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「カフェ店員の僕と常連さんの小坂さんは両思い」

僕の名前は、五十嵐〇〇。

今日は大学が休みで、バイト先に向かっていた。

バイト先に着き、先にいた先輩の佐々木美玲さんと挨拶をかわす。

〇〇:おはようございます、佐々木さん。


美玲:あ、おはよう。〇〇くん。

制服に着替えて店内の準備を済ませると、店の開店時間になり、店の外にかけてあった看板を動かして、表示を「閉店中」から「営業中」にした。

〇〇:さて、今日も頑張りますか。

僕は、駅近にあるカフェで働いていた。



元々人と話すのは苦手だったけど、そんな自分を変えたくて、このカフェでバイト募集をしている広告を見て面接に応募し、なんとか採用してもらえた。

そして、その僕の面接を担当してくれた人が佐々木さんだった。

〇〇:そろそろ、お客さん来ますね。

美玲:そうだね。



そして、店の自動ドアが開きサラリーマンやOLたちが次々と店に入ってきた。

美玲・〇〇:いらっしゃいませ〜



ここでのバイトを初めて1日目のときは、こんな挨拶すらままならなかったけど、佐々木さんのおかげで、今は接客の方はだいぶ様になったと我ながら思っている。


〇〇:お待たせしました、お持ち帰りでカフェラテLサイズです。

客:おぁ、ありがとうね。また来るよ、頑張ってね。

〇〇:ありがとうございます、またお越しくださいませ。


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1時間後


時計を見て、「そろそろ来るかな…」と思っていた。

(自動ドアの開く音)

菜緒:おはようございます、〇〇さん。

〇〇:おはようございます、小坂さん。


小坂菜緒さん。

いつもこの時間になると来てくれる常連さんで、僕が密かに好意を抱いている人だ…


〇〇:今日はどうしますか?

菜緒:あ、いつものBLTサンドイッチとコーヒーでお願いします。

〇〇:かしこまりました、店内で召し上がりますか?

菜緒:はい。


注文通り、ベーコンとレタスとトマトを指定されたサイズにカットして焼いたパンに挟んだサンドイッチと、コーヒーを用意して小坂さんに差し出す。

〇〇:お待たせしました。

菜緒:いつもありがとうございます。〇〇さんの作ったサンドイッチを食べたら、いつも元気になれます。

急に胸がざわついた。いつもなら、ただ「ありがとうございます」ってしか言わないのに、今日はなんか一言くれた…

〇〇:そ、そうでしたか。ありがとうございます。

小坂さんは、そのままテーブル席の方へ向かっていく。


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美玲:お、菜緒ちゃん来てるでしょ?

裏の事務室で発注をしていた佐々木さんがレジに戻ってくるや、ニヤニヤした顔をしていた。

〇〇:はい、来てますね。

美玲:会話、ちょっと聞こえたよ。菜緒ちゃん、〇〇くんのこと褒めてたでしょ?

〇〇:えっ、あ、まぁ〜そうです…

美玲:好きな人に褒めて貰えるの嬉しいよね〜♪

ギクッ!?

〇〇:ちょっ、佐々木さん!?何言っているんですか!?別にそんなんじゃ…

急に恥ずかしさを感じてしまった…

佐々木:え?違うの?

〇〇:いや、違うとかそうじゃな…

僕が慌てふためいていると、

菜緒:ご馳走様です。

と小坂さんが皿を返却口に置いていた。

〇〇:あ、ありがとうございます!💦

美玲:やっほー、菜緒ちゃん。

菜緒:あ、美玲さん。おはようございます。

美玲:今日も来てくれてありがとうね!

菜緒:はい、また来ますね。

そう言って小坂さんが笑顔で僕と佐々木さんに向かって手を振って去っていく。


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美玲:今度菜緒ちゃんが来たら、連絡先くらい交換したら?

ガシャンッ

そんなことを言われた僕は、洗っていた皿を落としてしまう。幸い洗い場の中で割らずに済んだが、

〇〇:いや、そんなの出来ませんよ!!

と僕はまた、慌てふためいてしまう。

美玲:なんでよ?大丈夫だって〜

〇〇:だ、だってただの店員が急に客と連絡先を交換だなんて…

美玲:良いじゃん、2人ともそれなりに知り合っているんだし。

〇〇:でも、もし小坂さんに彼氏がいたら…

口ではそう言っていたけど、本心ではどこかで
そうであって欲しくないって思っていたのかもしれない…

美玲:んまぁ…そうかもしれないけど、でも
やってみないと分かんないよ。ほら、恋は当たった砕けろってやつだよ。

〇〇:ええ、でも…


美玲:よし、とりあえず次会ったら、〇〇くんの連絡先を菜緒ちゃんに教えてみなよ。あ、これ約束ね。破ったらシフト増やしちゃおっかな〜笑

〇〇:ちょっ、そんな無茶な…

なんかよく分からない感じになっているが…

と思いながらも、そのまま接客をしていた。


でも、確かにこのまま何もしないのも、それはそれで勿体無い気はした。

〇〇:(ああ、ダメだ…小坂さんのこと考えていたら集中できない…)

と自ら気持ちを自制して、なんとか平静を保っていた。

〇〇:(けど、もし小坂さんとデートとか出来たらな〜…あんな綺麗で優しい人と…)

なんて、淡い期待を抱いたりするのは止められなかった。


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菜緒:(はぁ〜、カッコいいな…〇〇さん。)

アニメ関連のグッズの専門店でバイトをしていた私は、いつも通っているカフェで働いている〇〇さんのことを浮かべていた。

菜緒:(あんなお洒落な制服着て、美味しいサンドイッチを私に作ってくれて…しかも、笑顔が素敵で優しいし…)

美玖:菜緒、どーしたの?ボーっとしてさ。

一緒に働いていた美玖に背後から声をかけられ、背中がビクッとした。


菜緒:な、なんでもないよ!べ、別に…


美玖:そんな分かりやすいウソついちゃって〜
もしかして、カフェの好きな人のこと考えていた?

菜緒:ギクッ⁉️

美玖:図星かいな。

美玖に呆れた顔をされた。

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美玖:そんなに〇〇さんのこと好きなら、デートに誘えば良いじゃん。

菜緒:な、何言っているの美玖⁉️

美玖:だって、そんないつまで気持ちの中にしまって置いたら勿体無いよ。向こうもOKしてくれるかもしれないじゃん?

菜緒:そ、そんないきなり言われても…

美玖:まずはお互いの気持ちを知ることからだよ、菜緒。

菜緒:でも、どうやって誘うの?

美玖:その、〇〇さんのシフトが終わる時間とか聞いてないの?

あっ、そういえば…

と私は記憶を探って思い出した。

「いつも、1日どれくらい働いているんですか?」
「え、そうですね。いつも朝7時から午後3時までですね。」


菜緒:私と同じ時間だ…多分、今日も…

美玖:じゃあ、今日早めに菜緒があがれるように私が店長に言っておくよ!

菜緒:いや、悪いよそれは…

美玖:大丈夫だって!30分くらい早めれば、〇〇さんのシフト終わりに間に合う?

菜緒:あ、うん…

〇〇さんの働いているカフェからここまで移動時間は20分だから、30分あれば余裕はできる。

美玖:じゃあ、そゆことで!

菜緒:あ…

そのまま、美玖は自分の担当コーナーへ戻っていく。


もう、そこまでしなくても良いのに…

と思う反面、〇〇さんと会う機会を作ってくれたことに、正直感謝はしていた。


そして、美玖の計らいで私は店を予定より早く出た。

菜緒:(でも、もし〇〇さんに彼女さんいたらどうしよう…)

それか、一緒に働いている美玲さんのことが好きかもしれない…

美玲さん、凄く綺麗だもん…

菜緒:でも、美玖がしてくれたことを無駄には出来ない。

腹を決めた私は、〇〇さんのいるカフェに向かった。


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シフトの終わりの時間まで、あと5分になっていた。

美玲:〇〇くん、そろそろあがって良いよ!

〇〇:あ〜、了解です。

僕は佐々木さんに一礼すると、裏方の更衣室で着替えた。

〇〇:お疲れ様です、佐々木さん。

美玲:うん、お疲れ様。

店の裏口から出て、僕は狭い路地を通り抜けていく。何を思ったのか、僕は前に小坂さんに教えてもらった、小坂さんが働いているというアニメ関連のグッズ専門店に向かおうとした。

〇〇:(いるかな、小坂さん…)

そんなことを思いながら表通りに出て、店の入り口がある方の角を左に曲がった。




菜緒:あっ…

〇〇:あっ…

お互いびっくりし過ぎて、声が出なかった。

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〇〇:小坂さん、バイト終わってたんですね。

菜緒:ああ、ええ…まぁ…そうですね。

〇〇:実は、今から小坂さんが働いているところに行こうとしてたところだったんです。

菜緒:えっ、そ、そうんなんですか?

〇〇:はい、前に小坂さんがアニメ好きで働いているところって聞いて、ちょっと気になってたので。

って言うのは建前で…と僕は思いながら言った。

菜緒:そう言えば…そんな話しましたね…

〇〇:まさか、ここでまた会えるとは思ってませんでした。

菜緒:じ、実は私も…〇〇さんに会おうと思っていて。前にこの時間でシフト終わるって言っていたから、会えるかなって…あっ…

え?

小坂さんが僕に会おうとしてくれてた??

もしや…

などとちょっと自惚れかけていたのを我慢した。

〇〇:ああ、そうだったんですね!

そう応えて小坂さんの顔を見ると、若干赤い気がした。


菜緒:あ、あの!!

〇〇:は、はい??

菜緒:よかったら、今からご飯食べませんか?

ご、ご飯??

ま、まぁ…それくらい普通か…

取り敢えず自分を落ち着けさせて、小坂さんの誘いの返事をした。

○○:も、もちろん行きましょう!ちょうどお腹空いていたので。

菜緒:なら良かったです。あの、私の行きつけの焼き鳥屋さんなんですが…

〇〇:焼き鳥ですか!?僕、大好きです!!

色々想定外だったけど、僕は小坂さんと焼き鳥屋さんに向かうことになった。

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私は、心の中でホッとしていた。

取り敢えず〇〇さんと会うことが出来たし、デートは勿論無理だったけど何とかしてご飯には誘えた。


店に着いて席に座り、お互いに注文を済ませてから〇〇さんと好きなアニメの話なんかをしていた。

〇〇:めっちゃ分かります!あそこのシーン、僕も大好きで毎回観ると泣いちゃいます!!!

菜緒:ですよね!!もう、二人が尊すぎて!!

などと、ひたすら盛り上がっていた。


少しして、店員さんが私たちの席に頼んだ焼き鳥を運んできてくれたので、早速食べた。

〇〇:んお!すっごい美味しいです!!!

菜緒:ですよね。ここの鶏肉、鹿児島産らしくて!!

〇〇:なるほど!!なんか、肉が上質な感じが食べてて伝わって来ます!!

菜緒:そうなんです!!

〇〇:それに、タレとかもちょうど良い味で!!

菜緒:もう、ほんとそう通りなんです!!!


と〇〇さんと焼き鳥を絶賛しながら、またアニメの話を始めた。


何だろう、なんて楽しい時間なんだ…

別におしゃれな店とかでディナーではないけど、それが逆に良い!!


ただ大好きな焼き鳥を頬張って、大好きなアニメの話をしているのだ、

それも好きな人と…

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すごく美味しかったな〜

と、小坂さん行きつけの焼き鳥屋さんの方をちょっとだけ振り返って、それから僕は小坂さんと夜道を歩いていた。

それに、すごく楽しかった。

同じ趣味を、今までずっと好きだった人と話せるのって、こんなにも楽しいんだと初めて思った。


しばらくすると、僕たちは人気の無い公園に着いていた。

〇〇:小坂さん、今日本当にありがとうございます。すごく楽しかったです。

菜緒:私もです、〇〇さん。

〇〇:また、どこか一緒に食べに行きたいですね。

菜緒:そうですね!また、どこかに…

と言いかけた小坂さんの目の色が、急に変わっていた。


?:菜緒、誰だよその男?

え、この人…小坂さんの知り合い??

声をかけてきた男の人の方から小坂さんの方に視線を移すと、小坂さんが怯えていた。

菜緒:もう関わらないで、って言ったじゃん…

?:なんでだよ…俺はお前のことを…

菜緒:私のこと、ヲタクでキモいって言ってたじゃん!

?:違うって誤解だよ…俺は…

そう言う男の人の目は泳いでいた。

菜緒:違くないよ!美玖から聞いたもん!!

?:なぁ、頼むよ!俺にはお前しかいないんだ…


そして男の人が小坂さんに接近して、小坂さんの両腕を掴んできた。

菜緒:いや…離して!!

?:お願いだ、付き合ってくれ!

ガシッ

?:あ?

〇〇:離してあげてください。

男の人が僕に腕を掴まれ気をとられている隙に、小坂さんは自力で男の人の拘束から抜け出した。


?:お前には、関係ないだろうが!!

(殴られる音)

〇〇:!!??

右頬にパンチを食らい、僕は唇を切って地面に倒れてしまった。

菜緒:!〇〇さん!!!

涙を浮かべながら、小坂さんが僕のもとに駆け寄る。

菜緒:大丈夫ですか!?

〇〇:へ、平気ですよ…大したこと…

頬についた血を手で拭って、僕は立ち上がった。

菜緒:酷いよ!〇〇さんを殴るなんて!!

?:なっ…ああ、ムカつくぜ!!!!


冷静さを失った男の人が拳を握り締めて振り翳す。

?:おらぁああああ!!!

菜緒:きゃ!!!

ガシッ



?:!

〇〇:その手、退けてくれませんかね?

パンチを止められて、男の人は狼狽えていた。

?:な…くっ…!!

〇〇:退けないなら…

(殴る音)

?:がはぁ!

男の人は先ほどの僕と同じように、唇を切って地面に転がされていた。

?:クソぉおおおお!!!

男の人は即座に僕と小坂さんのもとから去っていった。


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男が去り、〇〇と菜緒だけになったこの場は再び静かになった。

菜緒:ごめんなさい、〇〇さん。私のせいで…

菜緒は泣きながら〇〇に頭を下げていた。

〇〇:そんな、気にしないでくださいよ…小坂さんは何も悪くないですし。

菜緒:でも、そんな怪我して…

〇〇はそっと菜緒の手を握った。

〇〇:それに、少しはカッコつけさせてくださいよ。あのシーンみたいに…

菜緒:〇〇さん…

それから〇〇は菜緒に微笑みかけた。それを見た菜緒も涙を手で拭うと、同じように微笑み返した。



〇〇:小坂さん。

〇〇は菜緒の正面に立った。

菜緒:はい。

〇〇:ずっと、言いたかったことがあるんです…

菜緒は、真剣な表情で〇〇の話を聞いていた。

〇〇:初めて会った時から…その…

一瞬、呼吸を整えてから〇〇は再び口を開いた。




〇〇:小坂さんのことが好きでした!!

その時、〇〇の手を菜緒がソッと手を握っていた。

そして、〇〇の目を真っ直ぐに見つめて菜緒が言った。



菜緒:私もです!!初めて〇〇さんと会った時から…好きでした!!

〇〇:小坂さん…

菜緒:だから、約束してください!これからは…名前で呼んでください!

〇〇:…分かりました、菜緒さん!

初めて〇〇が菜緒を名前で呼ぶと、菜緒は〇〇に抱きついた。

菜緒:ありがとう、〇〇さん…



そのあと、〇〇と菜緒は公園のベンチに座っていた。

菜緒:〇〇さん。

〇〇:どうかしました?

菜緒:あと…出来れば…、タメで話したいです。

〇〇:…分かった、菜緒。良かったらさ…

菜緒:?

〇〇はスマホの画面を菜緒に見せた。

〇〇:今度、一緒にこのイベント行かない?

その画面には、二人が好きなアニメのイベントのサイトが表示されていた。

菜緒:うん、行こ。〇〇!


菜緒が〇〇の肩に、顔を乗せて来た。

〇〇:ちょっと、くすぐったいよ笑

菜緒:だって、好きなんだもん。〇〇のこと。

〇〇:僕も好きだよ、菜緒のことが。

二人で、クシャっとした笑みをこぼして寄り添っていた。


fin.

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