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5話「居場所」

ー都内 高校の体育館ー

平日の昼間、本来なら授業などで生徒たちの賑やかな声が屋内に響くはずの体育館は、今は立ち入り禁止のテープが貼られて、捜査関係者以外は立ち入り禁止の場所となっていた。

そこに、警視庁から到着した白石麻衣刑事が、別の署から捜査協力に来た後輩の池田瑛紗刑事を連れて体育館に入る。



瑛紗:事前に渡された資料に書いてあった通り、体育館内は綺麗そのものですね。

麻衣:でも、ここでこの学校のバスケ部の子たちが、全員突然失踪したのよ…

瑛紗:本当にここで、その部員たちが全員いなくなっちゃったんですか?防犯カメラとかは?

麻衣:勿論、見てきたよ。部員たちが全員体育館内に入っていくのがしっかり映っていたし。でも、そのあとに誰も体育館から出てくる様子は防犯カメラには一切映ってなかったの。

白石が腕を組んで曇った表情でそう言うと、瑛紗がしゃがみ込み、床を指でなぞり始める。

瑛紗:もしかして、隠し扉があるとか⁉️バスケ部員たちは全員、その隠し扉から地下に入れられて監禁されているとか?それで、防犯カメラには映らなかったのかもしれませんよ!

麻衣:そんなのね…都市伝説とかじゃないんだから、ある訳…

瑛紗:もう、先輩❗️捜査には、時に発想力が必要なんですよ?

麻衣:だとしたら、どこかの床から隙間風が吹いてる筈よ?


白石に言われた瑛砂は、「確かに!」と読み取れる表情で手をポンと叩き、床から隙間風がないかを確認し始めた。

探し始めてしばらく経ったが、収穫ゼロは変わらずだった…

麻衣:う〜ん、やっぱり見つからないね。

瑛紗:無いですか…ってことは、次は壁を。

麻衣:あ、ちょっ…瑛紗?

白石が引き留めようとする前に、瑛紗は今度は壁を触り始めた。


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ー菊池クリーニングー

昨日、横須賀から啓太郎の家であるここ「菊池クリーニング屋」まで車を走らせた啓太郎は、夜遅くなったこともあり、飛鳥とさくらを家に泊まらせた。

朝を迎え、3人が食卓を囲っていたが、啓太郎は飛鳥とさくらの間に険悪なムードを感じ取っていた。



啓太郎:2人ともどうしたの?さっきからずっと口聞かないけど?

さくら:別に…

飛鳥:なんでもないから…

啓太郎:(絶対、そんなことないでしょ…)

明らかに機嫌が悪い飛鳥とさくらだったが、触れてはいけない気がして啓太郎は2人の間に何があったかは聞かないことにした。



啓太郎:それで、えんちゃんのお父さんに会いに行くんだよね?

さくら:う、うん。お父さん、スマートブレインの社長なの。

飛鳥:スマートブレイン?あの有名な会社の社長なの?

さくら:そうで…

一瞬、さくらと飛鳥が会話を始めたことで、雰囲気が良くなることを期待したが、目が合った瞬間、直ぐに2人は口を尖らせて外方を向く。



さくら:ふん。

飛鳥:ふん。

啓太郎:(やっぱり何かあるんだ…もしかして、あの怪物のことで…それか、あのベルトで…)

2人の不仲の原因を想像しながら、啓太郎は白米を口に頬張る。


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ー都内 高層マンションー


あやめ:オル、フェノク?

美月:そう。一度死んだ人間が、極稀に蘇ることがあって、その蘇ったのをオルフェノクって呼ぶの。

あやめ:死んだ…人間…❗️

その瞬間、あやめの脳内で記憶のフラッシュバックが起きる…


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ー数日前ー

あやめの父:あやめ、話があるんだ。

あやめ:な、何?

父親に食卓に呼ばれたあやめが聞くと、父親が振り返り、手には包丁が握られていた。

あやめ:⁉️

あやめの父:許してくれ…もう、限界なんだ…



それは、一瞬の出来事だった…



あやめに向けられた包丁の刃が彼女の腹部を貫通し、血が床に垂れ、あやめの目の前の光景がボヤけていく。




父親は、1人借金に苦しんでいた。元からギャンブル依存症だった彼だが、妻の存在がなんとか彼をギリギリのとこで引き留めていた。

しかし、去年。

その妻は、不慮の事故によりこの世を去ってしまう。


そして、あやめの父親のギャンブル依存がエスカレートし、多大な借金を抱えてしまう。
そして、彼は実の娘の命を奪い、自らも命を断とうとした。

そうすれば、また3人一緒になれると…


ショックで尻もちを着いていた父親が、床に落ちていたあやめの血が付着した包丁を手に取り、自らの命を断とうとした瞬間、

あやめ:…

息絶えていた筈のあやめが目を開き、起き上がる。



あやめの父:あ、あやめ…⁉️そ、そんな馬鹿な…

あやめは無言で父親の顔を見つめる。

あやめの父:あやめ…?

その瞬間、あやめの目が灰色に光ると顔に模様が浮かび、やがて全身が灰色の異形の怪物・オルフェノクへと変貌する…

あやめ:ぁああああああ❗️❗️

あやめは右手に召喚した剣で、実の父親の胸を貫いた。


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あやめの目から、涙が溢れていた。

あやめ:う…ぅう…

逃げ出すように、あやめはベランダの方へ走ると、背中を屋内に向けて蹲る。


美月:あやめちゃん…


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ー菊池クリーニング屋前ー

朝食を終えたさくらは、オートバジンに乗り父の会社であるスマートブレインに向かおうと、バイクのエンジンをかける。

そこに、遅れてやって来た飛鳥も自分のバイクに乗った。

さくら:何してるんですか?

飛鳥:何って…一緒に行くのよ。さくのお父さんに会いに。


さくら:来なくて良いですよ。嫌なんですよね?私と居るのが。

飛鳥:な…あんたが一緒に居て欲しいって言うから仕方なくなのに、何よその言い方⁉️

再びバチバチの喧嘩モードに入った飛鳥とさくらの間に、啓太郎が場を和ませようと割り込む。



啓太郎:まぁ、まぁ、2人とも。僕もついて行くから落ち着いて。

さくら:な、なんで啓太郎が来るのよ?

飛鳥:そうよ、啓太郎くんは関係な…

啓太郎:宿代と食事代の代わり❗️それに、今のままの2人じゃ心配だから❗️そんなんじゃ、えんちゃんのお父さんも会って喜ばないよ❗️

意外な人物からの大声で、飛鳥とさくらは驚き黙り込む。そして、半ば強引に3人でスマートブレインへ向かうことになった。


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バスケ部員全員が謎の失踪を遂げたこの体育館で、瑛紗は部員たちが監禁されたと勝手に推測し、監禁された部屋に通じる隠し扉を見つけるべく、壁を触って調べまわっていた。

麻衣:もう…どうせ何も見つからな…?

瑛紗の思いつきにほぼ無意味さを感じながらも、白石が近くの壁を叩きまわっていると、壁に違和感を感じ手を止めた。

麻衣:(ここの壁、叩くと微かに空洞音がする⁉️)

急いで白石は、瑛紗に大声で呼びかけた。


麻衣:瑛紗!ちょっと来てー!

白石に呼ばれダッシュしてきた瑛紗に、白石が
壁のことを話すと、瑛紗も問題の壁を少し叩いた。

瑛紗:本当ですね!確かに音がする…

麻衣:瑛紗、ここの学校の人たちに最近、体育館で工事があったか聞いてきてほしいの。

瑛紗:了解です!


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ースマートブレイン社 受付カウンターー

受付嬢:社長は只今不在ですし、IDカードの無い方はお通しする訳には参りません。

さくら:あの…せめて連絡先だけでも…

受付嬢:申し訳ございません。

飛鳥:ちょっと、実の娘が父親に会いたいって言っているんですよ?もうちょっと、なんとかならないんですか?

飛鳥が受付嬢に不満気に言うと、さくらは飛鳥の手を引いてカウンターから去っていく。


飛鳥:ちょっ、さく??

さくら:今日はこの辺にしときましょう…

飛鳥:そ、そんな簡単に諦めて…

さくら:諦めてはいないです。今日、ここに来たっていうことをお父さんが知ってくれたら、きっと次は会えます。

久しぶりに、飛鳥に笑顔をみせるさくら。

飛鳥:さく…


2人はスマートブレイン社のビルのメインエントランスから、外に出た。

さくら:でも、会いたくないのかもしれません…
父さんは。

飛鳥:?どうして?

さくらは少し深呼吸をして、再び口を動かす。

さくら:父さん、本当の父さんじゃないんです…

飛鳥:え?

さくら:だから、もう会いたくないのかも…

さくらが空を見上げて黄昏れているのに構わず、
さくらのスマホの着信音が鳴り響く。


さくら:もしもし?

電話の相手は、啓太郎だった。

啓太郎:た、大変なんだよ❗️化け物が❗️ほら、この前に横須賀で襲ってきた奴みたいなのが❗️

さくら:わ、わかった❗️直ぐ行く❗️

飛鳥:オルフェノク、ね?

飛鳥の問いにさくらが頷く。


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戸田:ふん。

オルフェノクとなった戸田の周囲には、戸田に襲われたと思われる通行人たちが倒れ込んでいた。


啓太郎:よ、よくもこの人たちを…

そこに飛鳥とさくらが到着したが、2人の視界には、ファイズのベルトを装着した啓太郎がオルフェノクと対峙していたのが映った。

さくら:け、啓太郎⁉️

「5 5 5  Standing By」

啓太郎:変身!

啓太郎はファイズフォンに番号を入力すると、それをファイズギアにセットする。

「Error」

啓太郎:うわぁあ⁉️

ファイズのベルト・ファイズギアに適合しなかった啓太郎は、ベルトから電流を浴びて吹き飛ばされ、ファイズギアとファイズフォンはオルフェノクの足元に落ちた。


飛鳥・さくら:⁉️(マズい、ベルトが⁉️)

戸田:礼を言うぞ。お前のおかげで、ファイズのベルトは手に入れ…

(銃撃音)

ファイズギアを手に入れ勝利を確信した戸田は、背後から攻撃を受けその勢いでファイズギアとファイズフォンを手放してしまう。



戸田:くそ…誰だ!?

飛鳥:(!今のうちに…)

思わぬアクシデントで戸田が怯んでいる内に、飛鳥はファイズギアとファイズフォンを取り戻しファイズギアを装着した。

「5 5 5  Standing By」

飛鳥:変身!

「Complete」


ファイズに変身した飛鳥が、戸田に不意打ちのキックをお見舞いする。

戸田:ぬごぉ!?

地面に転がされた戸田は、杖を召喚しその先端から黒い液状の塊を飛鳥に向かって飛ばす。

飛鳥:!?

飛んできた液状の塊の数々を飛鳥が避けると、草木や電柱に塊が付着し煙が上がった。


戸田:ファイズ、お前に倒された仲間たちの恨みを晴らす。

戸田は続けて杖から塊を飛ばし、飛鳥の動きを封じようとした。

飛鳥:ったく、んな気持ち悪いの飛ばして…

「1 0 3 Single Mode」

飛鳥はファイズフォンを銃の形にし、飛んでくる液状の塊に向かってファイズフォンから光弾を放ち打ち消す。


「1 0 6  Burst Mode」

(銃撃音)

戸田:くっ…!

ファイズフォンによる集中砲火を受け戸田は杖を落とす。その隙に戸田との間合いを一気に詰めた飛鳥は、フックを交互に戸田の顔面に浴びせ、怯んだところにストレートを放ち戸田を吹き飛ばす。


飛鳥はメモリを装填したファイズポインターを右足にセットし、ファイズフォンの「ENTERキー」を押す。

「Exceed Charge」

飛鳥は空高くジャンプして前宙し、ファイズの右足からポインタを出現させオルフェノクの戸田を捕捉した。

飛鳥:はぁあああああ!!

ファイズの必殺技「クリムゾンスマッシュ」を受けた戸田は、身体から青い炎を上げながら姿を消した。



啓太郎:凄いなぁ、飛鳥さんは。

啓太郎が飛鳥のことを讃えていると、ファイズの変身を解除した飛鳥がさくらと啓太郎のところへ歩み寄る。

飛鳥:さ、帰ろうか。

さくら:え…、帰るって?

飛鳥:決まっているじゃん、啓太郎君の家。

啓太郎:うん、怪物も倒したことだし。帰ろ、えんちゃん。

さくら:う、うん…



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ー都内 高層マンションー


夕方になり、美月の部屋のベランダで一人蹲っていたあやめの鼻に食欲をそそる匂いが入ってきた。涙を拭ったあやめは立ち上がり、部屋の中の食卓に向かう。

食卓に着いたあやめの目には、炊いたばかりの白米、味噌汁、そしてメンチカツと千切りしたキャベツののった皿が、二人分テーブルに用意されているのが映った。


美月:食べる?なんか、その冷蔵庫に入っていたものだけで作ったんだけどね。

美月が微笑みながら聞くと、あやめは少し頷いて椅子に座り箸を取ると、箸で掴んだメンチカツを口に頬張る。


あやめ:!…

その瞬間、あやめの目から涙が落ちてきた。

美月:あっ、ごめん!!美味しくなかった…かな??

美月が謝ると、あやめが顔を横に振った。


あやめ:いえ…美味しい…です。


そのまま、あやめは白米や味噌汁を食し、その度に目から垂れてくる涙の量が増えていく。

美月は一瞬、あやめが気を使って嘘をついているとも考えたが、野暮なことだと思い考えるのを止め、ただ美月の作った夕食を食べるあやめを、微笑みながら見守っていた。

美月:(これから、私たちがどうすれば良いのかは分からない…でも、せめて今は、あやめちゃんの居場所だけでも…)


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瑛紗:先輩、聞き込み終わりました!

麻衣:で、どうだった?

瑛紗:先輩の読み通り、ここ数年体育館で工事は一切行われていないとのことですよ。

麻衣:やっぱり、ってことは…

瑛紗:この壁は、誰かが勝手に塗り替えた。おそらく、何かを隠すために。

その時、瑛紗のスマホから着信音が鳴り響く。


瑛紗:はい、池田です。

電話のやりとりから、どうやら向こうの瑛紗の上司から指示を受けている感じだった。

瑛紗:すぐ向かいます。

瑛紗が電話を切ると、白石の方を向く。


瑛紗:白石先輩、私、署に戻ります。

麻衣:うん、ありがとね。気をつけて。

瑛紗が白石に一礼し、体育館から出て行く。その瑛紗のポケットから、紫色のアルファベットが書かれたメモリが少しはみ出て見えた…


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菊池クリーニング屋に帰ってきた飛鳥とさくら、啓太郎は3人での夕食を終えてリラックスしていた。

少しして飛鳥は、一人で外に出て自分のバイクに寄りかかり、空を見上げていた。

飛鳥:…

さくら:飛鳥さん。

そこへ、飛鳥を探して外に出てきたさくらが現れ、飛鳥がさくらの方を向く。

飛鳥:さく。


さくら:飛鳥さん、ここに居てくれるんですか?

飛鳥:居ちゃ、ダメ?

さくら:そんなことないです!すごく、嬉しいです。

さくらは首を横に振って、そう答えた。

さくら:でも、昨日は一緒に居るのが嫌だって言ってたから…私のこと嫌いになったんじゃないか、って…

さくらが顔を俯けていると、


飛鳥:違うの…

さくら:え?

飛鳥:さくのことは、嫌いじゃないよ。ただ、怖いの…

さくらと目を合わせるのを止めた飛鳥は、また空を見上げる。

さくら:怖い?どうして…

飛鳥:さくと、啓太郎くんと親しくなるのが…怖いの…

そう言うと、飛鳥は目を閉じ深呼吸し、そして再び口を動かす。


飛鳥:いつか、私が二人を裏切っちゃうんじゃないかって…それが怖いの…

さくら:そんな…どうして、そんなこと考えるんですか?


飛鳥:自信が無いの、自分に…

いつものように、少し冷た目な口調ではなく、不安げな口調になっていた飛鳥。

飛鳥:こんな私に、居場所なんて…



さくら:だったら…

さくらは飛鳥の手を握り、真剣な眼差しを飛鳥に向ける。

さくら:私と啓太郎が、飛鳥さんの居場所になります!!

飛鳥:さく…

さくら:それに…、飛鳥さんは、絶対に裏切ったりなんかしない。だって、こんな私を何度も助けてくれた、危険を顧みずに…私だけじゃない、啓太郎も。普段はちょっと冷たいけど、でも時々、すごく優しい。


そう言うさくらの顔は、満面の笑みになっていた。

さくら:だから、ずっと一緒にいてください!

そうさくらに言われた瞬間、

飛鳥:え…



飛鳥の目から、一粒の水滴が落ちてきた。

さくら:あ、飛鳥さん!?だ、大丈夫ですか!?

飛鳥:あ、うん…

自身の頰についた水滴を飛鳥が拭う。

さくら:ごめんなさい、なんか…

飛鳥:違うから、泣いてなんか…



少しまたムッとした表情になった飛鳥を、さくらが優しく抱く。

さくら:もう…意地なんか、張らないでください。

飛鳥:うぅ…さくのばか…

その言葉とは裏腹に、飛鳥はさくらからの抱擁と言葉に安らぎを感じ、我慢していた涙が、一気に洪水のごとく溢れ出した。

啓太郎:あ、二人ともー!お風呂湧いたよ〜


沸いた風呂に、飛鳥とさくらに先に入るよう啓太郎は言いに来た。

啓太郎:ほら、早くしないと風邪ひいちゃうよ〜!

飛鳥:ありがと〜!

涙を拭った飛鳥は、笑みを浮かべて啓太郎に礼を言う。

さくら:じゃ、戻りますか。

飛鳥は頷いて、さくらと一緒に菊池クリーニング屋に戻った。


5話 完















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