幼馴染と不気味な回廊に迷い込んだ話
去年の夏、ちょうど高校の部活から帰る時だった。
瑠奈:でさー、美緒ちゃんがね。
自転車を押しながら、幼馴染の瑠奈と他愛もない会話をしていた。
〇〇:へ〜、良いじゃんか。
瑠奈:良くない、良くない!
〇〇:なんで?
瑠奈:だってお揃にするならさ…
と会話の途中で、瑠奈が何かを凝視し始めた。
〇〇:ん?どした?
瑠奈:ねぇ、あそこ通っていかない?
瑠奈が指差す先には、狭い路地裏があった。
〇〇:へ?なんで?
瑠奈:なんか冒険できそうじゃん!
そのまま瑠奈に手を引かれ、路地裏に半ば強引に連れていかれた。
自転車を置いたまま…
〇〇:ねぇ瑠奈、もう戻ろうよ。
瑠奈:え〜、まだ良いじゃん!もうちょっと探検しようよ。
〇〇:迷子になったらどうするの?
瑠奈:大丈夫だって、〇〇は心配性だなー笑
瑠奈:来た道戻れば平気でしょ、目印になるもの覚えておいてさ。
結局諦めて、瑠奈とこの路地裏を進むことにした。
瑠奈:なんかさ、このレトロな雰囲気好きなんだよね〜
確かにこの路地裏を通ると、どこかの家の縁側や古い木造の家の壁が見え、まるで自分たちが生まれる前の時代の日本を彷彿とさせた。
〇〇:なんか、タイムスリップしたみたい。
瑠奈:でしょ?
〇〇:うん。
暫く進むと、袋小路の先に祠らしきものがあった。
瑠奈:祠?
瑠奈:なんでこんなところに…
その祠は扉がついていて、何かが入っているのだろうか?
〇〇:なんだろう…
瑠奈:開けてみる?
〇〇:うん。
気になってその扉を開くと、中に鏡が置かれていた。
〇〇:鏡?
その鏡に触れた瞬間…
鏡から光が放たれ、眩しくて目を閉じた。
〇〇:わっ!?
瑠奈:な、何これ!?
そのまま、自分たちの意識が遠のくのを感じた…
気がつくとさっきまでいた路地裏ではなく、どこまでも暗闇が続く空間にいた…
〇〇:(なんだ、ここは…)
〇〇:(さっきの祠にあった鏡に触って…)
〇〇:⁉️
周囲に瑠奈がいないことに気付き、大声で叫ぶ。
〇〇:瑠奈ー❗️
その瞬間、近くで灯りがつき始めて自身が廊下にいることが判明した。
〇〇:建物の、中?
それも、日本の昔話に出てくるような寺院の中の木造の廊下だった。
シャンッ
〇〇:!
鈴が鳴る音が突然聞こえ、驚いて背中がビクついた。
〇〇:誰か、いるのか…?
音は少しずつこちらに近づいているようだった。
その音の方へ進もうとした瞬間、
?:そっちへ行っては駄目!
?:逃げて。
頭の中に語りかけるような声が聞こえてきた。
〇〇:え?
?:音のする方と反対の道を進んで。
声は僕を誘導するように語り続ける。
〇〇:こ、こっちか。
状況が飲み込めないまま、声の言われるがままに道を進む。
〇〇:あの扉に向かえば良いんだな!
そう思って走ろうとした瞬間に、頭に強烈なノイズが走った。
〇〇:うっ⁉️
頭を抑えていると、先程聞こえた鈴の音が背後で激しく鳴っていた。
振り返ると、奥から能面を被った着物を着た者が目を赤くして迫ってきていた…
〇〇:(な、なんだアイツ⁉️)
迫りくる能面の者に気を取られていると、今度は目の前に光の柱が出現した。
?:はっ!
その柱から放たれた光は能面の者に直撃し、
能面は倒れた。
?:油断しないで、少し動きを封じただけだから。
するとさっきの声が聞こえて、次の瞬間、
目の前に赤い着物を着た女の子が立っていた。
?:私の名前は、和。
〇〇:ええっと…さっきの声は君?
和:ええ。これを。
和と名乗る、猫の耳をした少女に鍵らしきものを渡された。
和:それで、あの部屋を開けて。そしたら、中にある鏡に触れて。
〇〇:あの、ここは一体…
和:あとで、説明する!
和:先に行って、早く!
真っ直ぐな眼差しで、そう言われた。
〇〇:わ、分かった!
扉までダッシュし、鍵を使って開けると鍵が壊れてしまった。
〇〇:あの鏡か。
和に言われた通り、部屋の真ん中に置かれた鏡に触れると、そのまま鏡の中に吸い込まれた…
〇〇:へ、う、うわぁあああ!?
瑠奈:…
瑠奈:どこ、ここは?
目を覚ますと、暗闇の中にいた。けど床の感触から、畳の上にいることが分かった。
瑠奈:!
瑠奈:〇〇ー!
幼馴染の〇〇の名を叫ぶも、反応は無かった。
瑠奈:〇〇、どこなの…
その直後、どこからか悍ましい叫び声と共に走り抜けていく音が聞こえてきた。
瑠奈:⁉️
咄嗟に物陰に隠れた。
その叫び声と足音は、どんどんこちらに近づいてきた。
恐怖のあまり声が出そうになるのを、手で口を押さえることでなんとか防ごうとした。
部屋の障子を破壊する音が聞こえた。
瑠奈:(やばい、来る!)
しかし、やがてその足音と叫び声が遠のいていく。
瑠奈:(い、いなくなった?)
物陰から出てくると、畳の上に無惨に破壊された障子が落ちていた。
瑠奈:(ここから、出なきゃ…)
そう思いながらも、どこへ行けば良いかわからないまま部屋を出ていく。
スマホのライトを付けると、どこまで続くのか分からない木造の廊下があった。
瑠奈:〇〇、どこなの…
不安と恐怖に押し潰されそうになりながら、廊下を進んでいった。
暗闇を進んでいくと、
シャンッ
鈴の音がした。
瑠奈:〇〇?
音の先に〇〇がいる。
そう思って私は進んだ。
しかし…
瑠奈:❗️違う…
赤い目を光らせた能面を被った者が、私を見つけて走り出してきた。
瑠奈:(何あの目は⁉️)
必死に逃げても、どんどん迫ってきた。しまいにはこっちの体力が切れて、向こうとの距離が縮まっていく。
瑠奈:(追いつかれる⁉️)
〇〇:瑠奈ー!
瑠奈:え?
〇〇:伏せて❗️
言われるがままに床に伏せると、
〇〇:喰らえー!
〇〇が首から下げた勾玉のようなものから緑の光が飛ばされ、能面の者に直撃した。
〇〇:瑠奈、こっちだ!
瑠奈:う、うん!
〇〇に手を引かれ、そのままついていく。
瑠奈:無事で良かった、〇〇が。
〇〇:ああ。
〇〇:早くここから脱出しよう。
瑠奈:でもどうやって?
〇〇:この回廊のどこかに祭壇があるらしい。そこに辿り着いて、この勾玉を祭壇にはめれば
出口が出現する。元の世界に戻れる出口が。
瑠奈:わ、分かった!
〇〇と一緒になれて、漸く安心した。
〜少し前〜
和:この回廊のどこかにある祭壇を見つけて、これをはめて。
和から渡されたのは、勾玉がついた首飾りだった。
〇〇:これを?
和:そうしたら、あなたたちがいた元の生者の世界に帰られる出口が現れるから。
〇〇:元の生者の世界…
和:ここはね、生と死の狭間の世界なの。
和:そして、この場所は誰が何のために作ったか分からない恐ろしい徘徊者たちが集う回廊。
〇〇:徘徊者?
和:さっき、君を襲おうとした鈴を鳴らしていたのも、そのうちの一体。
和:他にも、徘徊者はいるの。
やはりここは異世界だった。それも、こちらを襲ってくる徘徊者と呼ばれる者たちが巣食う…
〇〇:ねぇ、さっきあなたたちって言ったよね?もしかして。
和:ええ、あなたが一緒にいた子もいるわ。この回廊に。
和:でもだいぶ奥の方で、私じゃ見つけられないの。
和:でも、その子と強い繋がりを持つあなたならきっと見つけられる。
〇〇:繋がり。
和:このコンパスは、あなたと繋がりを持つものの在処を指してくれる。
和からコンパスをもらい、
〇〇:瑠奈…
瑠奈のことを思った。
すると、コンパスの針が動き出した。
〇〇:❗️
和:あとは、頑張って。
そう言い残して、和は光の柱に消えた。
〇〇:(絶対、ここから瑠奈と一緒に出よう!)
祭壇に辿り着くまでに、様々なものが襲いかかってきた。
長い手足が沢山生えた黒い化け物に、先程の能面より遥かに高速で追いかけられたり…
曲がり角で、巨大な蜘蛛の姿をした足音が一切しない化け物に鉢合わせしたり…
〇〇:いけー!
勾玉の力を借りて、その徘徊者たちを追い払いながら、この暗黒の回廊を進んでいった。
そして、
瑠奈:〇〇、あれ!
瑠奈が指差す先に、祭壇が見えた。
〇〇:きっとあれだ!
急いで祭壇に駆け込み、勾玉をはめた。
祭壇が緑色に光出し、その祭壇から光によって形成された扉が現れた。
〇〇:行こう。
瑠奈:うん。
出口に2人で足を踏み入れると、また意識が遠のいていった。
気がつくと、もといた路地裏に2人とも帰ってきていた。
〇〇:あ…
瑠奈:うぅ…〇〇ー!
泣きながら瑠奈が抱きついてきた。
瑠奈:良かった…戻って来れて。
〇〇:うん。
瑠奈:私、あの場所に閉じ込められて2度と〇〇に会えないかと思った。
〇〇:僕も怖かった、瑠奈に2度と会えないんじゃないかって…
瑠奈:もう、帰ろっか。
〇〇:そうだね…
路地裏から出て自分の自転車を見つけ、それから瑠奈と一緒に帰り道を歩いていった。
あの場所は一体なんだったのか?
生と死の狭間の世界…
誰が何のために作ったのか分からない、
不気味な回廊…
その回廊に存在する忌まわしき徘徊者たち…
そして何より、あの和という少女…
謎は残ったままだった…
fin?
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