10話「交錯 中編」
ー都内 高層マンションー
あやめ:本当に、大丈夫ですか?
美月:うん、もう平気だよ。
あやめが入れた紅茶を一口飲むと、美月は笑顔で答えた。
あやめ:私、ファイズと戦ったんです…
美月のもう一口紅茶を飲もうとした手が止まった。
美月:ファイズと…?
あやめ:けど、そのあと見失って…でも、気をつけた方が良いのは間違い無いです。ファイズは、本当にオルフェノクにとって敵かもしれません。
美月:敵…
あやめの脳内に、目の前でオルフェノクを倒すファイズの姿が映し出される。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ースマートブレイン 社長室ー
?:なるほど、ファイズとカイザに接触して生き残ったのは、今のところこの二人だけと…
スマートブレインの現社長、村上峡児がタブレットを見つめながらスマートレディーの報告を聞いていた。
スマレ:はい、他のオルフェノクちゃんたちは残念ながら倒されてしまっていますが。
村上:面白い、彼女たちと話してみたいですね。
スマレ:二人とも、と〜っても可愛いですよ♪
村上:ええ、それにオリジナルのオルフェノク、上の上です。ベルトの奪還を、このまま二人に任せるのも良いかもしれません。
村上がデスクの上に置いたタブレットには、美月とあやめの顔が表示されていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー菊池クリーニング屋(啓太郎の家)ー
啓太郎と再会した飛鳥は啓太郎と共にこの家に戻ってくると、さくらと瑞穂がクリーニングの手伝いをしていた。
さくら:あ、飛鳥さん!
飛鳥を見るや、さくらは飛鳥に抱きつく。
飛鳥:ちょとやめてよ、恥ずかしいって…あ、貴女…
瑞穂:やぁ、齋藤さん。大丈夫だった?オルフェノクと戦ってたと聞いたけど?
飛鳥:あ、あぁ…なんとか。それより、手伝ってくれてたの?
瑞穂:ええ、配達中の貴女が行方不明で大変だった啓太郎くんやさくらちゃんのためにね。もちろん、齋藤さんのためにもね。
飛鳥:迷惑かけたね、ありがとう。
珍しく飛鳥が愛想よく、瑞穂に謝罪と感謝を伝えた。
啓太郎:土生さん、すごいや。もうこれ全部終わったの?
啓太郎が、クリーニングとアイロンがけ済みの包装された服の束を見て感心していた。
土生:まぁ、昔こういうバイトしたことあるし。
さくら:土生さん、明日配達予定の分までやってくれたの。
啓太郎:そうだ、土生さん。良かったら夕食ここで食べてってくださいよ。ねぇ、いいよね二人とも。
さくら:うん、もちろん。
飛鳥:あ、うん。
瑞穂:じゃあ、お言葉に甘えて。
いつもの3人の夕食に土生が加わって4人になっただけのはずだが、いつもより騒がしかった。
土生が啓太郎の料理の腕を褒め、照れてる啓太郎にさくらが野次を入れ、飛鳥が啓太郎が最近客に恋しているだのと話題に出し、また啓太郎が慌てふためき、それを全員で笑っていた。
さくら:へ〜、飛鳥さんってこういうの読むんですね?
夕食が終わった後、さくらは飛鳥の背中の後ろから覗き込み、飛鳥が読んでいる楽器の雑誌に指差す。
飛鳥:な、勝手に見ないでくれる?
さくら:いいじゃないですか。それに、そんなに隠すことですか?
そんな二人のやりとりを、少し離れたところから見つめる瑞穂の表情は、穏やかなものではなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー数日後 スマートブレイン本社ー
今朝、スマートレディーにマンションから車でここまで連れてこられた美月とあやめは、社内の特別ラウンジに案内された。そこでは、社長の村上がソファーに腰かけて美月たちを出迎えた。
村上:はじめまして、山下美月さん、筒井あやめさん。社長の、村上峡児です。
美月:はじめまして。
美月が深くお辞儀をすると、あやめも続いてお辞儀を村上に向かってした。
村上:どうぞ、おかけになってください。
美月:あの…私たちを呼んだ訳は?
村上:そのことなんですが、その前に伝えておきたいことがあります。私は、お二人のことを高く評価しています。何しろ、オリジナルのオルフェノクという、とても希少な存在なのですから。
あやめ:オリジナル?
美月:オルフェノクに襲われずに、事故なんかで死んで蘇ったオルフェノクのことをそう呼ぶの。
美月が、オリジナルのオルフェノクについた簡単に説明すると、
村上:その通りです、そしてそのパターンでオルフェノクになる方は滅多にいないのです。その分、高い能力を秘めてると言われています。そして、お二人は実際、その能力の高さを示してくれています。なんせ、我々の仲間たちが次々と倒されたファイズとカイザ相手に、生き延びているんですから。
美月:では、私たちを呼んだのは…
村上:改まって言うほどではないのですが、一刻も早くベルトを取り返して欲しいのです。あのファイズのベルトとカイザのベルトは、元々我々スマートブレインのものですから。そして、もし私にそのベルトたちを届けてくださったら、最高の待遇を約束します。
あやめ:最高の待遇、って?
村上:ファイズ、そしてカイザのベルトを取り返せば、貴女たち二人をラッキークローバーに推薦します。
美月・あやめ:(ラッキークローバー???)
スマレ:ラッキークローバーに入れば、それはそれはもう、一生幸せですよ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー菊池クリーニング屋ー
啓太郎とさくらが配達に出かけた菊池クリーニング屋には、飛鳥と、今朝クリーニングを頼みにきたついでに店を手伝いたいと啓太郎に願いでた瑞穂が店番をしていた。
飛鳥:土生さんも、随分変わった人ね。クリーニング代をタダにしてもらう代わりに店を手伝いたいだなんて。
瑞穂:そうかな?ま、ここにいると落ち着くんだよね。それに、齋藤さんがアイロンがけ苦手って聞いていたから、助かるかと思って。
瑞穂は涼しそうな顔でアイロンがけをしていた。
飛鳥:ふん、余計なお世話よ。それより昨日感じたんだけど、さくが私に近づいて来たとき睨んでたよね?
瑞穂:気のせいじゃないかしら?
作業の手を止めて質問する飛鳥に対し、瑞穂は変わらず手を休めず作業を続けていた。
飛鳥:それに、この前さくと二人きりで話していたとき、私の話題をさくが上げた時も同じような顔していたよ。もしかして…
瑞穂:気にしすぎよ、齋藤さん。私が、貴女に嫉妬しているとでも?
そう言う瑞穂の表情は、まだ余裕が見られた。
飛鳥:じゃあ、もしかしてさくが土生さんのことを忘れていることと関係があるんじゃ…
瑞穂:黙って…
突然、瑞穂はアイロンの手を止め低い声で呟く。
飛鳥:え?
瑞穂:黙ってって言っているの❗️❗️❗️
飛鳥:❗️やっぱり、何か隠してるんじゃ…
瑞穂:あなたに関係ない❗️❗️あなたなんかに、さくらちゃんは…
さっきまでのクールな雰囲気は面影もなく、瑞穂は声を荒げ怒鳴り散らした。
流石の飛鳥もこれには驚きを隠せず、口も手も動けずにいた。
瑞穂:あ、ごめんね。つい取り乱しちゃって…でも、あまり人のこと詮索するのはやめた方が良いわよ?
飛鳥に一応の謝罪を入れ、もとのクールな表情に戻る瑞穂だった。
が、飛鳥には瑞穂に対して、スマートブレインと同じくらいの疑心が芽生えていた。
飛鳥:(何を考えているの、土生さん…)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ー市民スポーツ施設 付近ー
一人で道を歩いていた美月は、スマートブレインの現社長の村上の発言を思い返していた。
「ファイズ、そしてカイザのベルトを取り返せば、貴女たち二人をラッキークローバーに推薦します」
美月:ラッキー…クローバーに…
?:見つけたぞ。
美月が振り返ると、黒いスーツに身を包んだ男が立っていた。
美月:誰?
?:お前、社長に気に入られているらしいな。だが、ファイズのベルトは俺がいただく。そうすれば、俺がラッキークローバーに入れるんだ。
美月:何が、言いたいの?
?:お前には、ここで消えてもらう。
美月に宣告した男は、サソリ型のオルフェノク・スコーピオンオルフェノクへと変貌する。
スコーピオンオルフェノクは、右手に装備したトゲ付きの鉄球を鎖で柄に繋いだフレイルを振り回すと、美月の腹部を狙った。咄嗟に美月は両腕で鉄球をガードしたが、鉄球の重みとトゲが美月の腕に激しい激痛と衝撃をもたらし、地面に転がされた美月は呻き声を上げた。
スコーピオンオルフェノクは再度フレイルを振り美月の体を粉砕しようとしたが、ギリギリで美月が横に身体を回転させて避け、鉄球が地面に衝突し大きなヒビが入る。
なんとか立ち上がった美月は、クレインオルフェノクへと変身した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
啓太郎:クシュん!!
さくら:ちょっと啓太郎、大丈夫?
啓太郎:う、うん。へい…!?
フロントガラス越しの進行方向に、二体のオルフェノクが戦闘しているのが見えた。
啓太郎:オルフェノク!?
啓太郎は急いで、菊池クリーニング屋にいる飛鳥と瑞穂に連絡を入れる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オ:新入りの貴様を、何故社長が直々にラッキークローバーに推薦したんだ!?
スコーピオンオルフェノクは戦闘スタイルを変え、美月に向かってフックを乱発する。
美月:ぐっ!?
オ:どうせ、汚いコネでも使ったんだろ?
美月:な、勝手な思い込みしないでくれる!?
飛んできたパンチを美月は右腕で受け止めると、左脚でスコーピオンオルフェノクの腹部を蹴飛ばし引き離す。スコーピオンオルフェノクは再度、フレイルを召喚し振り回すが、クレインオルフェノクの力で美月は背中から翼を広げ空中に飛んでオルフェノクの攻撃を空振りにさせた。
オ:何!?
そのまま美月は上空からスコーピオンオルフェノクに向かって突進し、オルフェノクの胴体に背中から生えた翼で斬りつけた。
( バイクの音)
美月が地面に着地すると、啓太郎のバンの横にやって来たオートバジンとサイドバッシャーが止まり、飛鳥と瑞穂がそれぞれのバイクから降りて走って来た。
ーーーーーーーーーーーーーーー
飛鳥:!(あの人…)
目の前で戦う二体のオルフェノクのうちクレインオルフェノクを見た飛鳥は、前に怪我を負って川に流されていた自分を助けたオルフェノクだと気づいた。
「9 1 3 Standing by」
瑞穂:変身!
「Complete」
カイザに素早く変身した瑞穂は、スコーピオンオルフェノクとクレインオルフェノクに向かって突っ込んでいく。
さくら:飛鳥さん、どうしたんですか?
変身せず立ち尽くす飛鳥を心配したさくらが、飛鳥に声をかける。
啓太郎:もしかして、具合悪い?
飛鳥:いや…別に…
二人に声をかけられ、ようやく我に返った飛鳥がファイズフォンに変身用の番号を入力する。
「5 5 5 Standing by」
飛鳥:変身!
「Complete」
ファイズに変身した飛鳥はオートバジンからファイズエッジを抜き取り、瑞穂に加勢し、戦いはファイズvsスコーピオンオルフェノク、カイザvsクレインオルフェノクの構図になった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ファイズエッジを装備した飛鳥は、スコーピオンオルフェノクに突き攻撃を仕掛けようとしたが、スコーピオンオルフェノクの武器・フレイルの鎖にファイズエッジが絡み、ファイズエッジが飛鳥の手元から離れてしまう。
飛鳥:あっ!?
オ:おらぁああ!!
武器を失った飛鳥に、スコーピオンオルフェノクは容赦無くトゲ付きの鉄球を叩き込む。
鉄球の打撃を受けて地面に転がされた飛鳥だったが、飛んできたフレイルの鉄球を身体を横に回転させて避けた。
そして、飛鳥はファイズエッジが突き刺さったところにスライディングしファイズエッジを抜き取ると、ファイズエッジをフレイル目掛けて回転させて飛ばす。
フレイルの鎖にファイズエッジの刃がヒットすると、鎖が破壊されフレイルの柄との繋がりを断たれた鉄球が地面に落ちヒビが入る。
自身の武器を破壊され狼狽えるスコーピオンオルフェノクの胴体を飛鳥は右足で蹴飛ばし、怯んだオルフェノクの正面をファイズエッジで連続で斬りつける。
オ:くそ…
勝ち目がないと思ったのか、スコーピオンオルフェノクは超人的なジャンプを繰り出して、その場から姿を消した。
その一方で、瑞穂はカイザブレイガンをブレードモードにして、クレインオルフェノクこと美月に斬撃を浴びせる。斬撃を受けたクレインオルフェノクからは、羽が飛び散った。
瑞穂:はぁ!
カイザブレイガンのセーフティースイッチを解除し、ブレイガンの銃口からエネルギー弾を数発発射し、銃撃された美月は地面に転がされ呻いた。
美月:げほぉ…
瑞穂:終わりだ。
瑞穂はカイザギアに装備していたカイザポインターにメモリを装填し、ポインターを右下腿部にセットして「ENTERボタン」を押す。
「Exceed Charge」
瑞穂が空高くジャンプし両足を揃えると、カイザポインターから黄色いエネルギー状のマーカーが発射された。
瑞穂:てぁあああ!!
美月:!?
美月が気づいた時にはすでにマーカーは美月をロックオンしていた。
その瞬間、
死を悟るしか美月には出来ない…はずだった。
飛鳥:!?
思わず飛鳥は、カイザとクレインオルフェノクのもとにダッシュした。
(電撃の軋む音)
さくら・啓太郎:!?
カイザポインターから放たれた黄色いエネルギー状のマーカーが捕捉したのはクレインオルフェノクこと美月ではなく、美月を押し退けて庇ったファイズこと飛鳥だった。
瑞穂:な、何!?
飛鳥:ぐ…う…
美月:!?
飛鳥:に、げて…
美月:え!?
11話に続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?