僕たちは最高の魔法使いコンビ 1話「人間界に逃げた獅子」
?:ねぇ、知ってる?
?:何が?
?:ここの煉瓦の壁、夜になると異世界に通じるんだって。
?:それ、都市伝説ってヤツでしょ?本当じゃないんでしょ?
?:本当だよ。見たって人いるんだよ。ここの壁が壊れて煉瓦が飛び出すのを。
夕暮れになり、サッカーボールを持った少年たちが噂話をしながら煉瓦の壁の横を歩いていた。
(獣の呻くような声)
壁を通り過ぎて、森の中の道を通っていた少年たちの耳に不気味な音が聞こえた。
?:聞こえた?今の…
?:熊じゃないの…?
(獣の呻くような声)
?:なんかやばくない…
?:⁉️
?:うわぁあああ‼️
見えない何かに突然押し飛ばされた少年たちは、サッカーボールを手放してしまう。
?:に、逃げよう!
先に起き上がった方が、もう片方の尻もちをついている方を起こし、2人はダッシュでその場から立ち去った。
少年たちがいなくなった後、
残されていたサッカーボールが宙に浮き出し、そしてそのまま暗闇に消えていった。
ゴゴッ
先ほど少年たちが通った煉瓦の壁が揺れ出す音が聞こえてきた。音は段々と大きくなり、やがて壁の中心から煉瓦が崩れ、空洞が作られた。
その空洞から、2人の男女が現れる。
〇〇:なあ、本当にここなのか?
優佳:間違いないって。この魔法生物探知機くんがそう言っているから。
優佳が手に持つ透明なガラスで出来たコンパスのような物の針が激しく揺れる。
〇〇:もうこんな暗いのか。
優佳:そうね、灯りを。
〇〇はゲッケイジュで出来た杖を、優佳はナンテンで出来た杖を取り出して、呪文を唱えた。
〇〇・優佳:ラクス<光よ>!
〇〇と優佳の持つ杖の先から光の球が出現した。
優佳:この辺りに、何か手掛かりがあるはずよ。こっちの世界に連れてこられたナーブくんの痕跡とかが。
〇〇:なぁ優佳、そのナーブってどんな生き物なんだ?
優佳:とても大きい体で、足がとてつもなく速いの。1日に1万マイルは走るって言われてるの。あと、狩りをする時や自分の身に危険が迫っていると感じると姿を透明にしてしまうの。
〇〇:なるほどね…すばしっこい上に、警戒されたら隠れられてしまうのか。流石、佐々木大先生だ。いつも楽しい仕事をさせてくれる。
優佳:皮肉言ってないでほら、探して。
〇〇:あいよ。
暗がりの森の中を捜索していると、〇〇が地面に虹色にうっすら光る毛を見つけた。
〇〇:これ…
優佳:ナイス〇〇!それナーブくんの毛。
〇〇:ここら辺に居たのは間違いないってことか…
優佳が〇〇から毛を受け取ると、杖を毛に向けて振る。
優佳:プロセキティグム<追跡せよ>!
すると毛が1人でに宙に浮き、どこかに向かって飛んでいく。
優佳:追いかけて!
〇〇:ああ、分かった。
飛んでいく毛の跡を追うように、〇〇と優佳は走り出す。
毛を追っていくと、人気のない公園の広場に出た。
〇〇:❗️あれ…
〇〇が指差す先には、虹色の毛を靡かせた獅子がサッカーボールを頭で地面に転がせていた。
優佳:そっか、ナーブくんは丸いのを見ると夢中になるのか。
〇〇:ふ〜ん、だからサッカーボールを。優佳みたいだな、サッカーボールをあんな風にして。
優佳:そうかもね、走るのも大好きだし。
そう話しながら、優佳は杖を振り直径1メートルほどのガラスの球を作り出す。
〇〇:ああ、なるほど。このガラス球を使ってナーブくんを…
優佳:〇〇、これ持ってて。
優佳は一個の小瓶を〇〇に渡した。
〇〇:何これ?
優佳:まだその蓋開けないでね。
〇〇:ああ…で、なんで?
優佳:その中の煙を嗅いだら、ゾウでも一瞬で眠っちゃうくらい強い麻酔効果があるから。
〇〇:ほう…って、なんで俺に杖を向けて…
優佳:クラデディア<閉じ込めよ>!
〇〇:うわぁ⁉️
優佳の杖から放たれた呪文が〇〇に当たると、〇〇の身体が一瞬にしてガラスの球の中に移動し、身体を丸めて閉じ込められた。
〇〇:何してるの優佳、ふざけてる場合じゃ…
優佳:ナーブくんを捕まえるためだから、ちょっと我慢してて。
〇〇:我慢って…てか、何する気なんだよ??
窮屈そうな感じの〇〇がガラス球の中から声を発した。
優佳:良いから言う通りにして。今から私が〇〇が入ったガラス球をナーブくんに向かって転がすから、ナーブくんがガラス球にじゃれつき始めたら、〇〇はその小瓶を開けて。
〇〇に指示を出すと、優佳は杖を振りガラス球の表面に一箇所手のひらサイズの空洞を作り出した。
〇〇:なるほどね…了解した、魔法生物学者さん。
優佳:用意は良い?
〇〇:嫌だって言っても仕方ないんだろ?
優佳:じゃあ行くよ。
〇〇:あいあいさ。
溜め息をつき、〇〇は目を閉じた。
優佳:えい!
両手で優佳が〇〇の入ったガラス球をナーブに向かって転がした。
〇〇:(三半規管やられる…)
ガラス球の中で転がされながら、〇〇は自分に向けて小さく杖を振る。
〇〇:オレカナリス・コルディアス<三半規管を強化せよ>!
ガラス球がナーブの近くまで転がっていくと、ナーブがサッカーボールからガラス球の方に興味が移った。
ナーブ:グギューーーッ❗️
〇〇:かかった、今だ!
鼻を摘んで口を閉じた〇〇は優佳に渡された小瓶の蓋を開け、ガラスの表面に出来た穴から小瓶を持った腕を出した。
ナーブ:グォーーーンッ…ン…
小瓶からの煙を嗅いだナーブは瞬きを数回した後、瞼を閉じて地面に横たわり眠った。
ドサッ❗️
ナーブ:zzz
優佳:眠ったみたい、ナーブくん。
〇〇:(ふ〜、良かった…)
優佳が杖を振り、ガラス球を消滅させて〇〇を解放した。
〇〇:(おっと、危ない)
小瓶が開いたままなのを思い出し、すぐさま〇〇は蓋を閉じた。
〇〇:ぷはあ〜〜!
優佳:ありがとう、お陰で無事ナーブくん捕まえられた。
〇〇:作戦お見事、影山先生。
優佳:貴方もね、鱒良(ますり)先生。
任務完了の余韻に浸ろうとした2人だったが…
〇〇:?
優佳:どうしたの、〇〇?
表情が険しくなり、〇〇は辺りを警戒し出した。
〇〇:!
〇〇たちの周囲の木々から、杖がうっすらはみ出ているのが見えた。
〇〇:避けろ❗️
優佳:!?
〇〇の掛け声とともに、〇〇と優佳は術で姿を消した。
それと同時に、6つの方向から赤色、緑色、黄色の閃光が二つずつ2人がいた場所に向かって飛んで衝突した。
ローブの男1:!?
〇〇と優佳に向かって呪文を放った男の1人が、2人が消えたのを見て動揺していると、
〇〇:フェンパシィ<失神せよ>!
ローブの男1:うぉ!?
赤い閃光が〇〇の杖から放たれ、ローブの男1の背中に必中した。男は宙に一瞬飛び気絶して地面に倒れた。
優佳:カタトビタス<固まれ>!
ローブの男2:グッ!?
優佳の杖から放たれた呪文がローブの男2の腹に当たり、男は石のように身体が固まって動けなくなり、石像のようにカタンっと音を立てて地面に倒れた。
残っていた4人のローブの男のうち二人も、〇〇と優佳の呪文によって行動不能の状態にされていた。
ローブの男5:っざけやがって!
残っていた男二人は動きが速く無詠唱で呪文を連発してくるなど、戦闘力が高めで手強かった。
優佳:あっ!?
優佳に向かって緑の閃光が飛んできたが、優佳は気づくのが少し遅れていた。
〇〇:危ない!!
咄嗟に〇〇が優佳を庇い、二人で地面に転がりながらなんとか緑の閃光を避けた。
態勢を立て直した〇〇と優佳に向かって、再度緑の閃光が飛んできた。
〇〇・優佳:!
すかさず二人は杖を振り、赤い閃光をそれぞれ飛ばす。
(呪文同士がぶつかる音)
〇〇と優佳が背中合わせになって放った赤い閃光が男たちの放った緑の閃光と繋がり、繋がり目から電撃が発生した。
〇〇:大丈夫か、優佳!?
優佳:絶好調よ、そっちは?
〇〇:ああ、最っ高の気分だよ。
〇〇と優佳は空いている手から魔力を放ち、杖に魔力を供給し呪文を強化した。
すると繋がっていた赤い閃光が緑の閃光を押すように伸びていき、やがてローブの男たちの杖が爆発した。
(爆発音)
爆風によって男たちは気絶し、杖を手放していた。
〇〇と優佳が男たちから杖を回収すると、腰を下ろして地面に座り込んだ。
〇〇:ふ〜っと。
優佳:あら、もう息切れしちゃったの?
〇〇:違うよ、少し休憩してるだけ。そっちこそどうなんだい?
優佳:休憩してるだけよ、私も。
〇〇:そうかい。
ようやく息をつけた二人が顔を見合わせて笑みを浮かべていた。
ナーブ:グギュ〜〜〜〜〜
〇〇と優佳が振り返ると、ナーブが二人のもとに寄ってきて〇〇と優佳の顔に自分の顔をこすりつけてきた。
〇〇:おいおい、くすぐったいぞ。
優佳:ふふ、どうやら気に入られたみたい。
ナーブ:グギュッ!!
〇〇:うわ!?
二人に懐いたナーブが身体で〇〇と優佳を囲むと、〇〇と優佳の顔がくっつきそうになった。
優佳:え?
目と目が合った瞬間、〇〇と優佳の顔が赤くなっていた。
あと少しで唇同士もくっつきそうだったから。
ナーブ:グギュ〜〜〜〜〜
〇〇:え、あぁ…笑
優佳:ぷふふ笑
〇〇:ナーブくんは相当な悪戯っこだな。笑
優佳:そうね。笑
ーヒナタ国際魔法学校 校長室ー
久美:ご苦労様だったわ、二人とも。人間界に逃げた獅子くんの捕獲作戦を成功させてくれて。ついでに、悪い魔法使いたちの逮捕もね。
〇〇:どういたしまして、校長。
久美:任務はどうだったかしら?
優佳:最高に楽しめましたよ、ナーブくんに初めて会えましたし。
〇〇:ごほ…ああ、そうですね。とてもスリルがあってよかったです。
久美:それは良かった。てっきり二人が退屈しないかが不安でね笑
〇〇:ご心配なく。闇の魔法使い6人にバッチリ殺されかけたので。
久美:毎度危険な任務の時に、防衛術の先生と魔法動物学の先生の二人に頼りっきりで悪いとは思ってるわ。
優佳:いえ、魔法界と人間界の平和のためですから。
〇〇:その通りです、校長。
歴代の校長の動く肖像画が壁に飾られ、数々の魔法道具が並べられた校長室から出た〇〇と優佳のもとに二人の生徒がよってきた。
帆夏・果歩:おはようございます、影山先生、鱒良先生!
優佳:おはよう平尾さん、藤嶌さん。
〇〇:おはよう。
帆夏:またどこか出かけられていたんですか?
〇〇:どうしてそう思うんだい?
果歩:だって凄く楽しそうな顔してますもん。
〇〇:そうか、それは気づかなかった笑
帆夏:で、どうなんですか?
優佳:当たりよ、2人とも。
帆夏:やっぱり!今度そのお話聞かせてください!
〇〇:分かったよ。
果歩:楽しみにしてます!最強魔法使いコンビのお2人の話。
〇〇と優佳と別れた帆夏と果歩は、ウキウキした感じのステップを踏んでいた。
〇〇:最強コンビって…笑
優佳:最高の褒め言葉じゃない。
〇〇:好奇心旺盛だな、相変わらず。そこが良いところではあるけど。
優佳:生徒に教えるべきは書物のみにあらず、でしょ?
〇〇:そうだな。ん?
2人の生徒を見送っていた〇〇が横を向くと、優佳が〇〇を見つめていた。
優佳:あっ…、なんでもないわ。
〇〇:昨日のことでも考えていたのか?
優佳:教えないわよ、秘密だから。開心術使ってもダメだからね?笑
〇〇:しないよ、そんなこと笑
〇〇と優佳はハグを交わした。
優佳:じゃあ、授業行ってくるね。
〇〇:ああ、皆んな優佳の授業を楽しみにしてると思う。
優佳:ありがと、でも〇〇の防衛術も人気よ?
私が嫉妬しちゃうくらいよ。
〇〇:光栄だよ、優佳にそう思ってもらえるのは。
優佳:ふふ、じゃあまた。
〇〇:うん。
それぞれ担当の授業に出るため別れた。
授業が終わった後、〇〇はこの魔法学校の校長の久美に呼ばれた。
〇〇:先生、お呼びになった訳は…まぁ、なんとなくは分かりますが。
久美:君が考えている通りよ。闇の勢力がまた動き出している。奴らがナーブを人間界に連れてきたのは始まりにすぎない。
〇〇:では、やはり私と優佳で倒した彼らは…
久美:信奉者ね。闇はそう簡単に消えない。光がそうなのと同じように。
宙に浮いた盆を覗きながら、久美は呟いた。
久美:君たちの力がまた必要な時が来る。
完
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