見出し画像

姉に溺愛されているお嬢様を助けただけなのに… 1話


美波:正直に吐け。お前は私の妹に淫らな行為を働いたな?

〇〇:いや、してないです…(なんて誇張表現…)

美波:嘘をつくな!彩の尻に触れただろ⁉️

彩:落ち着いて、お姉さま!違うの!この方は良い人なの!

美波:ああ、あ〜や…この人に脅されて庇うように言われたのね?

〇〇:(いやいや、なんちゅう妄想だよ…)

格好からしてお嬢様な子の隣に立つヤンキー質なお姉さんに、何故〇〇が木刀を突きつけられているのかというと…




(数時間前)


彩:うわぁ。

ドサッ

彩:痛いよぉ…

・・・

彩:(うっ、外の人って怖い…)

〇〇:君、大丈夫?

彩:えっ?

〇〇:立てるかい?

彩:えっと、あっ…(痛いッ…)

〇〇:足、見せて。

彩:あ、はい…

〇〇:少し擦っちゃったみたいだ。ちょっと待ってて。

彩:えっ、あ…

傷口の消毒をしてもらい、絆創膏を貼ってもらう彩。


〇〇:これで大丈夫。

彩:ありがとうございます。(この人、なんて優しい目をしてるの…)

〇〇:立てる?

彩:ええ。(手が温かい…)

〇〇:どうかした?

彩:あの…私、ここ来るの初めてで。

〇〇:へ〜、そうなんだ。どこに行きたいのか教えてくれたら、道案内するよ。

彩:あ、その…どこに行こうとか決めてなくて。

〇〇:そうなの?

彩:はい…私この近くに住んでますが、今まで一度も1人で外に出たことないんです。

〇〇:どうして?

彩:家の人が許さないんです、外は危ないって言って…でも私、外の世界のことが知りたくて、それで…

〇〇:そっか、じゃあ一緒に行こう。

彩:え?

〇〇:外の世界は楽しいってこと、教えてあげる。

彩:(何、こんなドキドキな気持ち…初めて…)




彩は〇〇に手を引かれ、街を案内してもらうことになった。

彩:あの、名前聞いてもいいですか?

〇〇:ん、ああ、松田〇〇。〇〇で良いよ、呼び方。

彩:あ、小川彩です。彩って呼んでくだされば…

〇〇:分かった。彩ちゃんは、その…

彩:はい、所謂お嬢様といったところです。

〇〇:そっか。きっと大切に育ててもらえたんだね。

彩:ええ。家族はみんな私に優しいです。でも
あまりに過保護で、いつまでも子ども扱いするんです。

〇〇:そっか、それは嫌になるね。

彩:そうなんです。だから、私ももう子どもじゃないって証明したくて、それで1人で家を飛び出したんです。

〇〇:なるほど。

彩:でも、いざ1人になると何も出来ないことが多いなって思わされました。バス、って言うんですかね?あの乗り物に乗った時、お金が必要だと知らなくて…それで困っていたら、近くにいた優しいおじさまがお金をくれたんです。

〇〇:はは、良かったね。

彩:凄く恥ずかしかったです。先に乗っていた小学生くらいの男の子でも、ちゃんとお金を自分で払っていたのに…

〇〇:大丈夫だよ、俺も前にバス乗ろうとしたら、小銭がなくて更にSuicaも家に忘れててさ。お金なくて困ったことあったよ。

彩:そう、なんですね…

グーッ

彩:あっ…

〇〇:お腹、空いたね。どこかで食べようか。

彩:はい…(音、聞かれちゃった…)

彩は顔が赤くなっていた。



〇〇と彩は、イタリアンのお店でランチを取ることにした。


二人が座る席のテーブルに、彩が頼んだトマトソースのパスタと、〇〇が頼んだジェノベーゼのパスタが運ばれてきた。

彩:うわぁ、とっても美味しそうですね♪

〇〇:そうだね。

子どものようにはしゃぐ彩を見て、〇〇は和んでいた。

〇〇・彩:頂きます。

彩:ん〜、美味しいです!!

〇〇:良かった、気に入ってもらえて。

彩:外には、こんな美味しいのがあるんですね!

〇〇:パスタ、食べたことないの?

彩:はい。一度も。

〇〇:本当にお嬢様なんだね。

彩:ええ、でも今日は普通の女の子で居たいんです!一人の普通な女の子で。

〇〇:じゃあ、いろんなとこ行こっか。この後に。

彩:はい!




ということで、ランチを食べ終えて〇〇は彩を連れて街中を歩くも、女の子が行きたいお店なんてどこが良いのか検討がつかず迷っていた。

〇〇:(さて、どうしたものか…)

彩:あ、あれ。

彩が指差して向かった先には、鮮やかな彩の石のキーホルダーやアクセサリーなどがショーウィンドウに飾られていた。

彩:このお店、入っても良いですか?

〇〇:うん、もちろん。

カランッ

彩:綺麗なお店ですね。

〇〇:そうだね、とっても…

店に入るや、彩は先ほどショーウィンドウに並んでいた色鮮やかな石らに夢中になっていた。

彩:綺麗ですね、どれにするか迷っちゃいます。

〇〇:そうだね、ゆっくり見よっか。

彩:はい。


それから二人で眺めていて、少しして彩がサファイア色の石のキーホルダーを手に取った。


彩:これなんか、どうですか?

〇〇:それ良いね、彩ちゃんに合うよ。

彩:じゃあ、これにします!

〇〇がキーホルダーを購入して、彩が首から下げていた小さな鞄に付けてあげた。

〇〇:可愛いね、それ。

彩:えへへ、嬉しいです♪

お店を出た〇〇と彩は、街を散歩し始めた。


それから、アパレルの店や置物の店に入ったりしては、彩が洋服や置物を選んだりするのを〇〇は横で見守っていた。


ーアパレルの店内ー

彩:これ、ガーリーなものって言うんですね。

試着室から出てきた彩。

〇〇:(うわっ!か、可愛い…)

彩:どうです?この格好。

〇〇:とても似合っているよ!

〇〇が褒めると、彩がクシャっとした笑顔を見せた。




彩:は〜、凄く楽しかったです!

〇〇:良かった。

彩:外の世界が危険なんて、嘘ですね。こんな楽しいのに。

そうこうしていると、空が夕焼けになっていた。

〇〇:もうこんな時間か。あ、家まで送ろうか?

彩:良いですか?

〇〇:もちろん。

彩:じゃあ…あっ!

足元がフラついて彩が地面に倒れこむ。

〇〇:疲れちゃったのかな?

彩:そうみたいです…

〇〇:じゃあ。

彩:え?

〇〇:ほら、背中に乗って。

彩:(へ、お、おんぶ!?)い、いえそんな…悪いですって。

〇〇:平気、平気!ほら、乗ってって。

彩:で、では…(い、良いんですか…こんなことしてもらって…)




彩:(はぁ…どうしよう…)

〇〇におんぶされながら、彩は一人頭の中で混乱していた。

彩:(家について、〇〇さんにおんぶされているところを家の人に見られてたら…)

彩:(特に、お姉さまに見られたら…)

彩:(でも〇〇さんの背中、あったかい…)

彩:(もういっそ、このままで良いのに…)

〇〇:彩ちゃん?

彩:え、は、はい!!!

〇〇:あはは、ごめん。寝てた、もしかして?

彩:い、いや…大丈夫です。

〇〇:そっか、良かった。

彩:あ、あの…もし良かったら…

〇〇:ん?なに?

彩:また、こうして一緒にお出かけしても…

〇〇:良いよ、もちろん。

彩:あ、ありがとうございます!(ほっ、良かった…)

〇〇:ん?

彩:え?

?:止まりなさい、そこのお前。

〇〇:(だ、誰?この人…)

?:彩を取り返しなさい。

彩:(この声、まさか…)

〇〇の後ろから彩が顔を覗かせると、正面には暴走族の格好をして木刀を持った姉の美波が立っていた。

その美波の背後から二人のSPらしき男が、〇〇たちの元に来て二人を引き離した。

SPのうち一人は彩を抱え、一人は〇〇を手錠で拘束した。


彩:お姉さま…

美波:ああ、あーや。怪我はない?

彩:えっと…大丈夫。

美波:はぁ〜、良かった。愛しの彩が無事で!

〇〇:あの〜、これはなんの冗談ですか?

美波:お前を連行する。

〇〇:はい???(態度急に変わるの怖ッ⁉️)




そして、今に至る。



美波:貴様、私の彩をたぶらかして。覚悟はできてるんだろうな?

〇〇:あの、覚悟も何も俺、なんもしてないです…

美波:此の期に及んでしらばっくれるのか、良い度胸だな?

美波の持っているのは竹刀だったが、後ろに手に手錠をかけられ首に竹刀の先端をくっつけられている感じだと、まるで打ち首にされるみたいな状態だった。

彩:やめて、お姉さま!

美波:彩、そこを退いて。

彩:嫌!退かない!この人は、私の恩人なの。外で一人で怪我していた私を手当てしてくれたの。

彩は裾をめくって、足のところに貼られた絆創膏を見せた。

彩:その上に街に一緒に付き合ってくれたの。美味しいもの食べたり、可愛らしい洋服着たりだって、〇〇さんのおかげで出来たの。外は楽しいところだって、〇〇さんが教えてくれたの。

美波:彩…

彩:それでも、どうしてもって言うなら…私を先に斬って。

〇〇:(いや、それ打ち首じゃん!?…それに木刀だし斬れないよ???)

美波:・・・本当なの、彩?今の話。

彩:うん。

美波:そうなのね。分かった、この男の首は斬らないでおくとしよう。

〇〇:(いや斬るつもりだったんかい!!!)


それから、なんとか許された〇〇は解放された。




小川家の屋敷の門のところで、彩が〇〇を見送ろうとした。


彩:ごめんなさい、〇〇さん。私のせいで、こんな目に遭って。

〇〇:え?あ、いやいや大丈夫だよ。なんとか無事だったし。

彩:でもあと少しで、首を斬られるところだったし。

〇〇:ああ、竹刀じゃ首斬れないから大丈夫!それに…

彩:それに?

〇〇:それに、今日彩ちゃんと過ごせて楽しかったよ。ありがとう。

彩:わ、私もです!今日、本当に楽しかったです!

〇〇:うん。あ、あとこれ渡しておくね。

〇〇は小さいメモ用紙を彩に渡した。

彩:これ…

〇〇:俺の住所と電話番号が書いてあるから。今度また一緒に出かける時に必要かと思って。

彩:あ、じゃあ私のも。

彩も用意していたメモ用紙を〇〇に渡した。

〇〇:ありがとうね。

彩:ええ。

〇〇:じゃあ。


〇〇が彩に背を向けて去ろうとした瞬間、


〇〇:?


〇〇の手を彩が握っていた。

そして、〇〇が振り返ると…


〇〇:え…



彩の顔が目の前に現れ、そして二つの唇が重なった。



彩:・・・

〇〇:・・・

彩:じゃあ、また…



手を振りながら彩が背向けて家に戻るのを、〇〇はただ見つめていた。


fin??

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?