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「好きなことは止められない」 2話


僕の名前は、内田〇〇。

僕が県立の乃木高校の絵画部の部長になってから5ヶ月が経った。

この絵画部、実は今年になって出来たばかりだが、きっかけは今絵画部の副部長の彼女と出会ったことだ。





あの日、この乃木高校に入学して間もない時だった。

その日の朝、学校の廊下を歩いていると後ろで誰かとぶつかったのだ。

振り返ると女の子が転んでいたので、声をかけて手を貸した。


〇〇:立てる?

?:え、ええ。


顔を見た瞬間、その美しさに見惚れてしまった。


その子の足元に眼鏡が転がっていたのを見つけた僕は、その眼鏡を彼女に返して教室に戻った。





教室に戻った僕を見て、この高校で出来た友だちの剛が声をかけてきた。

剛:よ〜、〇〇。

〇〇:剛、おはよう。

剛:〇〇、なんか楽しそうだな?

〇〇:へ?なんでそう思う?

剛:そりゃ〜、ニコニコしながら教室入ってくるのを見たら、誰でも思うぞ。

〇〇:う、うそ…

剛:な、何か良いことあったのか?

〇〇:いや、実はさっき…


と剛と話してると、教室にさっき廊下で会った子が友だちと一緒に入ってくるのが見えた。

その時は、まさか彼女が僕と同じクラスの子だとは知らなかったので、びっくりして思わず目を逸らした。

剛:ん?もしかして、あの子と?

〇〇:い、言わないで…

剛:なるほどね〜笑

〇〇:何がなるほどだよ…

剛は僕が明らかに彼女に対して意識してることを知ると、悪戯っ子みたいな顔をしていた。




剛:へ〜、あの子と廊下でぶつかって転んでいたあの子の手を握って、んでその美貌に惚れちまったってことね?

〇〇:ちょっ、声大きい剛!

昼飯に食堂で剛と食べていた俺は、剛からしつこく聞かれた。

剛:これって、運命かもしれないな。

〇〇:運命って、よくそんな恥ずかしがらずに言えるね…

剛:いやマジでさ、この際だからあの子と仲良くなれば良いじゃん。

〇〇:な、それは良いかもだけど…

剛:んで、そのまま付き合ってさ。

〇〇:ぶほぉ⁉️

飲んでいた水で咽せてしまった。


剛:おい、大丈夫か〇〇?笑笑

〇〇:げほっ、げほっ…

剛:そんな動揺すんなって笑

止めろ、陸で溺れ死にさせる気か⁉️

と、その時は思った。


〇〇:剛、頼むから変なこと言うのやめてよ。

剛:まぁ、そうかっかせずに。とりあえず今日の放課後とかに話しかけてみろよ。

剛の提案というのが少々癪に障るが、とはいえその子とまた話してみたいという気持ちはあったし、普通に友だちにはなりたいと思っていた。




そして、その日の授業が終わったあと、僕は朝ぶつかった子の席に向かった。

帰る支度をしていた彼女に横から声をかけた。

〇〇:怪我…してない?

?:!

いきなり怪我のことを彼女に聞いてしまい、慌てて聞き直した。

〇〇:ああ、覚えてない?今日朝にぶつかった…



?:お、覚えてますよ。大丈夫です。

その時彼女は眼鏡をかけていたが、それもまた魅力的に見えた。

〇〇:良かった、俺内田〇〇って言うんだ。よろしくね。

?:い、池田瑛紗です!じゃ、じゃあまた!!

〇〇:あっ、じゃあ…

そのまま、瑛紗は顔を隠しながら教室を出ていった。


やばい、やっちまったか…


その時ばかりは、そうしか思えなかった。




それから、一緒に帰ると約束した剛のもとに合流した。


剛:お、〇〇。で、どうだった?

〇〇:逃げられちゃった。

剛:へ?逃げられたって…お前、何か変なこと聞いてないよな?

〇〇:聞いてないよ。

剛:本当だよな?

〇〇:うん。だから、多分…


剛:な、何池田さんと話した?

〇〇:な、何って…朝ぶつかって怪我してないかとか聞いて、池田さんが大丈夫って答えて、それからお互い名前名乗って…それで池田さんがいなくなって…

剛:な、なるほどな…じゃあ、まだ分からないな。

〇〇:分からないって、どういうことだよ?

剛:まだワンチャンあるかもしれない。

〇〇:ワンチャンって…

剛:池田さん、〇〇のこと好きかもな。ただ、しばらくはこっちからは声かけない方が良いかもな。もしかしたら、逆のパターンもあるし。それに、しつこいと思われたらマズいからな。

大抵はふざけて話すことが多い剛は、何故かこういう時は真剣に話をしてくるので、逆に信用できた。

〇〇:わ、わかった…




そして次の日の朝。


心配し過ぎて腹が痛くなりながら、登校していた。


〇〇:(どうしよう、昨日急に話しかけて池田さんに警戒されてないかな…)

初めて会った時はウキウキした気分だったのが、一瞬にして不安の種になるとは…

剛に勧められたとはいえ、結局は自分が納得してやったことなので、剛を責める気は微塵もなかった。


教室に入ってすぐ自分の席につくと、後から剛がやって来た。

剛:おっす、〇〇。

〇〇:やぉ…

剛:大丈夫、じゃなさそうだな…

〇〇:うぅん…

剛:とりあえず、我慢な。今は。

〇〇:ん…

そのまま机に顔を伏せて、HRの時間を待つことにした。

〇〇:(はぁ〜、何事もなく今日は終わってくれ…)

などと願いながら…







「内田くん?」


誰かに声をかけられて、咄嗟に上半身を机から起こした。

〇〇:⁉️


見ると、横に瑛紗がいた。

瑛紗:ごめんなさい、寝てたのに起こしちゃって…

〇〇:ああ、ううん。全然!

瑛紗:具合、悪いですか?

〇〇:いや、そんなことないよ。元気、元気。

瑛紗:良かったです。

なんて優しい子なんだ。

あれ?眼鏡かけてないのか、今日は。

などと思っていると、

瑛紗:昨日、急にいなくなったりしてごめんなさい。

〇〇:えっ、いいや…そんな全然!こっちこそ昨日急に話しかけたりしてごめんね、池田さん。

瑛紗:いいえ、あの時、ちょっと嬉しかったんです。

え?

聞き間違いでないことを一瞬祈っていた。

瑛紗:だから、その…友だちに、なってくれませんか?


それを聞いた瞬間、地獄な心地だったのが一瞬にして吹き飛んだ。


〇〇:も、勿論だよ!

瑛紗:よ、良かったです!よろしくお願いします、内田くん。

〇〇:うん、よろしくね。池田さん。

瑛紗:はい。あ、あの…一つまたお願いしても良いですか?

〇〇:ああ、うん。

瑛紗:その、所謂タメ口でも…良いですか?

〇〇:勿論だよ。それじゃ、ついでにお互い名前で呼ぼうよ。

瑛紗:え?

あっ、ヤバッ…馴れ馴れしかったか…💦

瑛紗:い、良いんですか?

〇〇:う、うん。嫌じゃなければ…


瑛紗:じゃ、〇〇くん…よろしくね。

〇〇:うん、よろしくね瑛紗ちゃん。


初めて瑛紗と友だちになった日だった。



午前中の授業が終わり、昼飯を食べに剛と一緒に食堂に行こうとした。

剛:折角なら、今日池田さん誘えよ。

〇〇:え、いやでも…

剛:俺なら大丈夫だから、な。

そう言って、剛は他のクラスメートのところに行った。


〇〇:(さて、なんて声をかけようか…)

瑛紗になんて言って誘おうかと考えながら、身体の向きを変えた。


〇〇・瑛紗:わっ!?

本当に偶々、瑛紗がすぐ目の前に立っていた。

瑛紗:ご、ごめん!驚かすつもりじゃなかったの。

〇〇:ああ、全然。あのさ、良かったら一緒に食堂で食べない?

瑛紗:うん、丁度私も〇〇くんに一緒にお昼食べようって誘おうと思ってたんだ。

〇〇:そっか、良かった!

瑛紗からそう言ってもらえて素直に嬉しかった。

そのままの成り行きで、僕は瑛紗と一緒に食堂に向かった。




食堂で僕はうどんを、瑛紗はそばを頼んだ。

それから食堂のテーブルに向かい合わせで座って食べ始めた。


〇〇:そば、美味しい?

瑛紗:うん、美味しい。

〇〇:そっか。

・・・

瑛紗:うどん、美味しい?

〇〇:うん、美味しいよ。

瑛紗:そっか。

・・・


多分、その時はお互い何を話したら良いのか分からなくて、そんなぎこちない会話になってしまったんだろう。


けど何か話ししないとと思って、


〇〇・瑛紗:あの!


二人とも同時に話しかけてハモった。


〇〇:お、お先にどうぞ…

瑛紗:じゃ、じゃあ…〇〇くんの趣味って?

〇〇:ああ、趣味ね…

正直に答えて、幻滅されないか不安になって躊躇してしまった。

とはいえ何も思いつかなくて、結局正直に答えた。


〇〇:絵、描くことかな…

瑛紗:ほ、本当に?私も、絵描くの大好きだよ!

〇〇:ぼ、僕は風景が描くのが好きなんだけど…瑛紗ちゃんは?

瑛紗:私も風景だよ!雲がかかった空とかをね。すごい偶然だね!

〇〇:ほ、本当…偶然だね。

瑛紗:でも、絵の知識とかは全然ないんだよね。

〇〇:僕もだよ。中学の時友だちになんか、歴史上の有名な画家のこととか聞かれたことあるけど答えられなかったことあってさ。

瑛紗:だよね。私も中学の時、クラスの子に〇〇くんのと似たようなこと聞かれてね。


思ったり話が弾んだことにびっくりしたし、瑛紗と趣味が一緒だというのが凄く胸を躍らせた。


瑛紗:あ、いけない!

〇〇:え?

瑛紗:午後の授業に遅刻しちゃうよ!

〇〇:うわぁ、それは急がないと!!


それくらい、瑛紗と夢中になって喋っていたらしい。


〇〇:はぁ〜、間に合ったね。

瑛紗:ほんとに危なかったね。

なんて言いながらも、二人して笑みがこぼれていた。




そして、今日の授業が終わり帰りの支度をしていると、



瑛紗:また、明日ね〇〇くん。


笑いながら、瑛紗が手を振って去っていくのを僕も手を振って返す。


なんて日だ!


学校から帰って家に着いたとき、物凄くそう思った。

自分の部屋に着いてから、手さげ袋にスケッチブックと描くものだけを入れて、制服のまま僕は家を飛び出した。


そして、いつもお気に入りの絵を描く場所に向かった。




そこは近くに川が流れている野原で、川岸から少し離れたところに木が一本生えていた。


嬉しかったり、悲しかったり、そういった時にその木の根元に座って絵を描くのが好きだった。


今日は勿論、嬉しさで胸がいっぱいになったからここに来た。


風が自然の透き通った空気を鼻に運んできた。

僕はそれを噛み締めて、スケッチブックをカバンから取り出した。


その時、


サッ サッ


足音が聞こえ、その方向へ向くと、


〇〇・瑛紗:あっ!


二人ともスケッチブックを片手に、互いを見つめていた。


2話 完



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