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「君と出会えたのは、地獄のイベントのおかげ」.
夏休みになってワクワクしている人も多いだろう。どこかに友だちや家族、恋人と一緒に出かける予定なんかを立てて、胸を躍らせているんだろう。
でも、今の俺の場合は違った…
はっきり言って、最悪だ。クソ暑い外で、イベントに来た客の列の誘導やら、案内やらでずっと休むことなく働かされていた。
ただでさえ、気温が36度とかで高すぎるのに、真夏の太陽の光と熱が、皮膚と肺を痛めつけてきた。
「スタッフさん、こんな暑いのに大変ね」
などと、同情の声をあげるのも居たが、はっきり言って耳障りだった。どれくらい耳障りかと言うと、蝉の鳴き声並みにだ。
(んなこと言うなら、イベント来ないでくれ!それか、代わりにやってみるか?蒸し焼きにされてみるか、おまえら?)
なんて、心の中で毒を吐きながら誘導をしていたら、少し離れたところで騒ぎが起きていたのが聞こえた。
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「なんで、無理なんだよ!」
「ですから…その、割り込みになってしまうので…」
「ふざけんなって!さっきまで並んでて、トイレ行きたくなったから、途中で抜けただけだろうが!」
ああ、よくあるヤツね…
そんなことを思いながら騒ぎの場まで来ると、男性客からのクレームを浴びていた子は、こう言うとあれだが、この場に似つかわしくないくらい綺麗な顔立ちをしていた。
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「対応、変わるね」
「す、すいません…」
その子に伝え場所を代わると、おれはその客から事情を聞くことにした。
「すみません、どうされましたか?」
「ああ、丁度良かった。兄さん、聞いてくれよ。さっきまでこの列に並んでいて、トイレ我慢出来なくなったから、後ろに並んでたこの人に頼んで前を空けてもらっていたんだよ。それで、トイレから戻って列に戻ろうとしたら、この姉ちゃんに、ダメですって言われて列から外されたんだよ。」
その男性が言う後ろに並んでいたという他の客も、彼の意見に頷いている様子だった。
なるほど。思ったよりマトモな方だったので、
そこまでこっちが、気が滅入ることは無さそうだ。
「そういうことでしたか。当イベントでは、お客様が列に並んでいて途中でトイレに行きたくなった場合、近くのスタッフに声をかけて整理券を貰うようにしてもらっています。」
「あ、そうだったの?」
「はい。ただ、お客様もご自身なりに他の方に配慮されての行動を取って頂いていたとのことですから、今回は列に戻ってもらって大丈夫です。次からは、気をつけてください。」
「そっか、悪かったな…気をつけるよ。」
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ふ〜、やれやれ…
と思いながら、その場を離れようとすると、
「あ、あの…」
さっきのクレーム客にあたふたらしていた子が俺に話しかけてきた。
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「さっきは、ありがとうございます…」
「気にしないで平気だよ。それより、今日無茶苦茶暑いね…」
「はい…そうですね…」
「体調とか平気?アレだったら、休憩してきなよ。ここは俺に任せて」
「あ、ありがとうございます!実はちょっとトイレ行きたくて…あと、喉もカラカラで…」
「じゃ、丁度良いじゃん。行ってきな。」
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そして、今日のイベントも終わり撤収作業も片付いて帰ろうとしていた。
「あの!」
声をかけられて振り返ると、やはりさっきの子だった。
「お、お疲れ様。」
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「お疲れ様です!今日一日、ありがとうございました。」
「良いって、お互いこんな夜まで大変だったからさ。じゃ…」
「待ってください!」
「ん?」
「良かったら、この後…ご飯一緒に食べませんか?その…お礼がしたいので。」
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その子と近くの焼肉屋に行き、一緒に焼き肉を食べて来た。
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「美味しいですね!」
「うん。やっぱり、一仕事の後の肉は最高だね。」
「はい。それに…」
「?」
「それに、〇〇さんが優しい方で良かったです。」
不覚にも、こう言われてドキッとしてしまった。
いや、不覚なんて何カッコつけてんだか…
「そ、そうかな…笑」
「はい。〇〇さんがいなかったら、今日私ダメだったと思います。」
「そ、そう…そうか、それなら良かった。」
ダメだ…ちょっと冷静でいられなくなっている…
「あの〇〇さん、良かったら連絡先交換しませんか?」
はい?今なんと仰いましたか??
「え、小坂さん…今なんて…」
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「また〇〇さんにお会いしたいので、連絡先交換したいです。」
ドカーーーン!!
意識飛ぶかと思った。
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それから、小坂さんと度々会うようになった。
そして、今日。
初デートだった。
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「すいません、寝坊しちゃって。〇〇さん、待ちました?
「ううん、今、丁度来たばっかりだよ!」
今なら確信を持って言える。
あのくそ辛いイベント、
ありがとぉおおおおお!!!!!
fin.
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