を見て、〇〇は思った。


瑛紗:〇〇ー!?

倒れた〇〇のもとに瑛紗は駆け込んで、肩を貸した。

〇〇:ごめん、瑛紗…

瑛紗:良いから、うち行くよ。


そのまま、瑛紗は〇〇を自分の家に連れて行った。




家についた瑛紗は、〇〇の怪我の手当をした。


〇〇:痛っ…

瑛紗:ごめん、沁みた?

〇〇:う、うん…大丈夫。

瑛紗:もう、心配したんだから…

〇〇:ごめん、本当に。

瑛紗に謝った〇〇の視界に、机の上に置かれた潰れた小包が入った。

〇〇:瑛紗、それ…

瑛紗:あ、うん…分かっている。

瑛紗:〇〇が作ってくれたの、だよね?

〇〇:ごめん、潰れちゃった…

瑛紗:アイツらとやり合ったから、だよね?

〇〇:うん…

瑛紗:珍しいね、〇〇が喧嘩だなんて…

〇〇:放っておけなかったんだ…

瑛紗:え?

〇〇は背筋を正して、瑛紗の方に向き直った。


〇〇:あの不良たちに脅されている子がいて。

〇〇:助けなきゃ、って思ったら体が勝手に。

瑛紗:どうして、そんな無茶を…

〇〇:本当、馬鹿だよね。

〇〇:瑛紗みたいに強くなんかないのに、無謀なことして。

瑛紗:〇〇…

〇〇:はぁ〜、もっと強くならきゃだね…

〇〇:こんな情けないままじゃ、良くないし。

〇〇が苦笑いをした。


瑛紗:そんなこと、しなくて良いよ…

〇〇:え?

瑛紗:だって、強いからとか弱いからとか…関係ないよ。

〇〇:瑛紗…!

気がつくと、瑛紗が〇〇をそっと抱きしめていた。

瑛紗:〇〇が無事で良かったよ!

肩に涙が垂れているのを、〇〇は感じた。

瑛紗:大好きな〇〇が無事で!!!

〇〇:え!?

瑛紗:へ?

その瞬間、瑛紗は〇〇から離れて口に手を当てていた。


瑛紗:あ、あはは。

瑛紗:そ、そういう意味で言ったんじゃないからね笑

笑って誤魔化そうとする瑛紗だったが、

〇〇:瑛紗?

瑛紗:何?

〇〇:今の、本当?

瑛紗:いや、だからじょうだ…

〇〇:瑛紗の本当の気持ち、知りたいんだ。

瑛紗:〇〇…

〇〇に真っ直ぐな瞳で見つめられ、瑛紗は決心した。



瑛紗:そ、その…本当なんだ。

瑛紗:私、〇〇のこと好きっての。

〇〇:瑛紗…

瑛紗:友だちとしてだけじゃなくて…

瑛紗:!

今度は〇〇が瑛紗をそっと抱きしめた。

〇〇:僕もだよ、瑛紗。

瑛紗:え?

〇〇:瑛紗のこと、好きになっちゃった。

〇〇:友だちとしてだけじゃなくて、さ。


言い終わった〇〇が瑛紗から離れると、

瑛紗:ほ、本当に?

瑛紗が見つめながら〇〇に聞いてきた。

〇〇:うん、本当に。

瑛紗:〇〇。

〇〇:何?

瑛紗:私ね…

一瞬下を向いて、それから瑛紗は〇〇に満面の笑みを見せながら言った。



瑛紗:すっっっっっごく、嬉しいーー!!!!


バッ


〇〇:わ!?

〇〇に飛びついた瑛紗が、ソファーに向かって〇〇とダイブした。

瑛紗:ふふふ

〇〇:ふふ。

喜びを分かち合うように、〇〇と瑛紗は互いに見つめ合って笑っていた。





瑛紗:ねえ、〇〇?

〇〇:何?

瑛紗:今から、一緒に作ろうよ。チョコ。

〇〇:え、でもホワイトデーのチョコってそれじゃ…

瑛紗:良いの、ホワイトデーなんか!

瑛紗:〇〇と一緒に、私チョコ作りたいの。

珍しく熊さんヘアをしている瑛紗が言った。

〇〇:一緒に?

瑛紗:うん、だってその方が楽しいもん!

〇〇:ふふ、そっか。

〇〇:瑛紗がそう言うなら。


瑛紗の提案で、〇〇と瑛紗はチョコを一緒に作り始めた。


キッチンからは、甘い香りが漂っていた。


冴えないのが成長して変わった男子高校生と、

普段は強面だけど心優しい女子高校生の、


新しい関係が始まった。


6話 完

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