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ダニエル・デッドワイラーのアカデミー賞落選と"多様性"の現在/映画『ティル』#試写

 昨年ニューヨーク映画祭でプレミア公開('22/10/1)されると大絶賛され、無名と言っていい知名度ながら、アカデミー賞主演女優賞のトップコンデンターに躍り出た「ダニエル・デッドワイラー」。

 彼女を時のひとにした作品が「エメット・ティル事件」を題材にした映画『ティル』です。

世界は変わっていない

 日本では公民権運動というと、マーチン・ルーサー・キングやローザ・パークスが著名かと思いますが、そのきっかけとなったと言われている少年が「エメット・ティル」です。

 とにかくダニエル・デッドワイラーの評判がすごかったもんですから、そのあらすじはしっかり頭に入っていましたが、この事件の詳細についてはほとんど知りませんでした。

 ローザ・パークスは、あの「バスの席を譲ることを拒否する」という決断をしたとき、彼のことが頭にあったそうです。

 彼が亡くなってから、70年近く経ったいま世界が変わったかというと正直まったく変わっていないと思っています。

ダニエル・デッドワイラーのオスカー落選

 世界が変わってない理由のひとつとして「白すぎるオスカー」問題があります。
 昨年の主要部門の受賞者と候補者を見てみましょう。

▼監督賞(83%)
【白人(アメリカ)】トッド・フィールド『TAR ター』
【アジア系アメリカ人】ダン・クワン、【白人(アメリカ)】ダニエル・シャイナート『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
【白人(イギリス)】マーティン・マクドノー『イニシェリン島の精霊』
【白人(スウェーデン)】リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』
【白人(アメリカ)】スティーヴン・スピルバーグ『フェイブルマンズ』

▼主演男優賞(100%)
【白人(アメリカ)】オースティン・バトラー『エルヴィス』
【白人(アイルランド)】コリン・ファレル『イニシェリン島の精霊』
【白人(アメリカ)】ブレンダン・フレイザー『ザ・ホエール』
【白人(アイルランド)】ポール・メスカル『aftersun アフターサン』
【白人(イギリス)】ビル・ナイ『生きる LIVING』

▼主演女優賞(60%)
【白人(オーストラリア)】ケイト・ブランシェット『TAR ター』
【キューバ人】アナ・デ・アルマス『ブロンド』
【白人(イギリス)】アンドレア・ライズボロー『To Leslie/トゥ・レスリー』
【白人(アメリカ)】ミシェル・ウィリアムス『フェイブルマンズ』
【アジア人】ミシェル・ヨー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

▼助演男優賞(60%)
【白人(アイルランド)】ブレンダン・グリーソン(イニシェリン島の精霊)
【アフリカ系アメリカ人】ブライアン・タイリー・ヘンリー(その道の向こうに)
【白人(アメリカ)】ジャド・ハーシュ(フェイブルマンズ)
【白人(アイルランド)】バリー・コーガン(イニシェリン島の精霊)
【アジア系アメリカ人】キー・ホイ・クァン(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)

▼助演女優賞(40%)
【アフリカ系アメリカ人】アンジェラ・バセット(ブラックパンサー ワカンダ・フォーエバー)
【アジア系アメリカ人】ホン・チャウ(ザ・ホエール)
【白人(アイルランド)】ケリー・コンドン(イニシェリン島の精霊)
【白人(アメリカ)】ジェイミー・リー・カーティス(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)
【アジア系アメリカ人】ステファニー・スー(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)

()内は白人が占める比率

 2014年時点でアメリカにおける白人比率は約6割、2060年にはそれが約4割になると言われていますが、ノミネーションにおける白人の割合は依然として高く、アフリカ系アメリカ人の候補者は2名しかいません。

 このノミネーション発表で、サプライズとなったのはアンドレア・ライズボローの候補入りと、ダニエル・デッドワイラーの落選です。
 アンドレア・ライズボローが主演した『To Leslie/トゥ・レスリー』はインディペンデントのインディペンデントといえる作品賞で、賞レース終盤になるまで全く話題になっていませんでした。批評家はもちろん、世界各国のオスカーウォッチャーも完全にノーマーク。

 アンドレアが候補入りしたことで、ダニエルデッド・ワイラーが候補落ちした可能性はありますが、話はそう単純じゃありません。

 RottenTomatoesの評価を見てみましょう。

『To Leslie/トゥ・レスリー』
『ティル』
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
『TAR ター』
『ブロンド』

 おやおや?『ブロンド』のポイントが大変なことになっていますね。
 そう、『ブロンド』はノミネーションを獲得していながら、散々な評価な上、ラジー賞の作品賞と脚本賞をW受賞してしまうという筋金入りのクソ映画なのです。

 それだけじゃありません。
 数字をよく見ると、TomatoMETERもAudienceSCOREも『ティル』がトップじゃありませんか。

 つまりは、アカデミー会員が全員でダニエル・デッドワイラーを落としたと言って差し支えなく、マイノリティに寛容と言われているハリウッドですらこんなものなのです。

本日の一曲

 今日はボブ・ディランが「エメット・ティル」を唄ったこの曲しかないでしょう。
 彼がノーベル賞を受賞する背景にはこのような曲作りにもあるのです。

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